帰る道
この小説に目を留めていただきありがとうございます。
皆様の暇つぶしになれば幸いです。
その日、僕は1年ぶりの帰省で実家へ戻るため車を走らせていました。
今住んでいる地域から実家までは車で5時間ほど。夜になる前に帰りたいからと、途中休憩の余裕を持って午前10時頃には、実家に向かって出発したんです。
実家までの道のりは順調で、予定していたよりも大分早く、道のりの半分あたりにたどり着けた。
この調子なら、多分実家には4時頃には着けるだろうか。そんな風に思っていました。
私は一人暮らしで彼女もおらず、その時の帰省も一人旅でした。
そろそろ休憩でもしようかと、パーキングエリアに立ち寄り食事を済ませました。その後は売店で眠気覚ましにと、ガムやコーヒーなどを購入して車に戻りますと、私の車の側に見知らぬ人物が立って、私の車の後部座席を見つめているではありませんか。
後ろ姿しか見えませんでしたが、背格好から私はその人物が男性だと思いました。
最初、私は車をぶつけられたのかなと思い、慌てて車へ駆け寄ろうとしたんです。
しかしその直後、私は車の窓に反射したその男性の顔を見て、ギクリと足を止めました。
なぜなら窓に反射して見えた男性の顔には、目も鼻も口も無く、顔中に地図のような模様が描かれていたのです。
地図を貼り付けているのではありません。何もないまっさらな肌に、地図が印刷されていると言えばいいのでしょうか、とにかく顔が地図になっていたんです。
私はもう、これは普通の人間ではないと直感し、その場でただ立ちすくむことしかできませんでした。
早くどこかに行ってくれ、何で私の車を見ているんだ。
そんな考えがいくつも浮かんでは消え、暑い日だったというのに背筋が凍り付いたように感じたのを今でも覚えています。そうして10分ほど経ったでしょうか、不意にその男性が私の車から顔を逸らして離れていきました。
横顔はとても見ることができません。あの地図が張り付いた顔は絶対に見たくない、私は必死になって視線を別の方に向けて男が立ち去るのを待ちました。
今度は5分ほど目を逸らしていたと思います。
さすがにこれだけ逸らしていれば、もうどこかに行ってしまっただろう。そう考えて視線を戻した瞬間。
「お前は、ここへ帰る道がわかるか?」
窓越しに見た地図が、私の目と鼻の先に突き付けられていました。
いえ、正確には先ほどの男性が私と顔同士がくっ付きそうなほど、密着していたのです。なぜこんなに密着されて気付かなかったのか、今思えば不思議でなりません。
しかしその時の私は、もう小便を漏らしそうなほどに驚き、声にならない声を呼吸と共に漏らすしかできません。
やはり男性の顔には何もなく、どこか古臭い地図が代わりに描かれているだけ、それなのにハッキリと男性の声は私の耳に届くのです。
「お前は ここへ帰る道が わかるか?」
もはやパニック寸前だった私でしたが、何故か男の言葉に答えなければと強く思ったのです。
まばたきすることも忘れ、私は目の前に突き付けられた地図を見つめました。
それは一見すると、教科書などで見たことのある江戸時代より前に描かれた地図のように見えました。
しかしじっくりと見れば、私がこのパーキングエリアに立ち寄るまで、スマートフォンで見ていた、このあたりの地図だったのです。
古臭く見えたのは、男性の肌が浅黒かったことと、地図そのものが筆のような筆跡で描かれていたからでした。
そしてその地図には、一ヶ所だけ×印がつけられており、男性が尋ねているのはそこのことなのだと、何故かスッと理解することができました。
もちろん、このあたりには実家に帰省する時以外は通りがかることもありませんから、その印が付いた場所には心当たりなんてありません。
しかし非常に正確に描かれた地図を見れば、その印がつけられていたのは、なんと私が今出てきたパーキングエリアではありませんか。それを口にしようとして、しかし何故かそれを言ってはいけないと、頭の中で止める自分がいます。
「す、すみません。私にはわかりません」
結果として、私は震える声で男性に嘘を答えました。
すると男性は、どこか気落ちしたように顔を下げ、一言「そうか」とだけ零すと、私に背を向けてどこかへと立ち去っていきました。その瞬間、私の顔にはドッと汗が吹き出し、思わずその場に座り込んでしまいました。
でもすぐに気を取り直し、転がるように車へと乗りこむと、そのままわき目もふらず大急ぎで実家を目指しました。
その後は特に何事もなく、無事実家へとたどり着いくことができました。家族にこのことを話したのですが、全員が夢でも見たんだろう、疲れてボーっとしてたんだろうとまともに聞いてはくれません。
私自身も、だんだんとあれは夢ではないかと思うようになりました。
けれど、嘘をついてしまったことに強い罪悪感を覚え、帰り道ではそのパーキングエリアには立ち寄りませんでした。
これは後になり、気になって調べた結果分かったことなのですが、あのパーキングエリアがあった場所には、もともと地元の神様が祀られていたそうです。しかし、土地開発で高速道路が通ることになり、パーキングエリアを建てるからと神社は取り壊されてしまいました。
その際に、小さく古い神社で管理をしている人もいないからと、神様を移す儀式なども行わなかったそうで。
もしかしたらあの男性は、その神社に祀られていた神様だったのでしょうか。
ちょうど自分が祀られてた神社のあたりから出てきた私を見て、帰り道を尋ねてきたのかもしれません。
それ以外、私は帰省する際にあのパーキングエリアだけは、どうしても立ち寄ることができないでいます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
作者のラモンと申します。
再び思いついたので、またまた突貫工事で書いてみました。
少しでも怖いと思って貰えたら嬉しいです。
よければ感想などもお聞かせください。
それでは、別の作品でお会いしましょう。
ラモンでした。
※突貫での執筆だったため、内容や記述がおかしな場所があるかもしれません。
もし内容が繋がっていない、矛盾している、誤字脱字などお気づきの点がありましたら、感想などでご指摘ください。