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第五十五話:『魔王が使ってるコタツの上に乗ってるミカンの籠』

「ふと思ったんですけど、俺がソシャゲとコラボしたらどうなるんでしょうかね」

『ガチャから出てきたのがヤドカリや土だった人の気持ちを考えなさい』

「つまりフレンドポイントガチャ的な枠とコラボすれば、ワンチャン」

『ソーシャルゲームも商売なのですから、売上に貢献しないコラボはどうかと思いますがね』

「当たり枠も用意すれば良いってことですかね。てことは紅鮭師匠とか、田中さんとかも呼べば……」

『ガチャから出てきたのが紅鮭やおっさんだった人の気持ちを考えなさい』

「そうなると女神様を出すしかありませんね。他はフレポ枠で」

『イロモノの頂点のような扱いを受けそうなので却下です。そもそもそういったコラボはきちんとした物語を描いている作品とすべきです』

「一応俺も結構スペクタルな異世界転生を繰り返しているんですけどね」

『規模だけは大きいのですがね。しかしなんでまたこんな話を思いついたのですか』

「知り合いの世界の子がコラボキャラとしてソシャゲに登場したらしくて」

『それ、知り合いがこっちに来た時に絶対に言わないように。世界の認識が崩れて悲惨なことになりますからね』

 ※別作品のヒロイン候補さんがソシャゲデビューしました。脳筋キャラでした、わーい。

「複数の世界を渡っていると、やっぱり世界が創られたものだって認識が強くなりますよね。そうなると舞台に立っているような、そんな錯覚があります」

『その感覚、人によっては生きる気力を失う危険なものですからね』

「シミュレーション仮説でしたっけ。神様が存在するということを実感した時点で避けられない問題だとは思いますが」

『急に真面目な話題になりましたね。では貴方はどのようにその問題に立ち向かいますか』

「特段何も。自分は今ここに在る。そう考えるだけで十分ですよ」

『達観してますね。まあだからこそ様々な異世界転生先で生きていけるのでしょうが』

「賢く生きることを馬鹿にするつもりはありませんけどね。やっぱり生きるからには楽しみたいじゃないですか」

『達観ではなく楽観でしたか。どちらでもありそうではありますが』

「捉えようですよ。こうして異世界転生の合間でしか女神様と一緒にいれないのは悲しいことですが、織姫と彦星のようだと考えると素敵ですからね」

『私としては懲役を受けた愚息と面会するような気分ですね。懲役先でさらに問題を起こしていますし』

「それでも縁を切らない女神様の優しさが身に沁みます」

『押し付けられる相手がいないだけですよ。さて、そろそろ異世界転生の時間ですね』

「あれ、いつもより短い気がしますね」

『有意義な時間とはそういうものです。さあ、ガチャりますよ』

「お、確定演出ですね」

『確定して当然のガチャですからね。虹色演出が滑稽に見えます』

「そう思ってさらに演出を増やしてみました」

『暗転からのくす玉演出。からの文字が燃え上がって出現。ついでに文字が光る。入れ込み過ぎですね』

「kohayaさんより、『魔王が使ってるコタツの上に乗ってるミカンの籠』」

『これを引いた私の気持ちを考えてください』

「適応されるのは俺なんですけどね」

『そうですね。コタツにミカンは鉄板ですが、今引くべきではなかったと感じるのは何故でしょうかね』

「俺がこの空間の四季を夏に設定しているからでしょうか」

『よく言えました。このスイカは餞別にプレゼントです』

「俺が切り分けたスイカなんですけどね。しかも一番小さいやつだ」

『女神パワーで種は多めに移してありますよ』

「本当だ、ありえない密度で種が入ってる。ではお弁当として持っていくとしましょう」

『傷まないうちに早く食べた方が良いですよ』


 ◇


『む、流石にミカンの籠の上にスイカを置くのは無謀でしたか。どこか丁度いい籠はっと――』

「ただいま戻りましたー」

『ちょうど良い所に。どうせお土産はミカンの籠とかでしょう。寄越しなさい』

「スイカを置くのが目的なら大きめの皿とかの方が良いのでは」

『言われてみればそうですね』

「折角ですから切り分けましょうか。ちなみにお土産は籠じゃないですよ。俺の体は綺麗に燃えちゃいましたので」

『ミカン以外の物を乗せられて概念死あたりを予想していましたが、アテが外れましたか』

「ええ、今回は太陽に突っ込んで燃え尽きましたね」

『ミカンの籠の用途って知っていますかね』

「スイカを置くものではないとだけは」

『なかなか良い返しですね。魔王が使ってるコタツの上に乗ってるミカンの籠でしたか』

「ええ、魔王トウミーンの私室にあるコタツの上に乗っているミカンの籠に転生してきました」

『冬に絶対に外に出ない系魔王っぽいですね』

「流石女神様、聡明で」

『わからいでか』

「トウミーンは寒さに弱く、秋頃のシーズンになると一切の侵略行為を中断して城に引き籠もる残念系美少女魔王でした」

『魔物でも寒さに弱いことはありますからね。環境が過酷な世界で冬の行軍は自殺行為でしかない場合もありますし』

「ええ、無茶な行軍を決行したベニベニッシャケ将軍は無残な最期を迎えましたからね。自然を甘くみてはダメですよね」

『その将軍、割とそのへんのリスクケアはできそうなイメージだったのですがね』

「寒さ対策は万全でしたが、ナマハゲの襲来には対応できなかったようで。自然の脅威は恐ろしいですよね」

『ナマハゲは自然の脅威ではないと思うのですが』

「気温が下がると自然発生する化物として人間軍、魔王軍共に恐れる存在でしたよ」

『自然の脅威だった。私の知っているナマハゲとは別物ですね』

「包丁片手に悪い子はいねがーって、言いながら襲ってきますからね」

『大分近いけど別物だと思いますね』

「解体されたベニベニッシャケ将軍の亡骸といったらもう、皆口を抑えてしまっていましたね」

『涎溢している者いますよね、多分』

「トウミーンは悲しみのあまり、鍋の用意をしてましたね」

『鮭は生食できませんからね』

「お、紅鮭師匠がSNSで呟いてる。油断したとか言ってますね」

『異世界転生の後悔をSNSで呟くなとダイレクトメールを送っておきます』

「勇者や魔王の力はそこそこで、自然の脅威が恐ろしい世界でしたね。冬のナマハゲだけではなく、春にはつくしが地中から襲いかかり、夏には蝉が空から襲いかかってきます」

『私の知っているつくしや蝉じゃないことだけは理解できますね』

「ちなみに写真がこちら」

『私の知っているつくしと蝉だった。これのどこが脅威なのか』

「ちなみにそれぞれの写真、下側に小さく写っているのが人間です」

『つくしも蝉も小山くらいの大きさですね。自然の脅威を強めたいからと何でも大きくするのはどうかと思いますが』

「ナマハゲは人間大の大きさですよ。ほら、こちら」

『成人男性よりやや背が低いくらいですね』

「こちらがナマハゲ襲撃の写真です」

『視界一面に映るナマハゲ。大きさは普通でも数がおかしいですね』

「個体としての戦闘力も結構ありましたね。俺も苦戦しました」

『さては虫歯的な奴らですね。というよりインドア系の転生先なのに戦ったのですね』

 ※三十八話参照

「一度トウミーンの部下が戸締まりを忘れた時に侵入してきまして」

『魔王城で戸締まりを忘れると言うのも妙な話です』

「あの時はやばかったですね。俺以外手も足も出てませんでしたよ」

『手も足も出ちゃいけない奴に限って出てたんですね』

「冷凍ミカン投げで頭蓋を吹き飛ばしてやりましたよ」

『冷凍ミカンを投げてくるミカンの籠とか処分案件なのですがね。しかし冬に冷凍ミカンとは中々の通ですね』

「室内温度がマイナスでしたからね」

『自然と凍っていましたか。自然の脅威は恐ろしいですね』

「おかげでトウミーンにとってコタツはなくてはならない装備品でしたからね」

『それだけの極寒環境でコタツがどれほど善戦できるのやら。それ以前に普通に動いていますが、正体バレていませんかね』

「それはとっくにバレていたので大丈夫です。暇つぶしにミカンでお手玉をしていたところを見られたので」

『暇つぶしでお手玉をしているミカンの籠を見て、よくそのまま置いておきましたね』

「トウミーンはのんきな性格でしたからね」

『多分四六時中眠そうな顔をしていたのでしょうね』

「そうですね。俺がミカンの皮をぐっと絞って眼に命中させた時とかは凄い速度で悶絶していましたが」

『そりゃするでしょうね。むしろそこまでしてよく処分されませんでしたね』

「お昼の会議が始まる前には起こして欲しいと言われてたので、起こしたまでです」

『便利な道具として使われていましたか。仲良く行動するパターンはちょっと珍しいですね』

「ただこのトウミーン。かなりのものぐさで、部下達も手に余るほどの問題児だったのです」

『手足の生えたミカンの籠を平然と側に置いていますからね』

「何をするにもコタツに入りながらで、食事に着替え、就寝も全てコタツの中でしたね」

『ただの寒がりな気もしますがね』

「夏でも汗だくになりながらコタツの中に居続けていましたよ」

『ものぐさを通り越している気もしますね』

「俺もこれはどうかと思い、トウミーンが冬以外はコタツ離れできるように一肌脱ぐことにしました」

『籠が何を脱ぐのやら』

「俺は言いました。せめて着替える時はコタツの外でやれと。見れないだろと」

『北風と太陽の話を知っていますかね。貴方のその台詞は北風も凍える台詞ですよ』

「ですがトウミーンはコタツの中に入ってくれば良いじゃないと、平然と返してきました」

『入りましたか』

「勿論。いい匂いでした」

『ちょっと貴方の体の中にスイカの種を転移させますね』

「体の中に異物が発生する感覚は結構新鮮。まあトウミーンには羞恥心が無かったので、楽しさとしてはちょっと物足りませんでしたね」

『でも満喫はしたと』

「勿論。眼福でした」

『スイカの種を芽吹かせましょうか』

「血肉を吸われ、血肉を掻き分けて成長している感触……即死よりもキますね」

『まあ籠相手に羞恥心もないと思いますがね』

「勇者が来た時も常に同じ感じでしたよ」

『常に同じ感じだと言える程度には来ていたのですね、勇者』

「綺麗好きな勇者で、いつもトウミーンの部屋を掃除しては文句を言って帰っていましたね」

『面倒見の良い勇者ですね』

「散乱しているトウミーンの下着のサイズを見る度に舌打ちしていましたが、面倒見は良かったですね」

『女勇者でしたか。女同士では羞恥心があるかどうかもわかりませんね』

「ちなみに勇者の名前はメリーハーリです」

『名は体を現すと言いますが、性格だけでしたか』

「メリーハーリは俺にもっとトウミーンをシャキッとさせてくれと、いつものバーで愚痴ってきましてね」

『ミカンの籠がいつものバーにいるのもどうかと思いますが。それよりも魔王の部屋の私物に相談する方がおかしいですかね』

「ほら、この世界って自然の脅威が強すぎるじゃないですか。なので人間と魔界、共に手を組んで生きていこう的な案件で和平を結ぼうとしていたのですよ」

『魔王は秋冬以外侵攻していませんでしたかね』

「魔界は優れた技術があったのですが、土地の環境が悪かったんですよ。人間側はその逆で土地はあっても、それを上手く活かしきれていないといった感じでした」

『なるほど。それで互いに土地や技術を目当てに争っていたところを、勇者が和平の道を開拓しようとしたと』

「ただそれにはトウミーンの自主的な協力姿勢を魔界の者達に見せなければなりません。ですがトウミーンは自堕落な性格なので、部下の前にも顔を出しません」

『よくそれで魔王でいられましたね』

「不穏分子は俺が処理していましたからね。冷凍ミカンで後頭部をガッっと」

『冷凍ミカンで処刑される不穏分子も哀れですね』

「冬空の下に放り出してナマハゲに襲わせる手段もありましたが、絵面がなかなか酷くて」

『三流ホラーくらいには恐ろしい光景だったのでしょうね』

「人間界と魔界が手を組むことには賛成でしたので、俺はトウミーンをシャキッとさせるべくより奔走することにしました」

『具体的にはどのようなことをしたのでしょうかね』

「まずはこう、冷凍ミカンで後頭部をガッと」

『それは不穏分子を処理する方法ですよね。ただの下剋上ですよね』

「元々魔王の部下ではないので、下剋上と言うよりはただの暴挙ですね」

『暴挙の自覚があることに少し驚きましたね』

「しかし流石は魔王、冷凍ミカンの方が砕けましたね。おかげで剥く手間が省けました」

『魔王を奇襲しておいてミカンを食べている場合ですかね』

「俺には口がないので、トウミーンに食べさせてましたよ」

『ミカンを食べさせている場合ですかね』

「数度の試行錯誤の結果、これではダメだと悟った俺は別の手段を試すことにしました」

『一度試せばわかることだと思いますがね』

「次は五十度のお湯に付けることにしました」

『それは萎びた葉物野菜をシャキッとさせる方法ですね』

「トウミーンはのぼせてましたが、シャキッとはしませんでしたね」

『野菜じゃないですからね』

「成果としてはいい出汁が取れたくらいでしたかね」

『そろそろスイカを成長させていきましょうか』

「体中に張っている蔦からスイカが実ってきた。なかなか良いファッションですね」

『しまった。超重力に慣れてる今となってはスイカの重みでは罰にもならない』

「いえまあ、体の養分を死ぬギリギリまで吸われているので、結構きついですよ。過去の処罰の中でも結構上位です」

『真顔で解説されると効果があるのか疑問ですね』

「同様に氷水にも浸してみましたが、より動かなくなるだけでしたね」

『それ危うく仕留めそうになっていませんかね』

「俺は手詰まりかと諦めそうになりました。しかし俺は思い出したのです。そう、トウミーンが一度だけ、物凄く動いたときのことを」

『ミカンの皮をギュッとしましたか』

「それはもうギュっと。ミカン汁の効果は素晴らしく、短時間だけとは言えトウミーンをシャキッとさせることができたのです。なので俺はトウミーンが演説する間、せっせとミカンの皮を絞り続けました」

『ただの嫌がらせでしかないような気がしますね』

「しかし涙ながらに演説するトウミーンの姿に心を打たれた魔界の者達は人間界と手を結ぶことを良しとしたのです」

『せっせとミカン汁を眼に注がれていれば涙ながらの演説になったでしょうよ』

「まあ本人も人間界と魔界の問題はどうにかしたいと思っていたようで、演説自体も良い内容でしたよ。俺もメリーハーリも黄色い手で拍手してましたし」

『相当な量のミカンを剥いたようですね』

「こうして人間界と魔界は手を組み、過酷過ぎる自然に立ち向かう道を進んでいくことになったのです」

『なるほど。それでその後貴方は太陽に突っ込んで燃え尽きたと』

「ええ、そうなりますね」

『そうなりますねではありません。脈絡がなさ過ぎです。もう少し理解のできる説明をしなさい』

「創造主が試練を与えようと、太陽の熱量を増してきたんですよ。なので俺が冷凍ミカンを大量に背負って太陽に突撃することになりました」

『説明されても理解できなかった』

「調整が下手な創造主だったので、あのままだと地上が焼け焦げるところでしたからね」

『冷凍ミカンで太陽をどうにかできたのですか』

「なんかイケると思ったので、試してみたらイケました」

『イケてしまいましたか。理解に苦しみますね』

「ま、単純に創造主が俺の行動を見て、『あ、これで解決しないと世界終わるな』って判断しただけとは思いますがね」

『ミカンの籠が冷凍ミカンを背負って太陽に突撃して、ダメなら世界が終わるとか調整下手どころの話じゃないですよね』

「割と皆『それしかない』って顔で涙ながらに俺を送り出してましたからね」

『創造主に降り注いだプレッシャーが気になるところですね』

「そんなわけでお土産は焼きミカンです」

『冷凍ミカンが太陽の熱で焼きミカンになりましたか。やっぱり調整が下手な創造主ですね。いえ、貴方が何かしら余計な因果を持ち込んだ可能性もありますが』


 ◇


「大変です女神様。俺の体に実ったスイカですが、予想以上に美味しいです」

『よく食べようと思いましたね。流石の私も人を苗床にして育てたスイカを食べたいとは思いませんが……まあ一口だけ……。うわ、予想以上に美味しい』

「まさか俺に苗床の才能があったとは……」

『嫌過ぎる才能ですね。ただ冷静に考えると土や植物に転生しているのだから、その才能があるのも頷けると言いますか』

「商売、いけますかね」

『苦情どころの話じゃないので止めなさい。まあ、そうですね。このスイカは私が処分しておきます』



進捗報告代わりにに更新。

異世界でも無難に生きたい症候群ですが、この間ゆるドラシルとコラボしてヒロイン候補の方がキャラとして登場することになりました。コミカライズ一巻発売前にゲームコラボするとは予想外でしたね。


この肋骨も色々と応募には放り込んでますが、最終審査までは残らないだろうな―って感じですね。書籍にしたら読みにくいものね。でも一次審査あるところは結構通ってるんですよね、凄いことに。


また何か報告することがあるか、一ヶ月くらいしたら次話書きますので、それまでお待ち下さい。

後お題を投稿する際は注意書きを読んでくださいね。割と読んでない人多いので。

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