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第六十五話:『 ─超大国の王様が持っている超絶威力の爆弾の起動スイッチ(とされている)、手押しボタン』

「梅雨の時期にもなると、やはりジメジメしますね」

『ここ私の世界だから梅雨とかこないのですがね。この湿度は一体なんでしょうか』

「多分プリンを蒸しているのが原因かなと」

『プリン程度で空間全域が湿るわけがないでしょうに』

「二千個ほど作っているので、結構な量かなと」

『急に背景に壁紙が張られているなと思っていたら、これ全部プリンを蒸している鍋ですか』

「y○utuberで稼ぐよりも、神様相手にプリン売った方が稼げるのではと思いまして」

『そういえば神界でもちょっとだけ話題になっていましたね。ここまで鍋を並べるのなら、いっそ業務用の機械でも導入すれば良いでしょうに』

「マリー・アントワネットみたいなことを言いますね」

『しかしこの湿気は少しばかり不快ですね。空調くらいは入れなさい』

「お、一気に涼しくなった。でもさっきまでこの空間にあった湿気はどこに消えたのだろうか」

『基本的には消滅させていますよ。人間のようにゴミ処理場などを作る必要などありませんし』

「あったらあったで、俺の死体が定期的に投棄されてるんでしょうね」

 ※大抵は塵にされているが、普通に死んでいる時もあります。

『貴方の死体も基本的には消滅させていますよ』

「そういえばリスポンする時にはいつも残ってないですね。あと基本的でない時があるんですね」

『人柱とか本当に効果があるのかとか、実際に試してみたい時用などにいくつかストックしてありますね』

「自分の死体が役立っているようで何よりです」

『少しはマイナス面に捉えないのでしょうかね』

「丁寧に扱われても、それはそれで複雑かなと。目の前で俺の死体の葬儀とか毎回されても、リアクションに困ると言いますか」

『貴方がリスポンする度に葬儀をしていたら、喪服が普段着になりかねませんね』

「田中さんも紳士服が普段着ですし、そこまで違和感はなさそうですね」

『異世界転生を案内する神や女神がスーツ姿の世界もなくはないでしょうがね』

「女神様は外見年齢的に厳しそうですよね。就活生っぽくなりますし」

『貴方も成人式くらいにしか見えませんがね。日本人は童顔が多いせいで、異世界転移の際にトラブルが生まれることも多いですね』

「転生だと一から育つわけですから、そこまで問題は起きないのですがね」

『貴方の場合は転生以外の理由もありそうですが』

「あ、そういえばアルバムとかもいくつか記念に取ってあるんですが、見ますか?」

『あるんですか。そういった写真をどうやって撮って、どうやって持ち帰っているのかが気になりますが、そこは触れないことにしましょう』

「ほら、これはリープリスの耳に転生した時のアルバムです」

 ※第九話、ヒロインの左耳。

『少女の横顔でしかない』

「これは幼い時のいじり止め付きT9左ネジの姿ですね」

 ※三十九話。

『ただの鋼材ですね。せめてこう、もっと普通の生物として転生した時のアルバムはないのでしょうか』

「トマトに転生した時とかですかね」

 ※第十七話。

『もはや植物の観察日記ですね。動物の時とかですよ』

「アルマジロとかキリンの時ですかね。ありますよ、はい」

 ※第二十一、六十一話。

『これなら普通にアルバムとして機能はしていますね』

「そもそも普通のアルバムを望むなら、日本にあるアルバムを持ってきた方が早いのでは」

『ぐうの音もでない。しかし貴方の住んでいたマンションは既に荷物が引き払われていますよね』

「実家の方にはあると思いますよ」

『実家ですか……。貴方にも家族はいるのですよね』

「そうですね。両親は俺が死んだことには驚いていましたが、異世界転生を繰り返していることを知ってからはどうでもよさそうにしているそうです」

『それはそれでどうなのでしょうか。というより、現状を知っているのですか』

「叔母がイタコでして。俺を口寄せしようとしてできなかったので、神社の神主をやっている叔父に調べてもらったそうです」

『口寄せできたり、ここの事情を調べられたりする時点で本物ですね。意外とサラブレッドだったりするのですかね』

「両親は普通のサラリーな仕事をしていますから、そこはなんとも」

『今度調べておきますかね。ところでそろそろ転生の時間ですね』

「おっとそうでした。ではおみくじを引きましょうか」

『六百二十九ですね。また随分と深い数字で』

「ええと、withinさんより、『─超大国の王様が持っている超絶威力の爆弾の起動スイッチ(とされている)、手押しボタン』」

『また随分と極端な』

「役割が決まっているので、これはこれで楽だとは思いますがね。それじゃあアルバムとお土産の方楽しみにしててください」

『アルバムはいりませんよ』


 ◇


『ふむ。遠縁ではありますが、忍者の血筋がありますね。いや、オリーブオイルを使う忍術に血縁もなにもあったものではないのですが……』

「ただいま戻りましたー」

『おかえりなさい。調べ物は一旦この辺にしておきますか』

「何か調べていたのですか?」

『貴方の出生について少しばかりですね。親の顔を見てみたいと思ったことが何度もあったので、色々と溜飲を下げる結果になりましたね』

「わざわざうちの両親に挨拶しに行く必要とかはないですよ」

『そういう意味じゃない。では報告を。超大国の王様が持っている超絶威力の爆弾の起動スイッチ、手押しボタンでしたか』

「そうですねワッゼスゴカ国とかいう―超大国の王、ウンダモシタが持っている超絶威力の爆弾の起動スイッチに転生してきました」

『その謎のタメは必要なのですか。あと方言が濃そうな国ですね。お題の文字に(とされている)とありましたが、本物でしたか?』

 ※一ではなく―でした。個人的に―は二個並べてほしいですね。

「本物でしたよ。歴代の国王が代々継いできた秘密兵器アイツンチバクハーという超絶威力の爆弾でした」

『威力の規模がそうでもないように感じますね』

「本来は専用の装置に魔力を通すことで、起動することができる仕掛けだったのです。しかしウンダモシタが魔力を持たない特異体質でして。新たにスイッチ型に改良されたのです」

『その改良ついでに転生したと』

「はい。丁度王座のところに。こちら写真です」

『丸っこい王様が座っている王座の右腕を置くところの先にありますね。また随分と押しやすそうな場所ですね』

「椅子から立ち上がる時とかしょっちゅう手が置かれていましたね」

『そんな予感はしていました。しかし爆弾の起動スイッチが頻繁に押されては大惨事なのではないですかね』

「そこは大丈夫です。製造ミスで接触不良気味だったので」

『大丈夫じゃないですね。そもそも核兵器のスイッチのように強大な兵器なのですから、構造的に簡単に押せないようになっているだけなのでは?』

「いえ、設計図的には指でポチっと押すだけで起動する感じでしたよ」

『それはそれで設計ミスですね。むしろそのことに気付いた人物が製造過程で調整したまであるのでは』

「そうなんですかね。ちょっと田中さんにメールで聞いておきます」

『田中だったら考えて調整していたんでしょうね』

「でもまあ周囲の大臣達は毎回冷や汗でしたね」

『でしょうね』

「俺が声真似で『ピピッ』って言うだけでビクビクしてましたよ」

『でしょうね。そして性格が悪い』

「ウンダモシタは王様としての仕事はそつなくこなしていたのですが、少々短気な王様でした。何かしら気に食わないことがあると、すぐに椅子を叩いたりしていましたね」

『スイッチの上を叩いていそうですね』

「痛かったです」

『でしょうね』

「なので画鋲とかでガードしていましたね」

『悶絶してそうですね』

「してましたね」

『そもそも画鋲とかどこから出したのですか』

「田中さんが俺の体内に仕込んでおいてくれたようです」

『王が癖などでスイッチを押さないように準備をしていたようですね』

「でもまあある時、隠し持っていた画鋲が見つかって、没収されてしまったのです」

『最初の一回で見つからなかったことが驚きですね』

「なのでそのへんで拾った色々なものでガードを試しましたが、なかなかしっくりとくるものがありませんでした」

『そのへんで拾うという行為が既に無生物としておかしいですよね』

「まずは生卵、これは耐久面的にダメでしたね」

『王の精神には効果あったと思いますよ』

「次にオリーブオイル、これも耐久面的にダメでしたね」

『王の精神には効果あったと思いますよ』

「次に大臣の手を引っ張ってみました。衝撃は緩和されましたが、おっさんの手に守られるというのが不快でしたね」

『大臣は貴方以上に不快な思いをしたと思いますよ』

「次は誕生日プレゼントに九歳の王女からもらった手作りの王冠」

『そのチョイスができる貴方の容赦のなさは逆に好感を持てますね』

「ウンダモシタは手作りの王冠を潰す直前で腕を止めましたね」

『意外と優しい王ですね』

「ウンダモシタは王として特殊な訓練を受けていまして。命の危機が迫ると本能的に体が反応するようになっていたのです」

『娘の手製の王冠を潰す行為にどんな命の危機が』

「どうもその手作りの王冠には毒針が仕込んであったようです」

『思ったよりも国の内情がドロドロしていそうですね』

「ウンダモシタは自分の体が反応したことで、毒針の存在に気づきました。そして娘が自分の命を狙ったのだろうかと悩むこととなります」

『それよりも気付いたら王座の腕を置く場所に、手製の王冠が移動していることに気付いてほしかった』

「ウンダモシタは大臣に相談しました。大臣も親身になって考えましたが、やはり具体的な調査をしてみないことにはお手上げだと、ギプスを嵌めた両手を上げます」

『いらない情報に見えて、両腕を折られても親身に話を聞いてくれる大臣という内容が、信用できる相手だということを補完していますね。あと両腕ともガードに使ったのですね』

「すぐ近くにあったので、つい」

『仲間を盾にする悪役と思考回路が一緒ですね』

「ウンダモシタは調査をするべく、国一番の名探偵のベニシャーロック=ホーリューズに依頼をしました」

『最近紅鮭も幅広い職業についていますよね』

「せっかくの転生ですからね。やりたいことやったもん勝ちってやつですよ」

『貴方が言うと説得力ありますよね』

「ベニシャーロックは持ち前の推理能力で、王冠に毒針を仕込んだのが王女ではなく、勇者であることを突き止めました」

『勇者の陰謀ですか。昨今ではよくありますね』

「勇者はウンダモシタを暗殺し、そのどさくさに紛れて超絶威力の爆弾、アイツンチバクハーを手に入れようとしていたのです」

『名前が名前なので触れませんでしたが、実際のところどれくらいの威力なのでしょうか』

「田中さんの分析によれば、銀河系が一つ消えるそうです」

『超絶過ぎる。ファンタジー世界にあってはいけないタイプですね』

「この世界では解析力が不十分だったようでして。大陸一つ分程度を消滅させる威力と誤分析の結果が伝わっていて、勇者としては魔王のいる魔界を滅ぼすのに丁度良いと思っていたようです」

『創造主辺りが作ったのでしょうが、使い所がなくて封印していた感じがしますね』

「ウンダモシタは勇者を呼びつけ、真実を問い詰めます。ベニシャーロックが用意した証拠により、誤魔化すことができなくなった勇者は逆上し、ウンダモシタに襲いかかります」

『強硬策にでましたか。勇者らしくはないですね』

「ウンダモシタは襲いかかる勇者の剣を、咄嗟に俺を盾に防ぎました」

『王も貴方も似た者同士ですね』

「俺もベニシャーロックを盾に防ぎました」

『光景が酷い』

「ベニシャーロックも大臣を盾に防ごうとしましたが、両腕の折れている大臣を見て、良心が邪魔をして防ぎきれませんでした」

『こんど紅鮭に労いの意味を込めて御中元でも送ってあげなさい』

「勇者は倒れたベニシャーロックを指して『え、なんでこの人巻き込まれたの?まあいいや、次はお前の番だ』と剣を構え直します」

『勇者でも見逃す肉盾』

「しかしウンダモシタは相手が勇者だからと怯むことはありませんでした。王座を片手に、迫りくる勇者に立ち向かったのです」

『椅子以外を使えと』

「ぶつかり合う剣と俺、それはもう激しい戦いで周囲の人達が手に汗を握る攻防でした」

『手に握った汗の意味は別なのでしょうが。ピンポイントで貴方の部分を叩きつけているところに故意を感じますね』

「そして俺の右ストレートが勇者の顎を捉え、決着」

『ついに反撃しちゃいましたか』

「何度も剣を叩きつけられたら不快にもなりますからね。女の子相手ならまだしも」

『ブレませんね』

「王は立ち上がれなくなった勇者を見下ろし言います。『勇者でありながら楽な道を選ぼうとは言語道断。その軽率さによって失われた二人の命、牢獄で償うのだ』と」

『紅鮭とあと一人は誰ですかね』

「大臣ですね」

『さては盾に使いやがりましたね』

「大臣としてはまともでしたが、九歳の王女に欲情しているような男だったので、つい」

『ならよし』

「世界を救う役目を与えられた勇者を投獄してしまったウンダモシタは、仕方なくも代わりに魔界に行って魔王の侵攻を止めることとなります」

『わりと責任感は強いんですね』

「魔王は勇者ではなくウンダモシタが現れたことに驚きましたが、事情を聞いてウンダモシタの要望を快く受け入れました」

『魔王の方は人格者だったようですね』

「どちらかと言えば、超絶威力の爆弾のスイッチがついた椅子をブン回しながら現れるような相手に怯んだのかと」

『確かにやばい人ではありますね』

「それに魔界の方にはアイツンチバクハーの正しい威力の情報が伝わっていたようでして」

『何が何でも王を止めたかったんでしょうね。しかしどうしてまた』

「過去に田中さんがアイツンチバクハーの取り扱い説明書を魔王城に忘れていったようで」

『どこにでも現れますね、田中は。魔界が侵攻していたのって、その兵器が危険過ぎるから回収しようとしていただけなのでは』

「こうして世界は平和になったのですが、ウンダモシタはふと気づきます。『これだけスイッチに衝撃を与えたのに、アイツンチバクハーが起動しないのはおかしい』と」

『おかしいのは散々衝撃を与えてきた王なのですがね』

「田中さんが製造した段階では、接触不良気味な程度だったので、それなりに頑張って押し続ければ起動していたのですが、いつの間にか回線がショートしてしまっていたようでして」

『スイッチの上で生卵やオリーブオイルやらぶちまけていたら、そりゃショートもしますよ。貴方のおふざけのおかげで、被害は最小限になったわけですか』

「そうですね。犠牲者がでなかったのは何よりです」

『清々しい顔をしていますが、貴方が二人ほど肉盾として剣の餌食にした事実は覆りませんよ』

「話し合いでも世界は平和にできる。そう実感したウンダモシタはアイツンチバクハーそのものを完全に封印することにしました。俺も王座から取り外されることとなりお役御免といったところです」

『椅子を武器に暴れていた王にしては綺麗な流れで終わらせましたね』

「そんなわけでお土産ですが、いらなくなったアイツンチバクハーをもらってきました」

『捨ててきなさい』



勇者の肋骨書籍化企画の締め切りまで二週間を切りました。

120件以上の応募となっておりますが、まだまだ応募中ですので書籍化記念に是非応募してください。


以前告知した際に気付いていなかったのですが活動報告は100件までしか投稿できなかったようで、一部の人が投稿できない状態にあったようです。申し訳ない。

『勇者の肋骨書籍化記念企画追加投稿場所』という報告スレッドでも受付をしております。

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