全てを奪われたのだから、全てを奪ってもいいですよね

作者: 伊藤@


「  …………」


 声が聞こえる。

 あぁ、これは夢だ。

 ザワザワと耳元で人の声がする。


 嫌だ、このままにして。

 もう起きたくないの。

 




「…さま…ミナ様!誰か!ミナ様が目覚められました!」


 眩しい。

 騒がしい。


 光溢れるこの地獄に戻ってきた。

 ゆっくりと目を開けると見慣れた天井。そして慌ただしく人が部屋になだれ込んでくる。


「ミナ!」


 ボンヤリと声の主を見る。金髪に碧眼やたらキラキラした異世界人の夫が心配そうに私を見つめている。


 やっぱり戻れなかったのか。


 犯人は侍女のメリア。そうだろうな、彼女から渡されたお茶を飲んだら体の内側で灼熱の痛みが駆け巡り意識が無くなったもの。


 メリアごめん、死ねなくて。

 この世界で、唯一私の気持ちにより添ってくれたメリア。きっと二度と会えないだろう。


 ボンヤリと窓の外を見た。自殺防止の為に私の部屋は1階にあって、オレンジ色の空は晴れ渡り太陽は2つ輝いている。


 青い空が見たい。

 帰りたい。


「みな?」


 ボンヤリと外を見続け、今日も静かに私の中に神の力が降り積もる。


 私の中で確かに迷いが生じたけれど、きっと死ねなかったという事が答えなのだ。



 








 □□□□







「父さん済まない、美菜子を頼む」

「分かった任せろ。悟、お前も無理するなよ」

「あぁ…。美菜子、じいちゃんとばあちゃんの言う事聞いて良い子でいるんだぞ。迎えにくるから」

「うん」


 そう言って去って行った父。


 1週間前、5歳上の姉が行方不明になった。


「居なくなったのが、お前なら良かったのに!」


 姉を溺愛していた母は発狂して、親として言ってはいけない言葉を吐いた。


 最初に言われた時の絶望感。


 自分という存在が空中に浮いてふわふわとして母は私などいらないと理解すると死にたくなった。


 でも何度も何度も言われ続けると、最初は心が痛くて痛くてたまらなくて、涙が溢れて止まらない程絶望していたのに少しずつ痛いのに慣れてしまうのだ。

 毎日暇さえあれば心を傷つけられていると心は麻痺して、ヤスリでガラスを擦られるようにザリザリと傷をつけられるのが普通になり涙は止まった。

 柔らかい心を自分で守る為に、母からの言葉で心に爪を立てられ血を流しながら、心の表面はどんどん瘡蓋になって固くなって強固になった。でも心の奥深くの傷はじくじくと膿が溢れ血を流す、それは本人すら気がつかない程に。


 姉が居なくなった日から、我が家の地獄は始まった。終わりは見えない。

 塾の帰りに忽然と消えた姉。警察に届けても家出しただけだろうと探そうとすらしない事に憤りを感じて荒れる両親。

 父が居ない時に私に向かってお前が消えろと罵る母。弱い存在を攻撃する事で心の安寧を得ている。私が絶望する顔を見ると母は気持ちが軽くなるのだと気がついてからは私は意地でも無表情でいた。

 幼い友人達は好奇心を隠さないし残酷に質問してくる。


 美菜ちゃんのお姉さん死んじゃったの?


 友人の親が無責任にもう姉は死んでると言ってるそうだ。先生は腫れ物を触るように接してきたが、廊下を歩いている時に隣のクラスの担任と話をしているのを聞いてしまった。


 何で私のクラスに…。あの子がいるせいで面倒臭くて堪らない。毎日クラスの雰囲気が悪くて最悪だと。


 心の瘡蓋を誰も彼も剥がそうとしてくる。


 姉の鞄が公園から見つかったと知らせが入り漸くきちんとした捜索が始まった。


 直ぐに公開捜査になってからはより酷くなった。毎日テレビに流れる姉のクラス集合写真。姉は綺麗なのにテレビから流れる無表情の写真を見ていると覚えていた筈の姉の顔が写真で上書きされてゆく。

 私の優しい姉がどんどん消えてゆく。

 泣き喚く母、じっと何かに耐える父。電話が掛かってくれば悪戯電話でお前が死ねといわれた。

 ジリジリと消耗する精神に追い打ちをかけるマスコミ。仕事に追われ、職場に気を遣い、母の相手をして、押し掛けるマスコミの対応をして、心無い世間の言葉に傷ついて、父は疲れ切ってしまい私を祖父母に預けた。


 祖父母の家は、両親と暮らしていた家から車で3時間かかる場所にある。都会でもないけれどそこまでド田舎と言う訳でもない。

 中途半端な時期に転校した私にも帰りに一緒に帰る友達が出来た頃。


 ゆさゆさと揺らされる。

 祖母の手で夜中に起こされた。


「美菜…起きて」

「ん?おばあちゃんどうしたの?」

「美菜、お前の父さんと母さんが亡くなった」


 毎日、昼夜問わず姉を探す母が運転する車が事故を起こして同乗していた父も亡くなったと言われた。





 


 祖父母に育てられ、社会人にもなった。

 2年前に祖母が、祖父も半年後に後を追うように亡くなった。

 母の親類はいないそうだ。実際、両親の葬式にも母の関係者は誰も来なかった。


 私は淡々と日々を繰り返していた。


 起きて、働いて、食べて、寝てまた起きて。

 繰り返すしかなかった。


 そんなある日、このおかしな世界に引きずり落とされた。見慣れない部屋、知らない人間、空気の密度も違う。


「xty;uudskkpef」

「は?」

「saeb,ztnjikk」

「ちょっと何言ってるかわかんないです」


 相手の言葉は理解不能。

 さっきまで部屋に居たのに、部屋の隅に黒い穴が開いたと思ったら、黒い手が這い出てきて、私の足首を掴むと一気に引きずり込まれた。

 真っ赤な敷物の上に投げ出されている。


 見知らぬ老人に話し掛けられても、言葉は全然分からなくて震えていたら、喚きながらやってきた女に平手打ちをされ踵の高いヒールで蹴られた。

 あまりの事で呆然としていると女はすぐ周りの人間に取り押さえられてどこかに連れてかれた。


 一体何?なんなの?なんなのこれ。


 怯える私の唇からは口の中を切った血が流れる。鉄の味。


 周囲がざわめきに揺れた。

 女に叩かれた跡がみるみるうちに治ったのだ。


「d:ßkl!」


 その後の事は悪夢としか言いようがない。老人の後ろから出てきた若い男に抱き上げられ、どこかの部屋に連れて行かれて無理矢理手荒く抱かれた。

 終わった後に言われたのは。


「お前処女ではないのか?!」


 恐怖と暴力。怒りと恥辱。暴言と軽蔑。

 男は勝手に憤慨してベッドから出てゆくと、入れ替わりに見知らぬ女達が裸で呆然としている私の側に押しかけた。


「もうお言葉はわかりますか?」

「こちらに」

「震えてますわ」

「ご入浴です」


 女達にまくし立てられ、震えるままに風呂に入れられた。ジロジロと裸の私を不躾に見る女達に手荒く洗い清められ、そのまま部屋に戻される。

 

 綺麗にピンと張ったシーツを見た途端気持ち悪くなり胃の中の物を全て吐き出した。


「誰か!お医者を!」


 どうしても蹂躪されたベッドに近寄ることは出来なかった。休ませようと女達に支えられ側に行くと、すべてを吐き出し尽くしても体は更に吐き出そうとしてとうとう血を吐いた。


 体は震え血は止まらない。恐慌状態の私は寝室から離れ隣の部屋のソファにそっと横たえられた。口や喉と手にこびりついた血を若い女のひとりが優しく拭いてくれている。


「お辛かったのですね…可哀想に」


 私にだけ聞こえる声で囁く。


 瞬間涙が溢れた。


 この世界で彼女だけが私の気持ちに寄り添ってくれた。彼女の名はメリア。

 ソファで私は意識を失った。






 目が覚めても悪夢は終わらない。


 ベッドの上にいる。

 そう思った瞬間吐いた。苦しくて汗が止まらない。呼吸も苦しい。


 苦しいもう嫌だ。


 ふらふらと起き上がりテラスへ吸い寄せられる。扉を開き手摺を越えて落下する。

 しかし1階だった為にただ地面に落ちただけ。泣きながらのたうち回っていると人の気配がして女達が叫びながら入ってきた。


 老人や侍女は平気でも、歳若い男の侍従や近衛兵を見ると過呼吸を起こす。


 私は、心に大きな傷を負っていると判明するまで2日掛かった。

 私の心に傷をつけた男は、この国の若き王様だった。教えてくれたのはメリア。


 ソファに寝かされ薄い毛布に包まり安静にして微睡む。時折目が覚めるとメリアが傍に居て冷めてはいるがとても美味しいスープを飲ませてくれる。

 その繰り返しをして、時間の感覚が緩やかになった頃、漸く起き上がれるようになった。


「聖女様。私はこの国の宰相ユージン・レスと申します」


 起き上がれる様になった日に老齢の男が私に会いに来た。


「聖女?」

「左様でございます。我が国が召喚致しました」

「召喚?」

「この国の王であるデリアス様の番として召喚されたのです。大変光栄な事ですぞ」

「は? 番? え?」


 何こいつ。

 頭がグラグラして理解出来ない。

 光栄な事?私がいつ番になりたいって頼んだの?日本じゃないのここ?


「つきましては1年後に成婚の儀を執り行います。それまでに妃としての知識を」

「嫌よ」

「はい?なんですと?」

「嫌って言ったの。聞こえなかった?」

「……誰に向かってそんな口を」

「宰相だからなに?私に関係ないわ。元の場所に還してよ。この人攫い!挙げ句に強姦する男の番?意味がわかんないわ」

「なっ!なんだと小娘が!太陽を統べる王国の王に向かって強姦男だと?!」

「そうよ、同意もなく犯罪よ!人攫い!犯罪者!犯罪者!犯罪者!」


 狂った様に叫び続ける私は、連れ去られたと聞いた時点で、心が幼い時分に母にされた体験をフラッシュバックさせていた。

 苛立ち、悲しみ、恐れ、そして理不尽な怒りと憎しみ。感情は千々に乱れる。


「黙れ!」


 宰相が拳を振り上げ私に打ち下ろし。






 召喚されて、人権がなかった。


 無理矢理に体を開かれ、王の番として王を愛せと脅迫された。


 こんな世界大嫌いだ。









 あの老人から殴られ意識が途切れて目が覚めると王様がいた。


 目が合った瞬間、全身に鳥肌が立ち盛大に吐いた。


「聖女様!!」


 侍女達が駆け寄り、慣れた手付きで吐いた後の後片付けをしてくれる。いきなり吐いた私を王様は青い顔をして呆然と見ていた。


「…いつもこうなのか?」


 ぼんやりと王様から視線を外し窓の外を眺める。直視なんてしたらまた吐きそう。


 心底、面倒くさい。


 答えないでいると、私の代わりにメリアが説明してくれていた。

 すりガラスが1枚あって私と世界を隔絶している。現実感がまるで無い。顔の半分が痛い、右目が痛くて重いなと触ると大きく腫れていた。

 まだ、私は痛みを感じるんだ。そんな変な事に心が動く。痛みが心地良くしつこく触っていると痛みが消えて腫れがするすると小さくなりあっという間に治ってしまった。

 私は化け物にでもなったのか。その恐ろしい変化に震える。


 王様と侍女達がその奇跡の変化を目の当たりにして驚きと感嘆の眼差しを向けてくる。

 何故か王様は自分が拒絶される事にショックを受けていた。私からは話しかけないと理解したのか。


「王族は番同士でないと子が出来ぬのだ。しかも今回は百年に一度の召喚された聖女が私の番と定められている」


 ポツリとこぼした言葉。

 だから何?何だって言うの?

 番だから攫っても良いと?いきなり尊厳を奪っても良いと?番だから敬い愛せよと?


 冗談じゃない。

 声を聞くだけで心の芯から震えが這い上る。本能で恐ろしいと感じる。心がどうしても相容れない。


「宰相は更迭した。後日極刑に処す」


 それだけ言うと王様は部屋から出ていった。どっと力が抜けてまたソファに倒れこむ。





 王様はそれから姿を見せなかった。最初は怯えていたが2日経ち、10日経ち、諦めたのかと安堵した。


 緩やかにソファで目覚め、侍女達に真っ白のドレスを着せられる。何をしろとも言われないのでボンヤリと外を見て体を動かさないから必然的に食事量も減り続ける。

 すっかり痩せ細った自分の体に笑いがこみ上げる。


 このまま死ねる。


 もう楽になりたかった。


 目に見える物全てに興味を惹かれなかった。外の景色も部屋にある装飾品も侍女達も。


 ボンヤリとしているとメリアが何か差し出した。絵本の薄さだが革張りで立派な装丁だ。


「聖女様。宜しければ歴代の聖女様の日記ですがご覧になりますか?」


 歴代の聖女…日記。ボンヤリとしていた頭がクリアになる。モヤモヤしていたのがはれて思考能力が戻ってきた。


 起きて読むのは疲れるので、背中にクッションを沢山置いて楽な体勢で本を開くと、日記の中に私の意識は取り込まれた。これは本の形をした記憶保存媒体。


 私は歴代の聖女達の記憶を彷徨った。







 最後の聖女の記憶から私の中に戻り、私はある決意をした。


「日記をありがとう。メリア」

「お役に立てて幸いでございます」

「美菜って呼んで」

「ミナ様…畏まりました」


 こんな物を見せたメリアの真意はわからないけれど。王を見て吐いてるような弱いままの心では到底やり遂げられないだろう。

 さらに日記には恐ろしい可能性が記憶されていた。



「メリア」

「はい」

「歴代の聖女様の肖像画ってある?」

「はい。ございます」




 メリアに案内されたのは聖堂。光溢れ祀られていた。聖女の肖像画は全部で十枚。

 この世界の召喚は百年に一度。一番古い物は千年前になる。


 そこに十年前に失踪した姉が描かれていた。姉は百年前の聖女だった。時間の捻れなのだろう。姉はここに囚われていたのだ。


 姉の記憶は、私達家族の事、帰郷の思いと番を拒み無理矢理子供を産まされ取り上げられ、最後は当時の王に疎まれ冤罪で投獄され拷問の末に殺された。


 姉がいなくなって地獄の日々だった。でも姉はきっとそれ以上の地獄だったのだ。


 私はこの世界に復讐する。絶対に赦さない。







「ミナ様最近お変わりになりましたね」

「そう?」

「はい。馴染まれたようで何よりでございます」


 薄く微笑んでメリアを見る。


「メリアのお蔭よ。ありがとう」


 憎しみは絶えず心を抉り疲弊する。1ヶ月して月の物が終わり、王以外の子種を孕んでいないと分かると王が来た。


 王は不器用だが誠実に私に接し、私は静かに受けいれた。


 その頃になると神の力が体に溜まるのが理解出来た。この力が溢れる頃きっと子供を授かり次代を産むのだろう。


 この世界に来て半年目にお披露目という夜会が開催された。その夜会の挨拶で王が離れたすきを狙って貴族のひとりから。


「聖女様は陛下に逢えたのが僥倖なのです」

 

 王に余所余所しい私にしたり顔で言ってきた。


「貴方…名前は?」

「四侯爵家のひとつ、赤を賜っております」

「そう……覚えておくわ」

「ありがとうございます」


 感謝の言葉を述べながら赤の侯爵は私を下にみていた。『小娘』と表情に出ていて小さく笑ってしまった。


「私がミナに会えたのが僥倖なのだ。間違えるなよ」


 突然後ろから抱き締められ低い声が赤の侯爵を威嚇する。王に庇われた事に私は動揺した。


 薄く笑い全てを受け流し彼等を観察し、次の日私はメリアに毒を盛られた。


 私の中の迷いは、メリアから盛られた毒により綺麗に洗い流された。




 □□□□




 召喚されてから三年の時が経ち、私にとって待望の子供が生まれた。男の子だから次代の王。


 王子のお披露目として国内の有力貴族達の家族も含めて招待してもらった。王家を支える四侯爵家の子供達は8人。


 やっとこの日が来た。はやる心をなんとか押さえ、乳飲み子を抱き締める。


 神力もたっぷり溜まった。


 この世界に召喚されて初めて満面の笑みを浮かべる私を見て、王を含め会場の人間はかなり驚いていた。

 それもそうか、子供を産んだ時ですら無表情だったものね。


 王が挨拶をしている。私から伝えたい事があるから挨拶させて欲しいと初めての頼み事をした。王から、さぁ挨拶をすると良いと言われた。赤子を抱え直し皆の前に立つ。


「本日はお集まり頂きありがとう」


 にこりと笑い、貴族の子供達に手招きした。


「この子のお友達になって欲しいの。こちらへ来て」


 貴族の親は喜色を浮かべ、我が子を押し出し私の前に差し出した。


 戸惑いながらも特別な招待に期待を浮かべる子供は私の周りに集まってもらった。

 子供達を集めそのまん中に立ち術式を展開する。なんてことは無い唯の影縛りをこの国全てに張り巡らせた。


 動けなくなり何事だと騒ぐ奴らを無視して王に問うた。


「ねぇ王様。私を元の世界へ戻して」

「ミナ?どうしたんだい?早く術式を解くんだ」

「もう一度聞くわ。私を元の世界に戻して」


 貴族達はざわめき始めた。


 王はにこやかに笑いながら私に言う。


「出来るわけがない。ミナはもう王妃なのだよ?」


 私は鼻で笑うと、側にいた子供をひとり消してみせた。


「アンドレア!!」

「ヒッ!何をなさるの?!王妃様!」


 叫ぶ四侯爵の青の貴族の父親と母親が叫ぶ。近づこうとしても影縛りで一歩も動けない。


「あらあら、慌てなくても大丈夫ですわよ?

 何処かの異世界に送っただけですから」


 真っ青になる貴族達。泣き喚く母親。


「王妃様!息子をアンドレアを返して下さい!」


 その叫びを無視して、また王に問う。


「ねぇ王様私を元の世界へ返して」

「そ、それは無理だ。召喚は出来るが返還は無理……」


 無理と言いかけたところで二人目を消した。


 悲鳴があがる。なぜだ!やめてくれと叫ぶ親にいう。


「あら?貴方は陛下に逢えたのは僥倖なのですと教えてくれたじゃない。

 ならば、貴方達にも味わってもらわないと。

 私の親の気持ちを。


 ねえ?今どんな気持ち?」


 気絶する女、怒り狂い魔女と罵る男。止めてくれと懇願する男女。


「あは。あはははははははは!!」


 狂った様に笑う私に恐ろしい化け物を見る目を向けられる。

 ああ愉しい。



「王は無理矢理私の体を蹂躪したわ」


 3人目の子供を消す。


「この世界の価値観を押し付け強制もした」


 4人目の子供を消す。


「全てを奪われた」


 5人目の子供を消す。


「ねぇ知ってる? 百年前の聖女は私の姉なの。この世界は私の家族を奪うだけ奪っていくのはなんで?」


 6人目の子供を消す。

 残り2人の子供は失禁して震えていた。

 怨嗟の声や怒号に泣き声はこの上もなく美しいハーモニーだと感じる。


「この世界が大嫌いなの。あなた達この世の全てが憎くて憎くて堪らない」


 7人目の子供を消す。


「何故、私を死なせてくれなかったの?」


 8人目の子供を消す。


 ゆっくりと抱いていた赤子を床に下ろすと、重いだけのスカートを持ち上げ先の尖ったヒールの踵を赤子の額に当てる。


「ミナ!!止めてくれ!!」


 王が絶叫する。


 なぜ?と王妃が笑う。ゾッとする笑みを浮かべて。


「これは暴力と罪で出来たものよ?

 私が壊して何がいけないの?」


 3年かけて集めた体の中に残された神力もあとわずか。ぐっと殺気を込めて赤子の頭を踏み抜くその一瞬。


 赤子は恐ろしい程の神の力を放ち、パンっと私の体が血飛沫と共に消し飛んだ。


「うおおおおおお!!!!」


 番を殺された王が暴走する。








 気がつくと王は廃墟に立ち尽くしていた。


 この国は神が作った国と言われている。最古の楔が法となっている。


 曰く、何人たりとも王の直系を害するなかれ。害した者は七日間苦しみ抜き最後は砂と消える。


 ミナを殺した赤子を王は躊躇いもなく潰した。暴走した神の力は動ける様になった貴族や近衛兵を原形を留める事なくミンチにして国の隅々まで暴風として吹き荒れた。

 そうだろう千年血の檻に閉じ込められた最古の神は愉悦の中で暴れ狂った。




 最古の神は気まぐれでひとりの人間を愛で恵みを与えた。与えられた者は王となり、最古の神に反逆し己の血肉で最古の神を縛る事に成功した。


 激怒した神は自分を縛る不遜な王に呪いをかけた。


 王は番としか子ができない。

 何人たりとも王の直系を害する事は出来ない。

 直系が途絶えた時こそが解放の時。



 王は苦しみに沈む中、空に手を伸ばす。

 

 愛していた、愛していた。

 

 愛して…。






 ここに1つの世界が終焉した。

 解放された聖なる女達の魂は輝きながら空の彼方へ溶けて消え去った。