前へ次へ
28/203

28. 慰問

 ヒャッハー!


 クソ演習も終わり、ようやくゆっくりできるぜ!


 そういえばあの黒ゴーレム、学園の意図してないゴーレムだったらしい。


 まあ終わったことはどうでもいい。


 重要なのはオレがいかに自由気ままに、自分勝手に過ごすかだ。


 演習が終わってから2週間の休暇があった。


 この間、好き勝手にやろうと思った。


 だが――


「クソがッ――!」


 あの迷惑第二王女にオレの休暇を奪われた。


 魔物が出た地域の遺族を訪問する――いわゆる慰問というやつに誘われた。


 なんでオレがそんなところにいかなちゃいけない?


 意味がわからなかった。


 絶対にイヤだったが、あのクソ王女はオレを公衆の面前で誘ってきやがった。


 クソ面倒だが、みんなの前で誘われたから断るにも断れない。


 クソがっ。


 だから王女は嫌いなんだよ。


 オレはちょうど近くにいたやつらも巻き込んでやった。


 公爵令嬢と赤髪野郎だ。


 やつらを道連れにしてやった。


 一対一で王女の相手をするとか耐えられない。


 発狂してしまう。


 スルトのやつ、「げっ、なんで俺が」って顔してやがった。


 ふはははは!


 貴様には生贄になってもらう。


 王女の相手は生贄(スルト)に任せよう。


 さっさとクソ面倒な慰問を終わらせて、オレはバケーションを満喫すると決めた。


◇ ◇ ◇


 マギサが慰問を考えたのも、もとはと言えばアークのせいであった。


 悩みに悩んだマギサは、いま苦しんでいる人たちの助けに少しでもなればと考えて、魔族の被害が出たところを周ろうと考えたのだ。


 すべて自業自得であることに、アークは気づかない。


 そしてこの流れは、多少参加メンバーが異なるものの原作にもあった流れだ。


 原作でも、王女とスルト、そしてルインは慰問会に赴くことになる。


 アークが加わった以外は、原作と同じ流れを辿っていた。


 原作にもあったということは、つまり、ただの慰問で終わるはずもないということだ


 そして原作は鬱アニメである。


 当然のように主人公たちは悲劇を迎えることになる。


 果たして、この後に迎えるである悲劇をアークは回避できるのであろうか?


◇ ◇ ◇


 クソめんどくさい演習が終わったと思ったら、クソめんどくさい慰問会だ。


 なんでオレが平民のために時間をさかなきゃいけないんだ?


 王女の頼みじゃなかったら真っ先に断っている。


 王女の頼みでも断りたい。


 くそっ。


 領地で優雅にバケーションを過ごそうと考えたのに……。


 だからオレよりも権力がある奴は嫌いなんだ。


 こちらの意思を無視して勝手に決めやがる。


 オレは誰かに指図するのは好きだが、指図されるのは嫌いだ。


 はあ、嫌だぜ。


 鬱だぜ。


 憂鬱だぜ。


 オレは豪華な馬車に揺られている。


 王女が用意した馬車だ。


 古代遺物(アーティファクト)らしい。


 中は空間魔法によって拡張されている。


 揺れを軽減する魔術と室内温度を調整する魔術が付与されており、かなり快適だ。


 だが、古代遺物(アーティファクト)というだけあって、この世に数えるほどしか存在しないレアアイテムだ。


 まあただ、車を知っているオレからすれば、それほどの驚きはない。


 むしろ車を知っているから「こんなもんか」と思ってしまう。


 ちなみにこの馬車には、オレと王女の他に公爵令嬢、赤髪野郎がいる。


 馬車の周りを近衛騎士団が固めており、大所帯になっていた。


「どうかされましたか?」


 王女が話しかけてきた。


 どうもこーもねーよ。


「なぜ慰問を行おうと考えられたのですか?」


「民の心を癒やすのは、王族の務めだからです」


 いやいや、王女様よ。


 そもそもの話だ。


あんたが慰問に行ったところで、誰も何も救われんだろうよ。


 それなら物資を送ったほうが百倍マシだ。


「わざわざ貴方が行く必要は?」


「民を守るが王族の責務です。責務を全うできなかったのなら、せめて慰問を行おうと考えたのです」


 いや、知らんがな。


 そもそも王族・貴族の務めってのは、平民の税金で豪遊することだ。


 オレはそれ以外知らん。


「ご立派ですね」


 心にもないことをいう。


 王女が立派なのは良いが、オレを巻き込まないで欲しい。


「ありがとうございます」


 王女が安堵したように息を吐く。


 はあ……。


 民の心を癒やす前にオレの心を癒やしてくれ。


 王女と話すのは疲れる。


 オレは会話を打ち切って外の景色を眺めた。


 ところどころに魔物が暴れ回った跡がある。


 それなりの被害が出ていたのだろう。


 だが、オレとは関係のないことだ。


 テレビで戦争の映像を見ていたときと同じ気持ちだ。


 他所で起きた事件など心底どうでもいい。


「やはり気になられますか?」


 王女が再び話してきた。


 こいつなんなの?


 気になるわ。


 お前が話しかけてくることがな。


「ここ最近、魔物が出現する回数が増えております。それによって町も道も魔物によって荒らされております」


 ちらっと王女の顔を盗み見る。


 王女が沈痛な表情をしていた。


 他人のためを思えるのは、この王女の魅力なんだろうな。


 オレにはそこまで心を痛める理由がわからんな。


 所詮、ひとは自分勝手な生き物だ。


 自分が満足していればそれでいい。


 少なくともオレはそう思っているし、そう生きたいと考えている。


「私にできることは少ないですが、少しでも多くの者たちの力になりたいと考えています」


 あっそ。


 と言いたいところだけど、さすがに不敬だ。


 とりあえず媚でも売っておくか。


 オレはそれっぽいことを言うことにした。


「マギサ様の手が足りないというなら私が補いましょう。

あなたの手となり足となり、多くの者を助けられるよう微力(・・・)を尽くします」


 言葉通り、微力しか尽くさないがな。


「ありがとうございます! アーク様がいれば心強いです!」


 王女が目を輝かせながらオレの手を握ってきた。


 うわっ。


 なんだよ、こいつ。


 距離近すぎだろ。


 権力があるからって、なんでも許されると思うなよ?


「……近い」


 隣から冷たい声が聞こえてきた。


 公爵令嬢がなぜか睨んできていた。


 今まで会話に参加してなかったから、ちょっと存在忘れてたわ。


 さらに、赤髪野郎が呆れた目でオレを見てきた。


 平民のくせに生意気だな。


 ぶっ殺すぞ?


「も、申し訳ありません……。少し高揚してしまいまして」


 マギサがオレから手を離す。


「……」


 公爵令嬢が無言の圧力をかけてくる。


 なんでこいつ、こんなに機嫌が悪いの?


 あ、わかった。


 無理やり慰問に参加させられたから怒ってるんだ。


 まあそりゃ、そうだ。


 貴重な休暇を、こんなクソイベンドに突き合わされてるんだからな!


 だが、ルインもスルトも一緒に苦しんでもらうぞ?


 オレ一人が苦痛を味わうなんてまっぴらだ!


 貴様らにも王女の相手をしてもらおう!


 ふはははは!


 しかし……なんで王女様はオレにばっか話しかけてくるんだ?


 嫌がらせだろうか?

前へ次へ目次