2. 転生
この世界でのオレの名前はアーク・ノーヤダーマ。
悪の親玉ってなんだよ! と、ツッコミを入れたくなるような名前だ。
どっちかっていうと、オレの両親のほうが悪の親玉って感じだ。
いわゆる悪徳領主ってやつだ。
領民をゴミのように扱っていたり、領民の家畜や土地を無理やり没収したり、不当な条例を作って利益を独占したり、領民に無茶な兵役を課したり、過度な税金を徴収したりしている。
領民が飢餓に苦しんでいたときには、領民に見せびらかすように豪遊しまくっていたらしい。
賄賂なんて当たり前に貰っていた。
クズのような奴らだった。
そんなクズな両親だが、先日死んだ。
趣味の狩猟をしているときに、突如現れた魔物に襲われて死んだらしい。
一応両親が死んだから涙を流そうとしたが、一切涙が出てこなかった。
オレの目はドライアイなのかもしれない。
ちなみに、この世界は魔物がいたり、魔法があったりとファンタジー的な要素がある。
オレは獣人族が好きなのだが、残念ながら獣人族はいらないらしい。
残念すぎてまじで涙が出てきた。
両親の死よりも、獣人族がいないほうが遥かにショックだった。
そもそもあのクズ親、本当に魔物に襲われたかどうかも怪しいところだ。
魔物なんてそうそう現れるものじゃない。
誰かに殺された可能性だって考えられる。
まあ、あのクズな親どもだ。
恨みなんて死ぬほど買っているだろう。
文字通り、死んじゃったけどな。
南無阿弥陀仏。
両親の葬式を終えたオレは、領主となって領地を治めていく必要があった。
ちなみにオレはこれからガルム伯爵になる。
ガルム伯爵は、犬の紋章の由緒正しく貴族家だとか。
そして、ガルムというのは領地の名前だ。
これから一つの領地を治めるとなったものの、オレは8歳。
こんなオレに領地を治める力などない。
だからオレはランパードに頼った。
ランパードは先々代からノーヤダーマ家に仕える執事長のことだ。
老年で背筋がスッと伸びている、いかにも執事って顔をしたやつだ。
まずオレが命じたことは不正をすべて洗い出すことだ。
「ああアーク様。まさかあの人達から、このような正義感が強い子が生まれるなんて。これは奇跡です」
などとランパードがのたまっていが、何を勘違いしていることやら。
もちろん、正義感なんて一切ない。
オレは真面目に生きるつもりはないから、自分が不正するのは良いと思っている。
だが、他人の不正は許さん。
オレは前世で不正に苦しめられたからな。
そもそもこの領地のものはすべてオレのものだ。
不正ってのは、つまり、オレの所有物を不当に奪うってことだ。
そんなの許せるわけがない。
ランパードが不正の証拠を次々と見つけ出してきた。
証拠が出まくって笑えてきた。
不正のオンパレードだ。
屋敷の者の名前もたくさん出てきた。
まじでこの組織腐っているな。
前世を思い出して吐き気を覚えた。
ランパードに命じて、すべて処理させた。
あのクズ親どものせいで被害を受けた者たちがいた。
そいつらには、金を払うことで口封じしておいた。
ふはははは!
この世は所詮金と権力でなんとかなるのだよ!
悪徳領主最高だぜ!
領地はボロッボロだったが、領地経営なんて知らん。
ランパードに任せた。
領地の立て直しにかなりの資金がいると言われた。
正直、領地がボロボロだとオレが潤わない。
だから領地の立て直しは必須だ。
そこでクズ親どもが集めていた美術品とか骨董品とかをすべて売り払った。
意外とあの両親、良いものを見抜く目はあったらしい。
そのおかげでかなりの額になった。
だがそれでも足りないらしい。
金が足りないならコストダウンだ。
軍縮を進めるようランパードに命じた。
だがランパードは反対してきやがった。
「昨今魔物や山賊の出現で領地が荒れております。ここで軍を縮小させると、取り返しの付かない状態になってしまうかもしれません」
「見栄だけの軍隊なら、ないほうがマシだ」
クズ両親は見栄のために軍を拡大してきた。
だが中身はボロボロだ。
見栄は大事だが、オンボロな見栄なら張らないほうがマシだ。
それにオレの大切なお金をそんな無駄なところに使っていられない。
「舐められたら終わりですぞ!」
「すでに舐められてる。でなきゃ山賊が荒らし回ってなどいない」
「それは……」
「兵士を1/3にまで減らせ。それと偉い奴らは全員やめさせろ。無能に金を使う余裕はないからな」
給料が高い奴らからクビにすることで金が浮く。
余った金でランパードに立て直しを命じた。
ランパードは渋々といった感じで従った。
ふははは!
他人を命令できる立場は最高だぜ!
前世では上からこき下ろされるだけだったな。
貴族最高!
色々ランパードに命じていたら、人手が足りないと言ってきやがった。
そもそも、この屋敷人が少なすぎるんだよ。
人が少ないから、まともなサービスもない。
そんなのは駄目だ!
オレの屋敷なのだから、もちろんオレへのサービスを充実させる必要がある!
オレはクソ親に家畜や土地を没収された者たちを使用人として雇うことにした。
オレのもとで働きたくはないだろうが、オレは領主だ。
貴様らはオレのものなのだよ。
やつらがオレに恨みを持っていることは重々承知だ。
だからオレはやつらに言ってやった。
「オレを許せとは言わん。許されようとも思っていない。
恨みたいなら恨め。貴様らにはその資格があるのだからな。
だがこれだけは言おう! 恨みで飯は食えん!
私に恨みを持つなら持てばいい。
だがそれで生活は楽になるのかね? 現実が変わるのかね?
貴様らが選べる道は2つだ。
1つはオレを恨んだまま野垂れ死ぬこと。
もう1つはオレを恨みながらもオレに服従することだ!
さあ選べ! オレはどちらでも構わん!
だが、ここで働くと言うなら最低限の生活は保証してやろう」
まあ保証するのは”最低限”の生活だけだけどね。
なんたってうちには金がない。
奴らは涙を流していたが、それでもオレは無理やり働かせた。
オレの命令は絶対だ!
ふははは!
優越感が半端ない。
ついでに今まで働いていたやつらの給料も、”最低限”にしてやった。
オレはランパードをはじめ、多くの使用人がせっせと働いている中で優雅に紅茶を飲んだ。
他人が働いてる中で飲む紅茶は格別だ。
「紅茶が美味いな」
今日もオレは悪徳貴族として好き勝手に生きている。