前へ次へ
63/85

第六十三話:『勇者が第六感を身に付けても満足しなかった結果、限界突破の修行で身につけた第七感』

月一更新の予定で書いていたのは良かったけど、投稿を忘れていました。てへ。

 

「おやつができましたよー」

『そうですか。貴方がこの空間にいる時は時間の流れを顕著に感じますね』

「俺がいない時の生活習慣がめちゃくちゃなだけでは」

『まあそうですね。一日の体感が二十四日だったり二十四ヶ月だったり、二十四年だったりしますからね。こうして二十四時間周期になると忙しないですね』

「女神様も大概ですよね」

『神としては普通なのですよ。その感覚に追いついている貴方が人間として異常なだけなのです』

「でもお腹とか空かないんですか?」

『そもそも神は食事が必須ではありませんからね。美味しいものを食べたいという欲求はありますから、私は食べたくなった時にお腹が空いたと思いこんでいます』

「つまり目の前に美味しそうなものを置かれたら、常にお腹が空くと」

『否定しづらいところですね。さて、本日のおやつはなんでしょうか』

「アイスバーです」

『市販のアイスバーっぽいですね』

「ラッピングまで頑張ってみました」

『確かによくよくみると、貴方が作ったと思わしきデザインですね。なんで野菜とかによくある「私が作りました」的な写真があるのですか』

「俺が作ったって分かる方が安心じゃないですか」

『貴方以外が作っていたら、この空間に第三者がいることになりますからね。別の意味では気になったでしょうね。とりあえず食べてみましょう。……ふむ、ふむ』

「味は普通に美味しくしてありますよ」

『強いて言うのであれば、こういった安価なアイスバーのラッピングの中身がブランド系アイスというのはギャップ的に不満がありますかね』

「神様市場で注文した材料ですからね。クオリティ下げる方が難しいんですよ」

『それもそうですね。素材の味を活かすだけでも逸品になりますし』

「個性ならある程度出せるんですけどね」

『む、当たりが出ましたね』

「おめでとうございます。もう一本どうぞ」

『普通ならば幸運なのでしょうが、貴方が用意している時点で当たり外れは確定しているわけですよね』

「いえ、一応俺にもわからないようになっていますよ」

『何それ怖い。む、また当たり――これ転生先が書いてませんか』

「一応転生ガチャと連動しておいたんですよ。鷹野 砦さんより、『勇者が第六感を身に付けても満足しなかった結果、限界突破の修行で身につけた第七感』ですね」

『文字が小さくて読み辛い』

「短い転生先だったら良かったんですけどね。意外な欠点です」

『女神の食べたアイスの棒に書かれている内容で転生先が決まるというシステム自体が致命的な欠陥なのでは』

「女神様が舐めることで俺の未来が決まるってのは中々センシティブな――」

『ほら、さっさと転生してきなさい』


 ◇


『彼の残したアイスバーもこれで最後ですね。何かのバグで棒に書かれている文章がくじだったり明日の天気だったりと、忙しなかったですが……これはおみくじでしょうか。ええと、待ち人即来た――』

「ただいま戻りまし――」

『そい』

「リスポン。何かえげつない速度で飛んできましたね。前の体が欠片も残ってないや」

『侵入者かと思って間違えました』

「そういうこともありますよね。さっきのはアイスバーの棒だったかな。なにやらおみくじのような台詞が書いてありましたが」

『そい』

「リスポン。アイスバーの袋が同じ速度で飛んできた」

『後ろにあったゴミ箱に投げ入れようとしたのですが、肩の力を抜くのを忘れていました』

「そういうこともありますよね。ゴミ箱どころか俺の体ごと消し飛んでますけど」

『勇者が第六感を身に付けても満足しなかった結果、限界突破の修行で身につけた第七感でしたか』

「はい勇者コーシルという勇者の第七感になってきました」

『確かに第六感くらいは持っていそうな名前ですね』

 ※二十年くらい前の映画、タイトルは第六感を英語で。

「コーシルは努力家気質な勇者で、自分が勇者だと気付いてからずっと村の近くでレベリングをしていた男でした」

『いますよね。最初の村付近で延々とレベリングする系勇者』

「レベルもほぼカンストまで上がっていましたが、それでも足りないとスキル取得の特訓までしていましたからね。感覚強化から第六感、そしてそれすら超える第七感といった具合です」

『五感は視覚聴覚触覚味覚嗅覚、第六感は直感を意味しますよね。第七感の存在については主に高次元の存在との交信能力。天才のひらめきや聖女などが得る天啓、超能力者が扱うテレパシーとかが該当しますかね』

「そうですね。直感はこれまでの自分が培ってきた経験から生まれる解答ですからね。第七感は基本的には自分では得られない情報を入手する手段ってところですよね」

『そう考えると概念体転生としては割と理に叶っているということになりますね』

「はい。なので俺はコーシルの頭の中に住み、必要な時に語りかける第七感として冒険を共にしました」

『修行の果に頭の中に他の人格が住み着く結果は、修行としては失敗なのでは』

「『よろしくなっ』って声を掛けたら凄くビックリしてましたね」

『でしょうね。最終的に疎まれて消される未来までは予測できました』

 ※第六話参照。

「でもまあ実際のところ、俺という第七感があるおかげでコーシルはレベリングを終了してすぐに冒険に出る決断ができましたからね」

『ふむ。何かしらの助言をしたのでしょうか』

「はい。『魔王のレベルは七十くらいだから、もうソロでも倒せるよ』と」

『ラスボスの情報は知りたくなかったでしょうに』

「ゲームならそうでしょうけど、現実的に世界を救うのであれば有益な情報だと思うのですが」

『言われてみればそうですね。達観者視点になっていました』

「コーシルは近くの王国に行き、勇者としての実力を示し、魔王を倒すための軍資金をもらって酒場へと向かいました」

『レベルが既に魔王を超えていれば、実力を示すのは楽そうですね』

「俺は助言として『あの王様ヅラだよ』と伝えましたね」

『その助言で一体勇者になんの得が』

「もらえる軍資金が増えました」

『王様を脅さないように』

「仲間選びでも俺の助言は役立ちましたよ」

『単純に貴方の好みだけで選んでいるような気もしそうですが』

「例えば戦士の男を選ぼうとした時、『そいつ、途中に立ち寄る街で両親の仇を見つけて話も聞かずに離脱するよ』とか」

『地味に嫌な離脱イベントのネタバレですね。ですがそれはそれで仲間にしなければ、その戦士は一生両親の仇に会えないのでは』

「コーシルはその戦士に街の名前を教え、そこに行けば両親の仇が見つかるとアドバイスをして見送りました」

『一応放置しない程度には人間味があって良かった』

「次に格闘家の男を選ぼうとした時、『そいつ、途中に立ち寄る街で両親の仇を見つけて話は聞くけど離脱するよ』とか」

『両親の仇を探している率が高い。しかも話を聞きながらも離脱するのは質が悪い』

「コーシルはその格闘家に街の名前を教え、そこに行けば両親の仇が見つかるとアドバイスをして見送りました」

『三人目も両親の仇じゃないでしょうね』

「三人目の僧侶の男を選ぼうとした時、『そいつ、途中に立ち寄る街で両親の仇とバレて、襲われて離脱するよ』と」

『加害者側がいましたか。しかもこれ一人目か二人目かの両親の仇ですよね』

「コーシルはその僧侶に町の名前を教え、そこに行けばとりあえずバレないよとアドバイスをして見送りました」

『無理に途中に立ち寄る街でことを済まさずとも、直接言えば良かったのに』

「戦士と格闘家はもう旅に出てましたから」

『灯台下暗しでしたのに、せっかちでしたね』

「四人目は魔法使いでしたが、コーシルが選ぼうとした時、『そいつ、実は女の子だよ』とアドバイスを」

『逆にまともなアドバイスに聞こえる不思議』

「コーシルは迷わず魔法使いを仲間にしました」

『勇者の嗜好が少し透けましたね』

「まあ結局のところ、大半が離脱イベント持ちだったので仲間にできたのはその男装魔法使いと、生き別れの妹だった暗殺者でしたね」

『割と感動の再会とかになる要素だったでしょうに、酷いネタバレをしやがりましたね』

「でもこの酒場で仲間にできなかったら、途中に立ち寄る街で敵として戦う運命だったんですよね」

『途中で立ち寄る街でのイベント率高くないですかね』

「一応酒場で仲間になる可能性のあった全員の何かしらのイベントが含まれている街ですからね」

『もうちょっと上手くイベント発生地を調整できなかったのか』

「仲間が増え三人となったコーシルは冒険を再開しますが、途中に立ち寄った街で魔王の配下である四天王と出くわします」

『一応聞きますけど、途中に立ち寄った街って全部共通なのですかね』

「共通ですね」

『つまり大勢の両親の仇やらと遭遇したりして、離別したりするイベントが集約している街と』

「その町の名は『起点の街フラーグ』」

『フラグだらけの街というわけですか。その世界を造った創造主って結構初心者だったりしますかね』

「そうですね。とりあえず初めて創ってみましたって感じでしたね。人間同士のバランスとかは良かったんですが、共通ルートが多過ぎるかなーといった感じで」

『転生者にダメ出しまでされますか。しかし勇者周りの人間のイベントを管理している当たり脚本家気質の創造主のようですね』

「そうですね。実際にこのような台本とかありましたし」

『妙にキャラクターのイベントに詳しいと思ったら、台本を手に入れていましたか』

「転生前に世界の説明受けている際に、ちょっと勝手に借りておいたのですが返し忘れていました」

『それは盗んだと言うのです』

「まあ話は戻して、四天王と対峙したコーシルですが、動きが悪く苦戦を強いられていました」

『魔王すら超えているレベルの勇者なのに、苦戦する要素でもあったのですかね』

「そうですね。一応負けイベントではありましたが、レベルの関係上倒せる感じではありましたよ」

『あー、たまにありますよね。レベリングのし過ぎで負けイベントなのに戦闘に勝ってしまう時』

「一応助言もしておいたのですがね。『そいつ、お前の親父さんだよ』とか」

『それが原因でしょうに。ネタバレにも程がある』

「剣が鈍り、負けそうなコーシルでしたが『そもそも生みの親なだけで、父親として何もしてこなかったような奴相手に手心を加える必要ないよね』といった俺の助言もあり、なんとか勝利」

『第七感に悪いように操られていますね』

「しかしここで男装の魔法使いのイベントが発生し、呪いの腕輪を装備してしまった魔法使いは半獣人の姿へと変貌してしまいます」

『一応魔法使いにもイベントがあったのですね』

「コーシルは迷わず腕輪の件を保留することにしました」

『勇者の嗜好が大分透けましたね』

「無事四天王を全員倒したコーシルは魔法使いと共に魔王城を目指します」

『四天王が三人ほどついでに倒されている挙げ句、生き別れだった暗殺者の妹が離脱していませんかね』

「四天王なら全員一緒に出ていましたよ。苦戦したのは父親くらいで、後はサクっと倒していました」

『レベル的にはそうでしょうが、途中に立ち寄った街で全部の四天王が出てくるのはどうなんですかね』

「でも現実的に考えると、魔王を打倒しようとする勇者を倒すのであれば四天王総勢で仕掛けた方がよくないですかね」

『理には適っていますが釈然としない』

「ちなみにコーシルの妹は単純にコーシルの男装ケモナーとしての嗜好に理解を示さずに離脱しました」

『ネタバレ系かと思ったら、いっそ知らない方が良かった内容でしたね』

「妹は女装ケモナー派でしたからね」

『血は争えない』

「そしてついに魔王城へと到着し、魔王と対峙します」

『魔王城に向かう途中に立ち寄った街が一箇所しかない気がする』

「陸続きにありましたからね」

『マップ制作も初心者過ぎる』

「数多の呪いを受け、獰猛な獣の姿となっていた魔王を見て、コーシルは戦慄しました」

『嗜好からしてありの範囲ですかね』

「倒した父親が最後に残した『私は魔王様を一目見た時からついていこうと決意したのだ。お前に魔王は倒せない』の意味をそこでようやく理解していましたね」

『血は争えない』

「コーシルは悩みました。魔王を生かすのは当然としても、魔王を倒してしまえば世界に蔓延るあらゆる呪いが解けることを知っていたからです」

『ちなみにソース元は』

「こちらの台本に書かれていました」

『でしょうね。魔王を倒せば性癖ストライクな魔法使いと魔王の姿が元に戻ってしまうと』

「コーシルは揺れます。魔王系ヒロインや男装系ヒロインも守備範囲ではありましたが、欲を言えば獣要素もあってほしいと」

『魔王をヒロインとして捉えている点はさておき。力を求め続けたレベリング系勇者のくせに、嗜好で迷うのはどうなんですかね』

「有り余る力を持つと、力の使い道とか興味を無くすんですよね。ちょっと足りないくらいが一番モチベーション上がりますし」

『まあその辺は納得しますが。貴方が言うと無駄な重みがありますね』

「ですがそんな時こそ、第七感である俺の助言が役に立ちました」

『ろくでもないことを言ってそうですね』

「『大丈夫だ。世界に蔓延する呪いを解くためのフラグをさっき途中に立ち寄った街で満たしていないから、魔王を倒しても呪いはそのままだぞ』と」

『何故世界を救う規模の大切なフラグを教えなかったのか』

「俺の助言を聞いたコーシルは迷わずに魔王を倒し、魔王軍の脅威はなくなりました」

『でも世界に蔓延した呪いはそのままなんですよね』

「深刻そうな呪いについてはこちらの攻略本を参考に解除させましたから、大丈夫ですよ」

『台本だけじゃなく、攻略本まで盗んでいましたか』

「ちなみに俺の最期ですが、台本と攻略本を盗んでいたことが創造主さんにバレまして」

『もはや借りたとすら言わなくなりましたね』

「真っ赤な顔をされながら引き剥がされ、追い出されちゃいましたよ」

『真っ赤な顔の理由がちょっとイマイチわかりませんが……そちら、読ませてもらっても良いでしょうか』

「どうぞ、元々お土産ですし。ちなみに創造主さんの手製のようです」

『そりゃそうでしょうよ。どれどれ……ああ、これ注釈とかに結構な黒歴史要素ありますね。これを見られたなら怒りもするでしょうよ』

「俺は結構好きだったんですけどね。そう言っても顔を真っ赤にしただけでしたが」

『世界の創造の練習として、自分の黒歴史ノートをそのまま具現化でもしたのでしょう。……ということは、さてはその創造主もケモナー……まあ、人も神も趣味嗜好にはみだりに触れるものではありませんね。この二冊はコピーしてから返却しておきましょう』




前へ次へ目次