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第五十六話:『なぜか天井からぶら下がっている2mくらいの紐』


「あ、また死にましたね。難易度高いですよね、このゲーム」

『死にゲーというジャンルですからね。死んで覚えていきつつ、最適解を自分で導き出していくことに楽しみを見出だせるのです』

「ちょっと親近感覚えますね」

『この手のゲームの主人公に親近感を覚えるのはどうかと思いますが。そもそも貴方は死に戻り系の転生はしていないでしょう。毎回別物ですし』

「この場所には死に戻りしてますよ」

『それもそうですね。死んだ回数で言うのなら、この場所が一番の高難易度マップとなりますかね』

「女神様を攻略するまではがんばりますよ」

『私は非攻略対象ですので。そもそもクリア条件がこの場所に帰ってこないことなのですがね。む、なかなかタイミングがシビアですね。ちょっと疲れましたので交代です』

「俺は遠慮しておきますよ」

『おや、臆しましたか』

「いえ、このゲーム生前にRTAしていたので、一気にクリアしちゃうのも悪いかなと」

※リアルタイムアタック(Real Time Attack)、いかに早くクリアするかを突き詰めた遊び方。

『よもや異世界転生としての才能をこれで磨いていたというわけではないですよね』

「死んでも人型でやり直せるようなイージーゲームじゃ異世界転生のノウハウは学べませんよ」

『ヤドカリや土でニューゲームしてる人の言葉は重みがありますね。あっても嬉しくないですが。まあゲームプレイの参考にしたいのでやりなさい』

「では失礼して。久々だからちゃんとできるかなー」

『予防線を張っていきますね』

「よしクリア」

『残りを一気にノーミスでクリアしましたか。嘘ではなかったようですね』

「このキャラカンストしてましたし。自分でやってた時はレベル縛りとかしてましたからね」

『縛りプレイは生前からの性でしたか。やはり器用さは高いですね』

「ヤドカリと比べたら、指は二倍以上もありますからね」

『ハサミを指にカウントするのもどうかと思いますが。確かにこれまで腕がない異世界転生もありましたし、器用さを磨く機会はいくらでもあったでしょうね』

「大抵は機械の体になった時とかに精密動作に慣れてますかね」

『もう少し人らしい成長を遂げたらどうなんでしょうかね』

「現地人とのコミュニケーションで色々と学んではいますよ」

『人間としての器がまるで成長していないように見受けられるのですがね』

「とりあえず自分で無双すればいいや的な考えは減ったと思いますよ」

『間接的に世界に致命傷を与え続けるのもどうかと思いますが』

「おっと、そろそろガチャの時間ですね」

『異世界転生の時間ですね。ガチャがメインにならないように。では引きます』

「お、虹色のタマゴですね」

『ソーシャルゲームの影響でガチャの認識が広くなっていますが、本来はカプセルタイプのものがガチャの由来なのですよね。まあ中に入っているのは紙一枚なのですが』

「お、おめでとうございます。当たりです」

『貴方の転生先に当たりもなにもあったものではないと思いますが』

「いえ、当たりです。もう一回引けます」

『駄菓子ですかね。中身なしで当たりというのはどうなのでしょうか』

「今度は中身入りですね。えこーさんより『なぜか天井からぶら下がっている2mくらいの紐』」

『これのことですかね。なぜかぶら下がっているのですが』

「これのことでしょうね。ちなみにこちらは俺が個人的に設置したものです」

『引いてみましょうか。不服な結果な場合、貴方に罰を与えれば良いわけですし。よいしょ。……何も起きませんが、なんですかこれ』

「紅鮭師匠を呼び出す紐です」

『なんてものを』

「あ、メールが来ました。ちょうど今から異世界転生するそうなので、その後で来るそうです」

『コンビニに行くのと同じ感覚で異世界転生しないように。来なくて結構と返信しておいてください』

「了解です。それじゃあ俺もちょっと異世界転生ってきます」

『やっぱりコンビニ感覚』



『紅鮭ではありませんが、彼を呼び出す為の紐くらいならばあっても良さそうですね。この辺に……しかし仕掛けはどうしたものか』

「ただいま戻りました。おや、俺を呼び出す紐でもこしらえましたか」

『よく分かりましたね。ですが引く=貴方が来るという仕組みをどのようにするかで悩んでいます。貴方の足元にゲートを発生させるとかでしょうかね』

「まあ女神様が俺を呼びたいと思えば、紐を引かなくても現れますよ」

『それはそれで怖いのですがね。それで、なぜか天井からぶら下がっている2mくらいの紐に転生してきたのでしたね』

「はい。概念体の転生はやはり癖がありますよね」

『普通紐は概念体ではないと思うのですが。つまりあちこちに出没したと』

「理由がなければどこにでもぶら下がれる紐、それが俺でした」

『ヒモですか。今も似たようなものですね』

「意味合いが違っている気がする。料理はしっかり頑張っているので大目に見てください」

『それは今後私を満足させられるかどうかですね。しかしどこにでもぶら下がっている紐ならば、気になったものは引いてしまいますよね。そして貴方のことですから、ロクな結果にはならないと』

「ランダム効果にしておいたので当たり外れはありましたね」

『ランダム効果ですか。悲惨なだけよりはいくらかマシですかね』

「まあ最悪命を失う危険性もあったので、大抵の人はその存在を知りながらも引くような真似はしませんでしたね」

『ピンキリで下は命を失うレベルですか』

「攻撃魔法にも色々ありますからね」

『ランダムな攻撃魔法が降り注ぐのなら、誰も引かないと思いますがね』

「たまにアイテムとかを落とすと、物欲まみれな人が引いてくれるんですよね」

『やり口が狡いですね。そもそもどうやってアイテムを仕入れたのやら』

「そこはほら、ダンジョンとかにぶら下がっている間に魔物をサクッと仕留めれば」

『ぶら下がっている紐が勝手に魔物を退治しないように。傍目には何かしらのトラップにしか見えないでしょうが』

「手も足もないので、久々のレモン汁カッターで倒してましたよ」

※主人公は魔法か忍術かはしらないが、レモン汁とかオリーブオイルとか、液体を放出できるよ。原理は女神様も知らないよ。作者も知らないよ。

『紐がレモン汁まみれなのはちょっと嫌ですね』

「暫くすれば乾いて柑橘系の香りになりますので」

『天井からぶら下がっている紐から柑橘系の香りがしたところで安堵する要素はないですがね』

「ちなみにこちらが俺を引いた現地の方々のランキングとなります」

『テレビとかでよく見るめくるタイプのボードですね。一体いつ用意したのかは聞かないでおきましょう』

「ではまず十位、勇者」

『いるとは思いましたが、まさか十位でしたか』

「勢いは悪くなかったのですが、ちょっと運が悪かったですね。まさか四回目でテンペストライトニングを受けて即死するとは」

『別の異世界の雷属性最強の魔法をランダムに含めないように』

※三十四話参照

「続いて九位はさすらいの冒険者、紅鮭丸」

『紅鮭が普通の冒険者をしているのは珍しいですね。貴方が関与していると知っていれば、もう少し慎重になったはずなのですが』

「景品に紅鮭を入れていたせいで、結構誘惑に負けてましたね」

『紅鮭に拘っている異世界転生者ですからね』

「まさか五回目で煉獄剛炎雷鳴冥界蹴・闇討を引き当てるとは思いもしませんでしたよ」

※第二話参照

『まさか自分の編み出した奥義が派生して飛んで来るとは思わなかったでしょうね』

「大したアレンジじゃないですけどね。なんかこう、意識と視界の外から叩き込む程度で」

『原子レベルで分解される蹴りを意識の外から叩き込まれたら普通は死ぬでしょうね』

「第八位は勇者」

『さっきいましたよね』

「二代目です」

『次世代の勇者も屠っちゃいましたか』

「運は良かった方なんですけどね。あ、でも二代目と言っても俺から見て二代目って意味ですよ」

『そうでしょうね。本当の意味の初代勇者が貴方によって死んでいたら、勇者として語り継がれるはずがないですし』

「六回目でタライが直撃しなければ死なずに済んだのですがね」

『元々ギャグテイストは感じていましたが、タライで勇者が死ぬのはどうなのでしょうか』

「元々瀕死だったんですよ。前の回でエリクサーを引いていたので、一か八かの賭けに敗れたって感じですね」

『良いアイテムは出るのですね。しかし勇者が一か八かに敗れるのは主人公補正が足りてませんね』

「俺相手に主人公補正が通じるわけないじゃないですか」

『そういうことにしておきましょう』

「では次、第七位は勇者」

『三代に渡って仕留めちゃいましたか』

「いえ、この勇者は四代目です」

『上位に三代目がいる展開が見えた』

「『俺は三代目を超えるんだ』が最後の台詞でしたね。ちなみに死因は七回目で手に入った偽のポーションを飲んだことによる毒死です」

『当たりのように見せてハズレを引かせるスタンスは嫌いじゃないですね』

「六位は勇者、これは三代目です」

『惜しかったですね。後少しで並べたのに』

「死因は八回目で手に入った毒のポーションを飲んだことによる毒死です」

『毒のポーションと分かって飲んだ神経を疑いますね』

「毒耐性を持っていたようで、喉が渇いていたからと飲んでましたね」

『でも死んだと』

「俺が調合した毒が毒耐性程度で防げるわけないじゃないですか」

『納得してしまえるのがなんとも。ですが毒耐性というスキルがあるのなら、合わせてあげなさい』

「五位はなんと魔王」

『魔王も毒牙に』

「九回目で引いた俺の鉄拳で死にましたね」

『それただ気まぐれで殴ってませんかね。あと手も足もなかったのでは』

「スキルの名前ですよ、俺の鉄拳とかいう使用者のレベルや能力に応じた固定値ダメージを与える技です」

『紐とは言え、勇者を倒してきたことでレベルは高そうですね』

「レベルは二千くらいありましたね。魔王は九十九です」

『その雑な限界突破、さては創造主がランキングにいますね』

「よくおわかりで。四位がそう、創造主です」

『当てておいてなんですが、創造主を殺めてしまったのですか』

「いえ、これは引いたランキングです。創造主さんですが、十回目以降は引かなくなりました」

『学習能力があるようでなによりです。いえ、十回も引いているということは学習能力がないのでしょうか』

「好奇心旺盛な可愛い創造主さんでしたが、オリーブオイルまみれになった後は泣きながら逃げていきましたね」

『女型の創造主でしたか。女性には優しいですよね貴方』

「ランダムですから、そういうつもりはなかったんですけどね」

『どうだか』

「テンペストライトニングや煉獄剛炎雷鳴冥界蹴・闇討も打ち込んでましたし」

『完全にランダムでしたか。それだけあって、オリーブオイルで心が折れたというのがなんとも』

「直前に目にレモン汁叩き込まれてましたからね。あれって結構くるんですよね」

『並大抵の技なら耐えますが、精神的に屈辱な行為には弱かったりしますからね』

「さあ、いよいよベスト三ですよ」

『魔王か勇者かどちらかって感じですかね。ああ、あと田中がいるでしょうね』

「三位は山田」

『やや予想外のところから食い込んできましたね』

※第五話参照時針兄貴、二十五話にて山田と発覚。

「引いた回数はなんと八十二回」

『急に回数が飛びましたね。しかし流石は転生者、やりますね。紅鮭はまあ……置いといて』

「結局飽きるまで引いてましたからね。やりますよ山田は」

『創造主以上であることには違いありませんね』

「飛び交うレモン汁やオリーブオイルを次々と回避してましたからね」

『今更ですが、貴方の紐ガチャって相当ゴミクズなラインナップじゃないですかね』

「二位は田中さん、百回ときりの良い回数でフィニッシュしていきました」

『几帳面な男ですからね。そして当然のように貴方の罠を回避したと。ただ予想外なのは一位でなかったことでしょうか。田中なら一位で然りと思ったのですが、一位は誰なのでしょうか』

「一位は謎の女R」

『本当に誰ですか』

「そう名乗られたので、そうとしか。ああ、でも俺のことを見て『さてはあの時の縄ね』とか言ってましたね」

『ああ、把握』

※四十七話参照。田中さんの恋人で追っかけ転生している人。

「なんか気が狂っていたかのように引いてましたよ」

『ひょっとして田中の後じゃありませんでしたか』

「よくおわかりで」

『わからいでか。察しが悪すぎでしょうに』

「リティカっぽい感じがしたんですけど、性別も違ったしなぁ」

『あってますよ。そもそもその勇者、元は女性だったって言ってたじゃないですか』

「ああ、そうだったんですか。てっきり男性縛りでもしているのかと」

『恋人の殿方を追いかけるのに、自身が男性になり続けるメリットはないと思いますがね』

「結局その勢いのまま引っ張られ続けて、ぶちんと千切れちゃいまして。なんというか呆気なく死んじゃいましたよ」

『勇者四人と魔王一人を仕留めて、ついでに創造主の心も折ってあっけないもあったものではないのですがね』

「勇者と魔王でしたらもう何人か下にいますよ」

『本当に傍迷惑なヒモですね。たまには創造主に謝罪してきなさい』

「あ、お土産ですけど創造主さんから渡された菓子折りです。もう来ないでくれと」

『……仕方ありませんね。私が行くとしましょう』



「あ、おかえりなさい。どうでしたか」

『私が顔を見せた途端、泣いて謝られました。解せぬ』



別作品の書籍が三巻、コミカライズも一巻が出て、ぼちぼちモチベは上がり気味。


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