28. 慰問
ヒャッハー!
クソ演習も終わり、ようやくゆっくりできるぜ!
そういえばあの黒ゴーレム、学園の意図してないゴーレムだったらしい。
まあ終わったことはどうでもいい。
重要なのはオレがいかに自由気ままに、自分勝手に過ごすかだ。
演習が終わってから2週間の休暇があった。
この間、好き勝手にやろうと思った。
だが――
「クソがッ――!」
あの迷惑第二王女にオレの休暇を奪われた。
魔物が出た地域の遺族を訪問する――いわゆる慰問というやつに誘われた。
なんでオレがそんなところにいかなちゃいけない?
意味がわからなかった。
絶対にイヤだったが、あのクソ王女はオレを公衆の面前で誘ってきやがった。
クソ面倒だが、みんなの前で誘われたから断るにも断れない。
クソがっ。
だから王女は嫌いなんだよ。
オレはちょうど近くにいたやつらも巻き込んでやった。
公爵令嬢と赤髪野郎だ。
やつらを道連れにしてやった。
一対一で王女の相手をするとか耐えられない。
発狂してしまう。
スルトのやつ、「げっ、なんで俺が」って顔してやがった。
ふはははは!
貴様には生贄になってもらう。
王女の相手は生贄に任せよう。
さっさとクソ面倒な慰問を終わらせて、オレはバケーションを満喫すると決めた。
◇ ◇ ◇
マギサが慰問を考えたのも、もとはと言えばアークのせいであった。
悩みに悩んだマギサは、いま苦しんでいる人たちの助けに少しでもなればと考えて、魔族の被害が出たところを周ろうと考えたのだ。
すべて自業自得であることに、アークは気づかない。
そしてこの流れは、多少参加メンバーが異なるものの原作にもあった流れだ。
原作でも、王女とスルト、そしてルインは慰問会に赴くことになる。
アークが加わった以外は、原作と同じ流れを辿っていた。
原作にもあったということは、つまり、ただの慰問で終わるはずもないということだ
そして原作は鬱アニメである。
当然のように主人公たちは悲劇を迎えることになる。
果たして、この後に迎えるである悲劇をアークは回避できるのであろうか?
◇ ◇ ◇
クソめんどくさい演習が終わったと思ったら、クソめんどくさい慰問会だ。
なんでオレが平民のために時間をさかなきゃいけないんだ?
王女の頼みじゃなかったら真っ先に断っている。
王女の頼みでも断りたい。
くそっ。
領地で優雅にバケーションを過ごそうと考えたのに……。
だからオレよりも権力がある奴は嫌いなんだ。
こちらの意思を無視して勝手に決めやがる。
オレは誰かに指図するのは好きだが、指図されるのは嫌いだ。
はあ、嫌だぜ。
鬱だぜ。
憂鬱だぜ。
オレは豪華な馬車に揺られている。
王女が用意した馬車だ。
古代遺物らしい。
中は空間魔法によって拡張されている。
揺れを軽減する魔術と室内温度を調整する魔術が付与されており、かなり快適だ。
だが、古代遺物というだけあって、この世に数えるほどしか存在しないレアアイテムだ。
まあただ、車を知っているオレからすれば、それほどの驚きはない。
むしろ車を知っているから「こんなもんか」と思ってしまう。
ちなみにこの馬車には、オレと王女の他に公爵令嬢、赤髪野郎がいる。
馬車の周りを近衛騎士団が固めており、大所帯になっていた。
「どうかされましたか?」
王女が話しかけてきた。
どうもこーもねーよ。
「なぜ慰問を行おうと考えられたのですか?」
「民の心を癒やすのは、王族の務めだからです」
いやいや、王女様よ。
そもそもの話だ。
あんたが慰問に行ったところで、誰も何も救われんだろうよ。
それなら物資を送ったほうが百倍マシだ。
「わざわざ貴方が行く必要は?」
「民を守るが王族の責務です。責務を全うできなかったのなら、せめて慰問を行おうと考えたのです」
いや、知らんがな。
そもそも王族・貴族の務めってのは、平民の税金で豪遊することだ。
オレはそれ以外知らん。
「ご立派ですね」
心にもないことをいう。
王女が立派なのは良いが、オレを巻き込まないで欲しい。
「ありがとうございます」
王女が安堵したように息を吐く。
はあ……。
民の心を癒やす前にオレの心を癒やしてくれ。
王女と話すのは疲れる。
オレは会話を打ち切って外の景色を眺めた。
ところどころに魔物が暴れ回った跡がある。
それなりの被害が出ていたのだろう。
だが、オレとは関係のないことだ。
テレビで戦争の映像を見ていたときと同じ気持ちだ。
他所で起きた事件など心底どうでもいい。
「やはり気になられますか?」
王女が再び話してきた。
こいつなんなの?
気になるわ。
お前が話しかけてくることがな。
「ここ最近、魔物が出現する回数が増えております。それによって町も道も魔物によって荒らされております」
ちらっと王女の顔を盗み見る。
王女が沈痛な表情をしていた。
他人のためを思えるのは、この王女の魅力なんだろうな。
オレにはそこまで心を痛める理由がわからんな。
所詮、ひとは自分勝手な生き物だ。
自分が満足していればそれでいい。
少なくともオレはそう思っているし、そう生きたいと考えている。
「私にできることは少ないですが、少しでも多くの者たちの力になりたいと考えています」
あっそ。
と言いたいところだけど、さすがに不敬だ。
とりあえず媚でも売っておくか。
オレはそれっぽいことを言うことにした。
「マギサ様の手が足りないというなら私が補いましょう。
あなたの手となり足となり、多くの者を助けられるよう微力を尽くします」
言葉通り、微力しか尽くさないがな。
「ありがとうございます! アーク様がいれば心強いです!」
王女が目を輝かせながらオレの手を握ってきた。
うわっ。
なんだよ、こいつ。
距離近すぎだろ。
権力があるからって、なんでも許されると思うなよ?
「……近い」
隣から冷たい声が聞こえてきた。
公爵令嬢がなぜか睨んできていた。
今まで会話に参加してなかったから、ちょっと存在忘れてたわ。
さらに、赤髪野郎が呆れた目でオレを見てきた。
平民のくせに生意気だな。
ぶっ殺すぞ?
「も、申し訳ありません……。少し高揚してしまいまして」
マギサがオレから手を離す。
「……」
公爵令嬢が無言の圧力をかけてくる。
なんでこいつ、こんなに機嫌が悪いの?
あ、わかった。
無理やり慰問に参加させられたから怒ってるんだ。
まあそりゃ、そうだ。
貴重な休暇を、こんなクソイベンドに突き合わされてるんだからな!
だが、ルインもスルトも一緒に苦しんでもらうぞ?
オレ一人が苦痛を味わうなんてまっぴらだ!
貴様らにも王女の相手をしてもらおう!
ふはははは!
しかし……なんで王女様はオレにばっか話しかけてくるんだ?
嫌がらせだろうか?