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大会終了と表彰式

『試合終了っ! 帝国主催、闘技大会優勝者は……ユーミル・ハインドコンビである!』


 グラド皇帝の力強い宣言に、観客達が更なる大歓声を上げた。

 俺がそれに呆然としていると、不意に背中へドッと衝撃が走る。


「あはははっ! 勝った、勝ったぞハインド! どうした、喜べ!」


 先程までの悲し気な表情はどこへやら、喜色満面のユーミルが俺にのしかかってくる。

 重みでふらついたが、踏ん張って状況把握に努めた。


「ユーミル……最後、どうなったんだ?」

「何のことはない! 私がヤツよりも先に攻撃を当てたという、ただそれだけだぞ!」

「――ははっ、マジかよ」


 最後の最後でこいつ、兄貴の反応速度を上回りやがった。

 ユーミルの話によると『サクリファイス』の効果時間は『バーストエッジ』を撃った直後に切れたのだそうな。

 俺はその瞬間を見ることが叶わなかったので、後でリプレイでじっくりと確認したいと思う。

 そして皇帝陛下が会場に向かって言葉を続ける。


『傑出した個の力――アルベルトのような武人は、古来より人を魅了して止まない。しかし個で劣ろうとも連携でそれを乗り越える姿は、実に美しい! お前達の全力を出し合った戦い、余は大変満足であるっ! 感無量ぞ!』


 そんな陛下の言葉を受けつつ、向こうではアルベルトとフィリアがゆっくりと起き上がった。

 彼はそのまま大剣を回収した後、フィリアを伴って真っ直ぐこちらに向かって歩いてくる。

 何事かと、背に乗っていたユーミルも俺から降りてアルベルトと向かい合う。


「どうやら、また負けたようだな……だが、楽しい戦いだったぞ二人とも。優勝おめでとう」

「ありがとう、アルベルト! 負けたというのに爽やかな奴だな! 大人かっ!」


 少なくともユーミルよりは、実年齢的にも精神的にも大人だろうなあ……。

 ユーミルの珍妙な発言にさしもの兄貴も、どんな顔をしていいか分からなくなって頬を掻いた。

 と、そこでアルベルトの横の小さな少女もこちらを上目遣いで見やってボソッと一言。


「……おめでとう」

「お、おお。ありがとう、フィリアちゃん」


 本当に祝ってくれてる?

 表情変わらないなぁ、この子……悔しがっているのかそうでないのかサッパリ分からない。

 俺達はそのまま互いに握手を交わし、観客からも敗れたアルベルト達に拍手が送られる。


「――ところで、一つこの場で相談があるのだが。聞いてくれないか?」

「なんです?」


 ゴツイ体をやや屈めるようにして、声のボリュームを絞って話し掛けてくる。

 この場面で一体なんだ? と疑問に思っていたら、彼の語った相談内容はある意味とても納得いくものだった。


 アルベルトの兄貴の願いは、敗者として優勝者を称えることで傭兵としての株を上げておきたい――という、顔に似合わず計算高いしたたかなものだった。

 その為のアピールを今からするので、俺達に協力して欲しいそうだ。


「そんなことをしなくとも、アルベルトの評判はもう充分に高いと思うのだが……?」


 ユーミルが言うように、決勝までの圧巻の戦いぶりを見れば彼の強さを疑うプレイヤーは居ないだろう。

 今後は傭兵としての依頼も増えるのではないだろうか?

 だが、彼は力を見せつけただけでは良くないのだと言う。


「念には念を。人柄を評価されれば、それだけ依頼も受け易くなるというものだ。俺はただでさえこの容姿で、人に怖がられ易いからな」


 つまり親しみやすさが足りないと?

 まあ、こちらとしては「上に乗っかっているだけ」なので一向に構わないが。


「大丈夫ですよ。やるなら皇帝陛下が待ってくれている今の内にやってしまいましょう」

「感謝する。ユーミルも、良いだろうか? 敗者の自分勝手な申し出で済まないが」

「うむ、いいぞ。しかし、本当に持ち上がるのか?」


 俺達の承諾を得たアルベルトの兄貴は、ユーミルの質問に答えずに屈み込んだ。

 言葉よりも見せた方が早いということらしい。

 怖々とその広い両肩に俺達が座ると、一気に地面が遠のいていった。


「うおっ、本当に持ち上がった! 高っ! 怖っ!」

「凄い力だな……いや、知ってたけど。二人合わせたら100キロ近くあるのに……」


 両肩に高校生を担いで平然と立つ兄貴。

 落とさないようにしっかりと太い腕が俺達の体を支え、頭を掴んで良いと言うのでユーミルと二人で手を短い茶髪の上に乗せる。

 何だこの安定感……肩なんて不安定な場所に乗っかっているのに、全く落ちる気がしねえ。


 そのまま俺達を称えるように、肩に担いだままぐるりと舞台の上を観客席の方を向きながら一周していく。

 そしてユーミルが声援に応えて片手をブンブンと振った。

 確かにこれなら負けて尚、彼は勝者を称える器の大きい人物として他プレイヤーの目に映るだろう。

 フィリアちゃんもアルベルトの横を一緒にてこてこ歩いていく。

 目線が高くていい眺めだなあ……あ、リィズ達が手を振ってる。おーい。


 と、俺達が周回を終えたところで皇帝陛下がサッと手を上げて誰かに合図を出した。

 更には大きな声でこう発言。


『皆の衆、勝者を称えよ! 彼の者達が、当大会一の強者である!』


 すると観客席のそこかしこに、各街で見掛けた魔導士と同じ黒ずくめの者達が現れて呪文を詠唱した。

 まさか攻撃魔法ということもないだろうが――おっ!


「おおー! ハインド、花火だ! 花火!」

「紙吹雪まで舞ってるぞ。豪勢な演出だなあ」

「……綺麗」

「これも全て、今となってはお前達の為のものだろう。羨ましい限りだ」


 気付けば夜になっていた闘技場の空に、魔導士が手から出した魔法の花火がポンポン打ち上がる。

 そこかしこで光の粒が弾け、武骨な闘技場に美しい色彩が花を添えた。

 観客達、特に女性プレイヤーはこの演出に嬉しそうに目を輝かせている。


『諸君、楽しんで頂けたかな? ではこのまま表彰式に移る! ユーミル・ハインド、両名は余の前へ』


 皇帝陛下が宣言し、帝国軍人らしき一団によって舞台上に一斉にテーブル・トロフィー・賞品が並べられた。

 兄貴の肩から降り、俺達は皇帝陛下の前に立つ。




 華やかな表彰式が終わり、今の俺は一人静かに自室のベッドでまどろんでいた。

 こうしていると先程までの騒がしさ、賑やかさが噓のようだ。


 しかしあの景品の馬、立派だったなぁ。

 馬名は『グラドターク』――だっけ?

 ガチガチの重武装をしたプレイヤーでも余裕で乗せられそうな、しっかりした肉付きをしていた。

 さすがは最高等級といったところである。

 それが二頭も……良く考えたら、二人一組での出場なのだから揉めないように二頭用意しておくのは当たり前の話か。


『それでは諸君、さらばだ! 機会があればまた会おう!』


 表彰式が終わって皇帝陛下がそう告げると、プレイヤー達は全員元居た街へ強制的に戻された。

 ミツヨシさんとトビ、三人娘と別れてサーラに戻った俺達四人はギルドホームでささやかな祝いの席を設けた。

 といっても酒などを飲める訳ではないので、ハーブティーとお菓子を食べつつ喋っていただけだが。

 トビがマール共和国から戻ってくるのは時間が掛かるので、帰り次第全員でもう一度ギルド内でお祝いをするかもしれない。


 そして大会の報酬に関してだが、ギルドメンバーの協力あってこその優勝だったので賞金は後日山分けすることに。

 サーラの厩舎に自動で送られるという馬の処遇については、ギルドの共有物として扱うことにして解散。

 ログアウト後は理世と母さんに就寝の挨拶をしてから、部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。


 それにしてもゲームとはいえ、優勝というのは気分が良い物だな。

 冷えないように布団をしっかり掛け直して寝返りを打つと、自然と口元に笑みが浮かぶ。

 みんなのおかげで、今夜は良い夢を見られそうだ……。

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