第五十四話:『巨大ロボットのAI』
「異世界転生とは一体なんなのだろう」
『哲学っぽく語っているところ申し訳ありませんが、それは貴方を見た者達に許された言葉です』
「俺にもその権利くらいは」
『貴方にとっては人生をかけた娯楽のようなものでしょうに』
「娯楽というだけなら否定もできましたが、人生をかけたという言葉で難しくなった」
『素直でよろしい。そんな問答はあと五十回くらい前にして欲しかったところではありますね。今ではすっかり化物になってしまっていますし』
「メンタル的には変わりないと思うのですが」
『メンタル以外がどうしようもなく変わっているのですよ。あとその変わっていないメンタルがそもそも化物なのですが』
「まあ何も変わっていなければ、それはそれで成長のない男ってことですからね」
『ある意味では成長してないと断言できるのですがね』
「ところで女神様は異世界転移を斡旋できないのですか」
『できなくはないですがね、貴方の場合は無理ですよ。元の肉体とかとっくの昔に消滅していますし』
※今の主人公は魂が形を造っているだけの半幽霊状態です。そんな気がする。変わるかもしれない。
「そこはこう、高性能な義体を用意すれば」
『それだと自分の姿に似たロボに異世界転生したことになりませんかね』
「うーむ、そう考えると元の自分の肉体を確保しておかなかったのが悔やまれる」
『私の空間に死体を何年放置させるつもりでしょうかね。気が向いた時に処分していますよ、絶対』
「発作時の女神様対策にもなったでしょうに」
『一度目は使えても、発作が収まった時に処分しますよ。何が悲しくて死体に抱きついていないといけないのでしょうか』
「悲しい時は抱きつくこと多いですよね」
『なるほど、悲しいから抱きつくと。一本取られましたね』
「つまり女神様を悲しませればワンチャン抱きついてもらえると」
『貴方の報告を聞くたびに虚しい気持ちにはなりますが、悲しいとは思いませんね』
「正直女神様を悲しませたくないので、考えるだけ無駄ですかね」
『食事の量が少ない時は悲しくなりましたかね』
「大盛りを常に心掛けておきます」
『よろしい。それでは異世界転生の時間といきましょうか』
「心掛けが早速無駄になってしまった。ところでくじ引きを引くのも最近マンネリ化してきたので、ちょっと趣向を変えてみました」
『これは……紛うことなくソーシャルゲームのガチャ画面のようなガチャ』
「ガチャを引く要領でお題を引けば、レアリティを感じられるかなと」
『コモンの異世界転生が確定したら悲しくなりませんかね』
「大丈夫です、排出率は全て一緒なので」
『レアリティとはいったい。では私がガチャりましょうか、このレバーを回せば良いのでしょうか』
「あ、それはコンロの点火レバーです」
『上部に網と紅鮭の皮がありますね。ガチャに付ける機能ではないですよね』
「オプションとかを決める間の肴になるかなと」
『なるとは思いますが、外したほうが良さそうですね。こちらのレバーの方ですかね』
「おお、確定演出だ」
『レアリティが全て一緒なのだから確定演出しかないですよね』
「ちなみに十連ガチャ機能もありますよ、ボーナスでレアリティが高い転生先が一つ確定になります」
『レアリティが全て一緒なのだから確定演出しかないですよね。ほら、早く結果を確認しなさい』
「ええと黒須 紅さんより、【巨大ロボットのAI】ですね」
『ちなみに貴方個人としてレアリティを決めるなら、これはどれくらいなのでしょうか。あ、紅鮭の皮いただきます』
「何を持ってレアリティが高いと判断するかによって変わりそうですよね」
『もぐもぐ、奇抜さだけで言えば大概高レアリティでしょうからね』
「へへ、俺もラッキーな男ですね」
『転生先の質で言えば、軒並みハズレだと思うのですがね。しかしAI、人工知能ですか。バグ要素しか感じられませんね』
「機械の部品になったことも何度かありますし、なんとかなるでしょう」
※三十九話参照
『ロボそのものになった経験の方を活かすべきでは』
※四十一話参照
◇
『いつも彼のことを思い出してしみじみするタイミングで帰ってくる。ならばそろそろ帰ってくるころでしょうか。落とし穴でも掘っておきましょう』
「ただいま戻りました。どうしたのですか女神様、穴なんて掘って」
『貴方の墓穴です。私自ら用意してあげているのです』
「凄い、悪戯心が悪びれもなくパワーアップした」
『悪戯心の時点で悪びれはありそうですがね。少し疲れたので後は代わりに掘ってください』
「自ら墓穴を掘ることになるとは。でも女神様の足元で眠れるのなら、それも悪くなさそうですね」
『死んでもリスポンするので生き埋めの状態を維持するしかないですけどね』
「ちょっと悩ましい。まあ一応掘っておきます」
『一応で自分を生き埋めにするための穴を掘れる人は中々いないと思いますよ。では報告してもらいましょうか、巨大ロボットのAIでしたね』
「はい。今回はロボットアニメ的な世界に異世界転生してきました。俺は主人公ダケルの操るロボット、ヘルデスカイザーのAIとして転生しました」
『一度に二箇所のツッコミどころがくると、一息でツッコミきれないのでイラつきますね』
「掘っている矢先に上から土が降ってくる。ところで当たり前のように地面を掘っていますけど、ここって女神様の空間ですよね。床って土でしたっけ」
『そのスコップは特別仕様で、あらゆる場所を土のように掘れるのです。本来ならば勇者の聖剣ですら折れる程度には固い床ですよ』
「どおりで体に当たる土っぽい奴の密度がおかしいと思った。これ金よりも重いですよね」
『しかし少年ロボットアニメの主人公にしてはこう、成人雑誌のコメディキャラっぽい感じがありますね』
「正しい発音はドゥアケルなんですけど、巻き舌を続けると疲れそうなので」
『そうですね、主人公の名前だけネイティブな発音で報告されるとどこかで苛立って蹴りを入れそうです。そしてロボットの名前も主人公機らしからぬ名前ですね』
「正しい発音はハェルゥ・デ・ソゥクァイズァーなんですけど、言いにくかったので」
※試しに言ってみよう。誰かに聞かれたら白い目で見られます。見られました。
『ドイツ語を格好良いと意味も分からずに多用する系の神が創造主っぽいですね』
※クーゲルシュライバーは流行りましたね。
「デスカイザーはなんかそれっぽい神話時代に使われていた古代兵器で、それを現在の時代の人間達が扱えるように用意したサポートAI、それが俺です。なので俺がデスカイザーってわけではありません」
『まあそんなところでしょうね。主人公機の知能そのものなら、異世界転生の優先順位的に待たされそうですし』
「俺の主な役割としては、古代兵器であるデスカイザーの意思をダケルに伝え、互いの意思疎通を潤滑に行うことですね」
『この段階でもうロミオとジュリエット以上のすれ違いが予想できてしまいますね』
「ダケルは十四才の熱血系主人公で、まあなんか色々となし崩し的にヘルデスカイザーに選ばれています」
『選ばれし者系の設定があやふやだと、その主人公である必要性があるのか疑問になりそうですね』
「ヘルデスカイザーのタイプだったそうです」
『必要性はあるけども。中身女性だったのですか、ヘルデスカイザー』
「いえ、あーどうですかね」
『はっきりしませんね』
「オネェ系古代兵器でしたので、どっちとも取れるんですよ」
『オネェ系古代兵器て。天使などは両性具有だったりしますし、古代兵器ならば性別がそもそもなかったのかもしれませんね』
「いえ、股間が猛るとか言っていたので。口調は女性で、バリトンボイスでした」
『折角濁したのに、容赦のない追い打ちですね。そもそも声が出せるのであれば、仲介役である貴方の存在は不要なのでは』
「俺は事前に両者の言語を学習していましたが、ダケルもヘルデスカイザーも互いの言葉は知りませんので」
『AIだから自動翻訳機能でもあるかと思ったのですが、まさかの独学でしたか』
「転生前に創造主から参考書はいただいてますけどね」
『参考書て』
「元々異世界転生を繰り返しているおかげで、言語学習は得意ですからね」
『最初はオプション入れてましたが、途中から入れないことも多々ありますからね』
「性格的には気の合う二人、そしてヘルデスカイザーは古代兵器とだけあって圧倒的な性能で敵を倒していきます。こちらはひったくりを超絶波動キャノンで吹き飛ばした時の写真ですね」
『飛び交う瓦礫しか見えない。小悪党相手に使っていい兵器じゃないですね』
「こちらは悪の秘密結社幹部、ベニシャケッチャーを踏み潰した時の写真です」
『巨大ロボの足しか見えない。そして幹部を倒す技じゃないですね。そもそも悪の秘密結社なのにロボットはいないのですか』
「古代兵器がそうポンポンとあるわけないじゃないですか」
『最初から最後まで巨大ロボットで蹂躙していたのですか』
「いやぁ圧倒的でしたね」
『正義側だけ巨大ロボットありなら、それは圧倒的でしょうよ』
「でも危ない時はありましたよ。ダケルの家が敵に知られて、架空請求の山が来た時とか」
『巨大ロボットで無双している相手にする行為が小悪党』
「あの時はダケルとヘルデスカイザーの気持ちが一つになって、封印されていた奥義、超絶波動キャノン斬りが使えたことでどうにかなりました」
『架空請求くらいならもう少し穏やかな技でもどうにかなったと思いますよ』
「通学中のダケルがスナイパーに狙撃された時は、常用装備のマシュマロビームくらいでどうにかなりましたけどね」
『ファンシーな技ですね。ですが狙撃による暗殺にしては穏やか過ぎる気がしますが』
「ちなみに命中した相手は体の内側からマシュマロまみれになって破裂します」
『別の意味で穏やかじゃなかった』
「その時の写真――」
『それを見せたら貴方も同じ目に遭わせますよ』
「ではその時に持ち帰ったマシュマロを――」
『私にスナイパーの体内から発生したマシュマロを差し出そうものなら、貴方の体内にスナイパーをマシュマロしますよ』
「マシュマロしますとはいったい。ちょっと興味あるけどスナイパーとのコラボは不味そうなので遠慮しておきます」
『貴方がイメージしているものとは違うので安心してください。しかしAIとしてサポートしている割に貴方は悪さをしていませんね』
「そうですね。基本的にはダケルとヘルデスカイザーとの間の架け橋として裏方に徹していましたから」
『そうですか。で、何をやらかしましたか』
「凄い、微塵も信用がない」
『信用があると思えるその自信はなんなのでしょうかね』
「そうは言っても、AIにできることなんてたかが知れていますからね。武器の性能をちょっとばかり良くしたりとか、ダケルに戦況に合わせて最適な武器を推奨したりとかですね」
『ひったくりに超絶波動キャノンを撃たせたり、架空請求犯に超絶波動キャノン斬りを撃たせたりしてたのは貴方が原因でしたか』
「だって格好良いじゃないですか、超絶波動キャノン」
『格好良いの一言でTPOへの配慮をかなぐり捨てるのはどうかと。冷静に考えてると超絶波動キャノン斬りって超絶波動キャノンで殴ってるだけですよね』
「他にも超絶波動キャノン投げとかもありますよ」
『超絶波動キャノンを投げてるだけですよね』
「超絶波動キャノンスライダーとか」
『それ命中すらしてませんよね』
「あとは超絶波動キャノン――」
『超絶波動キャノン以外はないのですか』
「全方位拡散マシュマロビームとかなら」
『それ悪戯に被害を増やしているだけですよね。そもそもヘルデスカイザー、まともな兵器ではないのでは』
「まあ元々狙撃用ロボットでしたし」
『ちょっと納得しました』
「そんなこんなでダケルとヘルデスカイザーは地元の平和を守っていました」
『守備範囲が狭い。巨大ロボットで地元しか守らないって、維持費だけで破産しかねませんかね』
「ヘルデスカイザーはダケルへの想いだけで動いていますので、維持費とかは不要でしたから」
『オネェ系古代兵器もなかなか恐ろしいですね。勝手に動いて自分の体を洗っていてもおかしくなさそう』
「週一でエステ通いしてましたね」
『巨大ロボットが通えるエステがあるのですか』
「俺が市長のパソコンにハッキングして予算を捻り出させてやりましたよ」
『財政難で市が滅亡の危機になりませんかね』
「そこはほら、倒した悪の秘密結社から金銭とかドロップしますので」
『巨大ロボットのエステ代のために滅ぼされてませんかね、悪の秘密結社』
「しかしいよいよダケル達の前に最大の強敵が姿を現しました」
『巨大ロボットが他にいない世界で最大とか言われましても』
「それが地球防衛軍、人間達です」
『守るべき相手に牙を剥かれちゃいましたか』
「度重なる超絶波動キャノンの副次被害により財政難になった隣町が、卑怯にも政界に根回しをしていたのです」
『至極正当な方法だと思いますがね。そもそも度重なるほどに広範囲に副次被害を出して、地元は大丈夫だったのでしょうか』
「そこはほら、倒した悪の秘密結社から金銭とかドロップしますので」
『悪の秘密結社の資金源が気になってきますね』
「正直地球防衛軍程度、ヘルデスカイザーの敵ではなかったのですが、ダケルにとっては人間が敵になると言うことは精神的に大きな負担を強いることになりました」
『熱血系少年主人公ですからね。まさか自分が悪として認定されるとは思わなかったでしょう。気づかなかったのもどうかと思いますが』
「そこはほら、俺がダケルの脳にちょっとばかり干渉して、罪悪感とかを麻痺させていましたから」
『熱血系少年主人公になんてことを。そもそもそんな惨状なら、精神的負荷もそこまでなかったのでは』
「強力な兵器であるヘルデスカイザーがいる手前、あまり強力な洗脳はできませんでしたので。非戦闘時は正気に戻していたのですよ」
『今回はロボットのAIですよね。諸悪の根源じゃないですよね』
「俺はダケルに言いました。『ほら、よく見るんだ。確かに彼らは地球の平和を守る連中かもしれない。だが君が普段から超絶波動キャノンで吹き飛ばしている悪党と同じ人間でしかないんだ。つまりやっちゃっても大丈夫じゃね』と」
『諸悪の根源でしかなかった』
「俺の洗脳を受け、地球防衛軍に反撃を仕掛けようとしたダケルでしたが、それを許さなかったのがヘルデスカイザーでした。ヘルデスカイザーはダケルに悪の道に染まってほしくないと、俺が管理する制御システムに反逆し、動きを止めたのです」
『いい気味ですね』
「しかもヘルデスカイザーの必死の説得により、ダケルまで正気に戻る始末」
『いい気味ですね』
「仕方がないので自爆装置を起動してやりました」
『往生際が悪い』
「しかし現代人が突貫工事で取り付けた自爆装置では、ヘルデスカイザーの体を破壊する程度の威力しかなく、特にめぼしい被害は与えられませんでした」
『十分かと、あといい気味ですね。普段の貴方らしからぬ小悪党っぷりでしたから、上手くいかないのも当然だとは思いますが』
「その後の結果ですが、これまでの全てのやり過ぎた出来事は全て制御用AIである俺の暴走が原因ということになり、ダケルは特に罪に問われるようなことにはなりませんでした。酷い話です」
『普通に事実だと思うのですがね』
「なおヘルデスカイザーはその機能を失ったことで、巨大ロボットとして戦うことはできなくなりました。なのでそのコアを人型サイズのロボへと移し、ダケルのパートナーロボとして活動するようになりました」
『脅威がぐっと減りましたね。おや、ですがヘルデスカイザーは古代兵器で言語の壁があったのでは』
「俺が何度もダケルの言葉を翻訳して伝えていたおかげで、徐々に現代の言葉を覚えたようですね。せこい奴です」
『そこは努力家と呼んであげましょうよ』
「俺がこっそり研究していた人型サイズへとコアを移す技法とか、盗んでいましたからね」
『……それ、最初から貴方が仕組んでいたのではないですか。脅威過ぎる巨大ロボットを自爆させ、人型サイズの状態にまで落とし込む。ついでにこれまでやり過ぎた罪も全て貴方一人が背負って――』
「言われてみれば、そういう感じにもとれますね」
『……まぁ偶然だと言うことにしておきましょう』
「その後ヘルデスカイザーとダケルは良い感じのコンビとなって地球防衛軍のチームに入隊できたようです。俺は危険因子として処分されましたがね」
『結局好き勝手にやって、墓穴を掘ったAI生でしたね』
「まさに今と同じ状態ですね。ところでこの穴は何処まで掘れば」
『貴方を埋めて終わりにしようと思いましたが、二度も自分で掘った墓穴に埋めさせるのは女神として芸がありませんからね。そのまま掘ってワイン蔵でも建設しなさい』
「了解です。あ、ちなみにお土産ですが、不要となった超絶波動キャノンを。流石に大き過ぎるので創造主さんにお願いして手頃な大きさにしてもらいました」
『ふむ。確かに格好良いですね。女神である私にも琴線に触れるものがあります』
「よくお似合いです。こう、下からのアングルだと太ももとの対比が――」
『てい、超絶波動キャノンジャイロ』
最近異世界でも無難に生きたい症候群でシリアスが続いたので更新しました。
ギャグは別作品でも書いてはいるのですが、脳みそを回さずにギャグり続けられるのはこちらなので今回はこちら。
9月頃に異世界でも無難に生きたいコミカライズの一巻が発売する模様、そういった記念日に合わせて更新していくのも良いかもしれませんね。
何かしら理由をつけて、こう、うん。まあ考えるのが面倒になったら麻雀で負けたら書くくらいの理由で書きます。