前へ次へ
56/203

56. 真昼のランデブー

 今日はルインに招待されたパーティーの日だ。


 真昼のパーティー。


 夜は危ないから、昼に開催され夕方には終わるらしい。


 最高だ。


 金を払わずにパーティーを楽しめるなんて、コネ最高だ。


 やはり伯爵はいい。


 この身分は死んでも手放したくない。


 平民になるなら死んだほうがマシだ。


 オレはオレさえ良ければなんでも良いのだからな!


 ふははは!


 にしても、さすがは公爵家だ。


 家がでかいな。


 うちよりもでかいとは……。


 まあ、そんな小さいことでオレは嫉妬しないがな!


 残念なことに招待された客の中に第二王女がいた。


 ついでに赤髪野郎もいた。


 まあ赤髪はいてもいなくても構わん。


 だが、王女は駄目だ。


 オレがかしこまらないといけなくなる。


 他にも大勢いた。


 パーティーだから当たり前か。


 はあ……しかし、なんで王女がいるんだ?


 王女はオレを見つける子犬のように嬉しそうにオレに駆け寄ってきやがった。


 オレの気分は最悪だ。


 最悪と言うほどでもないか。


 一々王女と会って気分を悪くしてたら、オレの気が休まらん。


 それにオレはそんなに暇じゃない。


 今のところ気分は最高だぜ!


 と思っていたら、王女よりも偉いやつが登場した。


 王女の兄である、第一王子だ。


 その周りには三大騎士団の一つ、北神騎士団が控えている。


 くそっ。


 またオレよりも偉いやつがきやがった。


 ていうか、なんでいるんだ?


 こいつもヴェニスでヴァケーションしたいのか?


 気持ちはわからんでもないが、他の日にしてくれよ。


 はっ。


 さてはこいつが、オレよりも上の階で泊まっているやつか?


 くそっ。


 オレを見下すとは、いいご身分だな?


 まあいいご身分なのは間違いないんだけど。


 クソイケメン野郎め。


 第一王子に挨拶されたから、適当に話をする。


 すると、第一王子が変な質問をしてきた。


「人形作りのおままごとに付き合うのも、そろそろ飽きたのでは?」


「と、言いますと?」


 こいつ何が言いたいんだ?


 要点をまとめて簡潔に話せ、このクソ王子。


 イケメンで権力持ってるからってなんでも許されると思うなよ?


「どこと付き合うかべきは考えたほうが良い」


 まじでこいつ何が言いたいんだ?


 もう少しわかりやすく話してくれ。


 なぜかマギサが顔をしかめている。


 まあいい。


 適当に話を合わせておこう。


「所詮人も神が作り出した人形。人形作りに付き合うのも大いに結構ではありませんか?

扱う人形がないよりは断然良い。私はこれからも人形遊びに付き合いますよ」


 と適当に返しておいた。


 何を言ってるのかって?


 さあ?


 オレにもわからん。


 だが、なぜか第一王子は眉を潜め、マギサは喜色の笑みを浮かべていた。


 クソ王子との会話はあまり盛り上がらなかった。


 まあ盛り上げるつもりはなかったが。


 なんかこいつ、雰囲気が苦手だし。


 人を見下したような目が苦手だ。


 オレは見下すのは好きだが、見下されるのは大っきらいなんでね。


 趣味の話題で盛り上がらなかったからなのか、突然王子が恋愛話を打ち込んで来やがった。


 王子のやつ、


「振られてしまうの辛いものがありますな。私の周りにはいい人がいなくて困る」


とか言っていた。


 それは嫌味か?


 それとも本心か?


 作ろうと思えばいつでも彼女ができるだろうに。


 事実、周りの女どもがきゃーきゃー騒いでるし。


 まあ仕方ない。


 だったらうちのエリザベートでも紹介してやろうか?


 あとでちょっと妹にでも話しといてやるか。


 ていうか、恋愛話もあんまり盛り上がらなかった。


 オレと王子は決定的に噛み合わない。


 なぜか微妙にズレた会話になる。


 相性が最悪なのだろう。


 王子との会話を適当なところで切り上げ、飯を食い始める。


 ちなみに、ルインは貧乏男爵もパーティーに呼んでいたらしい。


 だが、バレットの親から急遽欠席の連絡が入った。


 理由はよくわからんが、腹でも壊したのかな?


 違う土地にいくと、食べ物が合わんくて腹壊すこともあるよな。


 気持ちはわかる。


 なんて感じでパーティーを楽しんでたら、


「さあさあ! みなさま、本日はお忙しいところ集まりいただき、ありがとうございます!」


 ヴェニス公が突然、話し始めた。


 聞いてもいないのに、勝手にヴェニスの歴史を語り始めた。


 ヴェニス公いわく――


 昔、この土地に古代文明人が襲来してきたことがあるらしい。


 なんとか撃退したヴェニス人たちは、古代文明人が持っていた様々な秘宝を得た。


 それは古代文明人の作り出した古代遺物(アーティファクト)だ。


 その中に玉手箱と呼ばれるものがあった。


 古代文明人が造った最高峰の古代遺物(アーティファクト)であるとか。


 しかし、この玉手箱は開けられないまま、何百年も眠ったままになっている。


 なぜ眠っているからというと、箱を開けることができないからだ。


 と、ヴェニス公が語っていた。


 うーむ。


 なんかラトゥが話していた内容と違くない?


 それが歴史というものなのか?


「玉手箱を開けるのが私たちの悲願だ! ロキよ! もうすぐ玉手箱は開くのだな?」


 ロキと呼ばれた学者が大きく頷く。


「もちろんですとも! 公爵様! ロキ・ヨルムンガンドめを信じてくださいませ!」


「ハハッ、信じているとも。古代遺物(アーティファクト)の研究において、ロキ殿の右に出るものはいないからな!」


「ははー! ありがたきお言葉!」


 このロキ、学者っていうよりも道化師みたいだな。


 なんか演技臭い。


「さあ、みな今日は祝いだ! 乾杯しようではないか!」


 と、ヴェニス公は機嫌が良さそうに杯を掲げた。


 それに続き、他のものたちもグラスを上げ、乾杯した。


 その後、オレのもとにルインがやってきた。


 ルインは青を基調としたドレスで着飾っていた。


「どう?」


 と聞いてきたから、オレもちゃんと答えてやった。


 「ああ、綺麗だぞ」


 まあオレも紳士だ。


 こういう場での振る舞いには慣れている。


 ルインが顔を赤くしている。


 酔ったのか?


 まあ、そんなことはどうでも良い。


「なあルイン。あの歴史の話だが――」


 ルインにオレが知っているヴェニスの話を聞かせた。


 ラトゥが調べてきたヴェニスの歴史についてだ。


 歴史というのは、どこから見るかでまったく違うものとなる。


 だからあくまでもオレが話すのも、歴史の一つ、可能性の一つだ。


 これを話すことに大した意味はない。


 強いて言うなら、自分の知識をひけらかして満足感を得体がためだ。


 まあこの知識も部下に調べさせたものだがな!


 ははは!


「……そんな話聞いたことない」


 ルインが困惑した表情を浮かべる。


 まあ自分の街が自分の知っている歴史と違ったら、そりゃ困惑するだろう。


 それもこの話では、ヴェニス人は侵略者となっている。


 だが、ルインよ。


 歴史とはあらゆる方角から見るべきだぞ?


 自分たちの都合の良い歴史しか見ないのは駄目だな。


 と、ルインに説教臭く教えてやった。


 ルインは神妙な顔でオレの話を聞いていた。


 ふははは!


 やはり知識マウント取るのは気持ちがいいぜ!


 ラトゥに調べさせたかいがあったというものだな!

前へ次へ目次