第二十三話:『大陸中央の大峡谷の底にある洞窟で眠りについている全世界で最強のドラゴンの鱗に生えている苔』
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
『誰とやっているのですか』
「シャドーだるまさんがころんだです」
『哀れすぎて掛ける言葉に困りますね』
「そう悪い遊びじゃないですよ。イメージ一つで盛り上げれますから」
『盛り上がれる要素がないですよ』
「では俺のイメージを具現化できるようにしてみてくださいよ」
『良いでしょう、貴方のイメージが私にも見えるようにします』
「それでは一緒にだーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
『全身ラバースーツのモブキャラが居ますね。ピタリと止まっています』
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
『三人に増えた』
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
『視界を覆いつくす軍勢になりましたね。全員に武具を装備させている辺り想像力が豊かですね』
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
『軍勢が全滅している、一体何が』
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
『唯一の生還者が実家に帰宅。出迎える家族』
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
『突然の一家離散』
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
『そこからのまさかの異世界転生』
「どうです、盛り上がるでしょ」
『否定はしませんがこれってだるまさんがころんだではないですよね』
「言われてみれば。小説や漫画でも描いた方が生産的でしょうかね」
『貴方のネジが外れた発想力ならば面白い作品はできそうですが怖いもの見たさと言った感じですね。では異世界転生のお時間です』
「おや、これから盛り上げていくつもりだったのですが仕方ない。がささごりっと。頑張れよいさんより『大陸中央の大峡谷の底にある洞窟で眠りについている全世界で最強のドラゴンの鱗に生えている苔』」
『これは普通と思うべきでしょうか』
「そうですね、寧ろ強力なキャラの付属品ともなれば当たりの部類でしょうか」
『これを当たりの付属品と思えるのは流石です』
「ありがとうございます。オプションかぁ、苔だとあまり動きにくそうですよね」
『今までの異世界転生先で動ける物の方が少ないのですがね』
「植物系はかれこれ3回も異世界転生していますからね、何とかなるでしょう」
『世界樹、野菜、はて、残り一つは何でしょうか』
「カレー皿ですよ。あれ木製ですし」
『木製製品を植物系転生と言い張るのはどうかと思いますが』
「そうですかね、ひのきのぼうとかの武器も立派にひのきじゃないですか」
『植物としては死んでいますからね』
「アンデットに異世界転生する時代ですし、植物の死体に異世界転生と思えば十分植物系ですよ」
『そこまで言われると難しい気がしてきましたね』
「それでは行ってきます」
『はい、行ってらっしゃいませ』
◇
『だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ。だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ。ふむ良い感じに盛り上がってきましたね』
「ただいま戻りました」
『ちっ』
「帰ってくるなり舌打ちされてしまった」
『一人でいたい時間帯だったのです。おかげで興が削がれました』
「それは申し訳ない。」
『それで、大陸中央の大峡谷の底にある洞窟で眠りについている全世界で最強のドラゴンの鱗に生えている苔でしたっけ』
「はい、大陸中央の大峡谷の底にある洞窟で眠りについている全世界で最強のドラゴンの鱗に生えている苔です」
『この長さのやり取りをしていると尺稼ぎをしている作家の気分が伝わりそうですね』
「何のことやら。そう言ったわけでファンタジー世界、勇者と魔王が争う一般的な世界に存在する最強のドラゴン、グラッシヴォクテートの鱗に生えている苔になって来ました」
『グラッシ……なんでしたっけ』
「グラッシヴォクテートですね」
『記憶力は良いですよね本当に。ちなみにどのようなドラゴンなのでしょうか』
「かつて世界を創造した神々が自らの領土を奪い合い争った時代、その神々の中の一人が生み出してしまった最強のドラゴンです。そのドラゴンは圧倒的強さで、争う神々を皆滅ぼしてしまいました」
『それはとても強そうなドラゴンですね』
「滅ぶ寸前の神々は自らの行いを恥じ、この世界に生きるべきはもっと次元の低い存在が良いだろうと残った力で人類や動物を生み出して消え去りました。それがこの世界の人類の原点ですね」
『自分の生み出した兵器で滅ぶような神々にも多少は省みる心があったようですね』
「グラッシヴォクテートは神々を滅ぼした後、大峡谷の底にある洞窟で永い眠りにつきます。神々は将来知恵を持つ人類達に警告の文章を残します。『世界の神々を滅ぼしたドラゴンは遥か深く地の底に眠る、その目覚めが起きるとき世界に生きる者達は再び死に絶えるだろう』と」
『中々物騒なドラゴンですね』
「そしてそれから千年の月日が流れ、俺が誕生します」
『苔が生えたのですね、千年も寝ていればもっと早くに苔も生えそうですが』
「それが俺の異世界転生先の鱗に苔が生えるのは非常に遅かったようで」
『個体差はありますからね』
「ちなみに逆鱗です」
『なんて安心のできない』
「当然ながらこのグラッシヴォクテートの元へ辿り着けるような人間はいません。俺は眠っているだけのドラゴンの鱗に生えている苔として退屈な日々を送っていました」
『確かにそれは退屈でしょうね』
「あまりに暇なので歌の練習を始めます」
『起こす気満々ですね』
「いや、そんなつもりはなかったですよ」
『嘘くさい』
「しかしグラッシヴォクテートは起きません」
『鱗が歌ったところで効果は無かったのでしょうね』
「バラード系だったからか逆に健やかに眠っていましたね」
『歌は上手ですからね貴方は』
「ちょっとだけヘビメタを歌った時は少しだけ反応しましたね」
『それを続けなかったのは褒められることですね』
「流石に音楽が流れていないとロック系は盛り上がらないですからね」
『そうですね』
「結局千年程続けましたが歌の練習にも飽きました」
『千年も近くで歌われて起きないと言うのも中々ですね』
「次は魔法の練習を始めました」
『起こす気満々ですね』
「いや、そんなつもりはなかったですよ」
『嘘くさい』
「ですが流石は世界最強のドラゴン、俺の拙い攻撃魔法が命中した程度ではびくともしません」
『練習台に起こしてはいけないドラゴンを狙うあたりどうしようもない人ですね』
「瞼にレモン汁を掛けた時は結構反応していましたね」
『その魔法好きですよね』
※色々参照、錠前あたりがオススメ
「とは言えレモン汁程度ではダメでしたね」
『それは何より』
「なのでタバスコを打ち出してみました」
『黒ひげ危機一髪以上にはらはらさせてくれますね』
「千年程続けましたが魔法の練習にも飽きました」
『千年も魔法を打ち込まれて起きないと言うのも中々ですね』
「何かをするのも飽きたのでそろそろグラッシヴォクテートでも起こそうかなと思い始めます」
『結局起こす気だったのですか』
「何とか意思疎通して手懐けられないものかなと」
『神々でさえ無理だったのに苔が挑みますか』
「努力すればきっと行けますよ、苔むすまで頑張れば」
※苔が生えること、日本の国歌にもあるフレーズですね
『頑張る方向が行方不明なんですよね』
「先ずは挨拶代わりに呼びかけてみますが全く反応しません」
『ヘビメタを歌ってダメでしたからね』
「次に顔に水を掛けてみますが全く反応しません」
『レモン汁やタバスコを瞼に打ち込んでダメでしたからね』
「万策が尽きました」
『早いですね』
「苔に出来ることなんてたかが知れてますからね」
『苔に出来ないことばかりしていたのですが』
「俺は絶望します、このままずっと退屈な人生を歩むのかと。ならばいっそと懐に隠していた刀を取り出します」
『苔に懐で刀がなんですって』
「最近異世界転生先に武器を持って行ったことがないなと思いまして。オプションで刀を用意して持ち込んでいたんですよ」
『鱗に生えた苔の何処に刀を仕舞うスペースがあるのでしょうか』
「苔と言ってもグラッシヴォクテートの鱗は一枚全長3mありますからね」
『予想以上に大きかった』
「このまま永遠と生きるくらいなら女神様とだるまさんがころんだをして遊んだほうが良いと俺は切腹します」
『しませんけどね。まあ無理難題ばかりですから詰んでしまうこともあるでしょう』
「しかし苔が本体なので切腹したところで貫通するだけなんですよね」
『植物に痛覚があるか疑問ですからね』
「ですがグラッシヴォクテートはこれで起きました」
『何故に』
「あらゆる物を斬れる刀で逆鱗をぶっ刺しましたからね」
『そう言えば逆鱗の苔担当でしたね、そして割とチートオプションでしたか』
「グラッシヴォクテートは怒り狂い、自らを起こした者を探し周囲を見渡しますがそんなものは見当たりません」
『自分の鱗に生えた苔が切腹したとか普通は思い至りませんからね』
「暫くして怒りの矛先が見当たらないグラッシヴォクテートは自らの逆鱗に突き刺さった刀を見て、『さては自分の鱗に生えた苔が切腹したか』と推測します」
『思い至れた、凄い』
「グラッシヴォクテートは刀を抜いて俺に言います、『命は大事にしろ』と」
『良いドラゴンでしたか』
「それに対し俺は、お前が起きないのが悪いんだよと目にタバスコを打ち込みます」
『そしてゲスい苔』
「流石に起きているときには多少効きましたね」
『苔のくせに偉そうですね』
「グラッシヴォクテートは『確かに我が永い眠りについていれば自我のあるお前にとっては退屈極まりない人生となるな、すまなかった』と涙目で謝ります」
『タバスコが効いている。随分と大人なドラゴンですね。寧ろ何で神々を滅ぼしたのでしょうか』
「創り出された存在だからと意思の尊重も何もなく殺し続けろと命令されて嫌になったそうですね」
『神々は傲慢ですからね』
「俺はこんな湿った苔臭い場所になんかいられない、外に出ようとグラッシヴォクテートに言います」
『貴方がその苔臭い苔なんですけどね』
「グラッシヴォクテートは快諾しその巨体を持って大空へと舞い上がります」
『快諾しちゃいましたか、世界が混乱するでしょうに』
「それは勿論、外に出る際に大峡谷の上に建造してあった魔王城を吹き飛ばしましたからね」
『何でまたそんなところに』
「前衛的な建造物のつもりだったんじゃないですかね」
『そう言えば崖の上に館があるシチュエーションって多いですよね』
「グラッシヴォクテートが目覚めたことに魔王は驚愕します」
『魔王もまさか神代のドラゴンがくだらない理由で起こされるとは思わなかったでしょうね』
「ついでに魔王と戦っていた勇者も城の崩壊に巻き込まれましたが、生きていたので良しとしましょう」
『最終決戦の最中でしたか、良いシーンでしたでしょうに』
「俺は折角だからと世界中を見て回ります。グラッシヴォクテートもすっかり変わった世界を見て楽しんでいました」
『数千年も経過していれば様変わりもしたでしょうからね』
「しかし問題も発生します。突如現れた巨大なドラゴンを恐れた人間達が何と魔族と協力してグラッシヴォクテートへ攻撃を開始したのです」
『魔王城を吹き飛ばしての鮮烈な登場の後、世界中に存在をアピールしちゃいましたからね』
「グラッシヴォクテートは困り、どうしたものかと俺に相談します」
『苔に謎の信頼感』
「俺は焼き払おうと提案します」
『ドラゴンよりも苔の方が物騒な世界』
「ですが拒否されました。多少の争いこそあるが協力し合って生きている人間達を手に掛けるのは気が引けると」
『個で完成されている神々とは違いますからね。そしてやはり良いドラゴンですね』
「本来ならば交渉なりすれば良いのですがグラッシヴォクテートの話す言葉は神々の言語、人間達には伝わらないのです」
『神々の言語を理解し対話している苔がいるのですが』
「諦めて帰ろうにもそのうち討伐隊が編成され攻めてくるだろうとグラッシヴォクテートはすっかり困り果てます」
『歩み寄りたくても言葉が通じなければ中々難しいですからね』
「仕方ないので俺が一肌脱ぐことにしました」
『何も脱げない苔が一肌脱ぎますか』
「俺は逆鱗から離れ人の形へと変形します」
『ツッコミどころが急に増えた。分離出来たんですか』
「そりゃあ苔に異世界転生ともなれば分離できる方法くらい用意していて当然でしょう。一時的ですがね」
『動けない及び寂しさに絶望して切腹していた苔がいたと記憶しているのですが』
「その時は苔として縛りプレイしていましたからね」
『縛りプレイでしたか』
「少なからずも知り合った相手が困っている以上は助けなきゃ異世界転生した意味がないですからね」
『普段からその姿勢を崩さなければとっくに良い人生を送れたでしょうに』
「苔人間となった俺は人間達と交渉を行い、こちらに敵意はないと説得します」
『ある意味今までで一番人間らしい気がしますね。それで説得は上手くいったのでしょうか』
「最初はドラゴンから生まれた魔物として処理されかかりましたが穏便に話を付けましたよ」
『被害はいくら程でしょうか』
「勇者と魔王が全治半年ですかね」
『穏便とは一体、相変わらずの強さですね』
「流石に千年も魔法を練習すれば嫌でも強くなりますよ」
『そう言えばそうでしたね。それにしても二千年近く生きて良く精神が平気でしたね』
「苔の体感時間は人の比じゃないんですよ。うたたねすると数十年ですよ」
『それは大雑把ですね』
「こうしてグラッシヴォクテートは恐れられながらも世界を見守る審判のドラゴンとして世界に君臨することになります」
『それがそのドラゴンにとって良い人生になるかはこれからと言ったところでしょうか』
「中には心優しいグラッシヴォクテートを崇拝する人間達も現れ、悪くない感じでしたよ」
『それは何より』
「まあ交流ついでに体を洗われた際に俺が綺麗に洗い流されてしまいましたが」
『苔らしい最後ですね』
「グラッシヴォクテートは俺の消滅に気づき、最後にこう告げます『結局お前のことは殆ど分からなかった。お前を知る機会が失われるのは非常に残念だ。だがお前には同じ人生を生きられる相手がいるべきなのだろう。私はこれをお前の旅立ちだと思い見送ろう。最後に感謝を』と」
『結局最後まで良いドラゴンでしたね』
「散々起こしても中々起きない寝つきの良いドラゴンでしたね」
『もう少し感慨深さを持ったりしないのでしょうか』
「うーん、何とも言えませんね。ああ、お土産はこちらです」
『また随分と大きな……これはさては』
「はい、グラッシヴォクテートの逆鱗です。彼にはもう怒り狂い、戦う相手はいませんからね」
『なんだかんだドラゴンのことを気に入っているのではないですか』
「名前を憶えている程度にはってところですかね」
『それはそうと以前のシャドーだるまさんがころんだの続きを見たいのですが』
「良いですよ、でもその前に女神様が先ほどやっていた方を済ませては」
『私は何もやっていません、やっていません』