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41. 予想通りと予想外

 ふはははは!


 遠くからオレを狙って勝とうなんて甘いぜ!


 フルーツタルトのような甘さだな!


 ワッハッハッー!


 オレは伯爵だぞ?


 そんな暗殺じみた攻撃が効くわけがなかろう?


 オレはお返しとばかりに氷弾をくれてやった。


 そして見事、命中。


 ふはははは!


 一撃で仕留めてやったぜ!


 オレは悪徳貴族だぜ?


 昔から山賊狩りをしてきまくってきたんだ。


 人を狩るのは得意中の得意だぜ!


 オレが人狩りで負けるわけがなかろう!


 オレのように偉いやつは狩られる側になることはないのだからな!


 わーっはっは!


 狩られるのは身分の低いやつらだけなのさ!


 貴族最高だぜ!


 だがまあ、そんなオレに一撃を与えたバレットも少しはやるようだな。


 まさかオレが肩に傷を負うとは思っても見なかったぜ。


 だがそもそも、あいつに銃を勧めたのはオレだ。


 つまり、オレの天才的なアドバイスのおかげってことだな!


 オレは見る目もあるようだ!


 ワーッハッハッー!


◇ ◇ ◇


 決勝戦まで進んだアークの鼻は長ーくピノキオのように伸びていた。


 と、それはさておき。


 アークがカミュラの魔法の発動を察知できたのには理由がある。


 アークは全身に魔法式を刻み込んでいる。


 魔法式は少なからず、魔力――つまり、他の魔法と共鳴するのだ。


 アークは体に直接魔法式を組み込んでいるからこそ、僅かな共鳴から魔法を認知することができる。


 そして魔法回路からの情報伝達スピードは人間の反射速度を上回る。


 つまり、アークの反射速度は普通の人間よりも上なのだ。


 だからバレットからの狙撃も、アークは警戒することなく歩くことができた。


 しかし、そんなアークであっても、バレットの一撃には肝を冷やしたのである。


 アークが最も緊張が途切れた瞬間を狙われ、さらに障壁を貫いて魔弾が向かってきたのだ。


 アークに化け物じみた反射神経がなければ回避できなかったであろう。


 なんにせよ、バレットはたった数週間の努力でアークに一撃を与えるほどの才能を持っていたのだった。


◇ ◇ ◇


 スルトたちは地下の暗い道を進んでいた。


 途中、何度かゴーレムと遭遇するが、危なげな突破していく。


 原作とは違い、ここにはカミュラがいる。


 カミュラの実力は、本来ここにいるはずだったルインやマギサよりも上だ。


 カミュラの助けもあってか、彼らは無事地下の最奥にたどり着いた。


 そこには、予想通りというべきか、エムブラが待ち構えていた。


「遅かったですね」


 エムブラは笑顔でいる。


 いつもと変わらない教師の顔だ。


 貼り付けたような笑みだ。


「ここでなにをやっているのですか?」


 ロストが尋ねる。


「お仕事です」


「仕事だと? ならばなぜゴーレムなど配置した。あれは学園を襲撃したものと同じやつだ」


 誰がどうみても、エムブラが襲撃の犯人ということは明らかだった。


「余計な者を近づかせないようにですよ」


「それは私たちのことでしょうか?」


 ロストの問いに、エムブラは笑顔を向けたまま無言を貫く。


 肯定とも否定とも取れる態度だ。


 ロストは否定と受け取った。


「クリスタルエーテルをどうするつもりだ?」


 スルトはエムブラを睨みつけながらレーヴァテインを抜く。


「奪います。これは私達に必要なものですので」


「はっ。本性を現しやがったな。目的はなんだ?」


 クリスタルエーテル。


 それは無限の魔力を有する魔石だ。


 正確には無限ではないが、ほぼそれと同義である。


 空気中に浮かぶ魔素を吸収し、魔力を供給し続ける古代遺物(アーティファクト)である。


 学園が有する貴重なアイテムだ。


 もちろん管理も厳重だ。


 教師であるとはいえ、エムブラとて簡単に入ることはできない。


 だが、今日は魔法大会が行われている。


 魔法大会では空間を拡張される魔法が展開されているが、その魔法には膨大な魔力が必要となる。


 その際にクリスタルエーテルが使われる。


 つまり、現在クリスタルエーテルは稼働中ということだ。


 そしてクリスタルエーテルを動かすために、地下が開放される。


 エムブラはそれを狙っていた。


 しかし当然、魔法大会開催中もクリスタルエーテルは厳重に管理されている。


 エムブラはそれを突破してきた。


 クリスタルエーテルを盗むために。


「ふふっ。目的ですか? それを聞いてどうします? 聞いたところで何もできないでしょうに」


「何もできないわけが……」


 スルトは言葉に詰まる。


 何もできなかった過去が蘇る。


 何もできずに闇の手の者たちによって村を滅ぼされた。


 演習でも慰問でもスルトは何もできなかった。


 彼は不甲斐ない己を振り切るように首を横に振った。


「ない! 少なくとも、いまここでお前を止めて見せる!」


 スルトはレーヴァテインを強く握る。


 そしてエムブラに向かって駆け出した。


「手が早いな、スルト。だが嫌いじゃない」


 ロストも同時に動き出す。


 どう考えてもエムブラは敵である。


 クリスタルエーテルを盗もうとしているだけでなく、黒ゴーレムを使って学園を襲撃した可能性も高い。


 この状況でエムブラを怪しまないほうが無理である。


 彼らはいま見た現実から判断してエムブラを敵と判断し、動き出した。


 しかし、


「短絡的な行動は困りますね」


 カミュラの鎖が二人を拘束した。


「「……ッ!?」」


 予想外の攻撃に、スルトとロストは同時に目を見開いた。

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