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七位vs八位、開戦

 二戦目、ヒポポタマス(グラド帝国)・ファルケ(グラド帝国)対出涸らし緑茶(マール共和国)・乾燥しいたけ(マール共和国)の試合は、ヒポポタマスコンビが勝利。

 続く三戦目、リヒト(ルスト王国)・ローゼ(ルスト王国)対ずっと蛹(グラド帝国)・未完の大器(グラド帝国)の試合は、現在リヒト・ローゼコンビが優勢。

 俺達はの試合はと言うと、またも最終戦になってしまった。

 組み合わせはランダムのはずなんだが、結局両トーナメント共に端っこに名前がある形に収まっている。


「白熱してるな……さすが決勝ブロック。実力伯仲」

「おかしいのは初戦だけだったでござるな」

「もっと言うと、おかしいのはアルベルト一人だけなんだがね」


 ミツヨシさんの言う通り、コンビの片割れであるフィリアちゃんは重戦士として充分に優秀な動きではあったものの、常識の範囲内。

 アルベルトの兄貴だけはグループ戦当初からずっと異次元で、彼だけ一対二で戦うくらいで丁度いいのでは? という声すら上がる始末である。


「しかし、この黄色い声援……誠に以って耳障りでござるなぁ! かぁーっ!」


 トビが嫌そうな顔をする原因となっている女性プレイヤー達の歓声は、全てあのリヒトという騎士に向けられたものだ。

 動画で見た感じ、確かにモテそうな端正な顔立ちをしていた。

 良く見ると、トビ以外にも同じように「けっ」という声が聞こえてきそうな顔をした男性陣が割と多く見受けられる。

 女性人気に反し、どうやら男からは随分と嫌われているらしい。


「羨ましいなら羨ましいって素直に言えばいいのに」

「そそそそ、そんなことはござらん!」

「分かり易い反応どうも」

「トビ君も、脇が甘いところさえ直せばモテるだろうに。もったいねえな」

「どうですかね? 直るものならとっくに直っている気がしますが」

「ちくしょおおおおおお!」


 トビが悔し気に椅子から降りてうずくまった。

 ちょっと弄り過ぎたかな……俺はミツヨシさんと顔を見合わせて苦笑した。

 二人でトビを両側から抱え起こし、椅子に座り直させる。

 トビは暫く顔を覆って呻いていたが、ややあって一つ深呼吸。


「ふぅ、落ち着いた。けれどああも男女で剣技の連続攻撃をバシバシ決められると、嫉妬心が湧いてくるのを抑えきれぬのでござるが」

「アルベルトコンビの両前衛と違って、あの二人は連携してるもんな」

「言われてみればあれはタイマンを二つ作っているだけ、という感じか。それでどうだい、ハインド君。君の目から見て、あの二人の連携の練度は?」


 ミツヨシさんの言葉の直後、相手の前衛である軽戦士が二人の挟撃を受けて戦闘不能になった。

 この試合も、これで趨勢が決したということになるだろうな。


 うーん、ここまで見たあの騎士コンビの連携か……。


「確かに二番人気だけあって、二人ともかなりの強さですね。でもフレンドリーファイアを恐れてか、互いの距離が遠すぎることがあります。付け入る隙は充分にあるかと」

「おほっ、さすが。連携の鬼は言うことが違うね」

「拙者達は身を以て体験済みでござるからな。期待しているでござるよぉ」

「……そんな露骨にヨイショしなくても。それ以前に、まずは目の前の試合に勝たないと次なんて無いんだからさ。気が早いと思うよ、そんな話をするのは」


 そう言って俺は席から立ち上がった。

 勝ち上がれば次は彼等と戦うことになるが、ひとまずは意識の外へ。

 それよりも、もう次戦に向けて移動を開始しておかないと直前になって慌てることになってしまう。


「ユーミル、そろそろ行こうぜ」

「モゴ?」


 モグモグとマフィンを頬張ったユーミルに呼び掛け、準備するように促す。

 女性陣が先程からやけに静かだったのはこのせいだ。

 男性陣は早々に食べ終わったのだが、彼女達は試合そっちのけで時間を掛けてゆっくりとお菓子を味わっている。

 たまに聞こえてくる会話も、試合に関してではなくお菓子談義ばかりだったり。


『……そこまでっ! ルストの二騎士よ、見事! 敵の勝機を悉く摘み取りし戦いぶり、誠に天晴れである! 勝者、リヒト・ローゼコンビ!』


 そうこうしている内に、眼下の舞台では決着がついたようである。

 準々決勝第三試合もこれで終了、結局敗者側のアローレインは不発に終わった。

 これでいよいよ、次は俺達の出番だな。


「では、行ってくる!」

「行ってきます」


 口々に声援を送ってくれる皆に見送られ、俺とユーミルは舞台へと足を運んだ。




 皇帝陛下が見守る中、ヘルシャ・ワルターの二人と向かい合う。

 ワルターは以前と変わらない執事服。

 しかし、恐らく素材は防御力の高い物に一新されているのだろう。

 ヘルシャに関しては前より更に豪華なドレスへと変わっていた。

 どちらも普通のプレイヤーではまず見かけない服装なので、二人ともかなりの目立ちっぷりである。

 ヘルシャに掲示板で「お嬢様」という呼び名が定着していたのもこのためであろう。


「ハインド……貴方とは、決勝でお会いしたかったものですわ」

「掲示板で魔法職両方を応援してくれていた人達はがっかりだろうな……まさかのっけから潰し合いになるとは」

「で、でも、どちらかは準決勝に残るってことですから! ボク、負けたら師匠のことを応援しますっ!」

「負ける前提で話すんじゃありませんわよワルター! ――ハインド! 私達が勝ったら、貴方も必ずこちらを応援するのですわよ!」

「そりゃあ勿論だが……」

「はっ、私達がそう簡単に負ける筈がなかろう!」


 そんなユーミルの言葉に対し、ヘルシャが鋭い目で睨み返す。

 ワルターがはらはらした様子で、皇帝陛下は戦前から火花を散らす二人を楽しそうに見守っている。

 どうやら会話が一段落するまで、開始の合図を待ってくれているようだ。


「……貴方のパートナー、随分と生意気な口を利きますわね? しっかり躾けておかないと駄目じゃありませんの」

「貴様こそ、一々ハインドを挟まないと会話できんのか? あ? 言いたいことがあるなら私に直接言ったらどうだ? この腑抜けが!」


 売り言葉に買い言葉。

 両者のまなじりがキッと上がり、同時に武器を構えて怒鳴りつける。


「無礼な! 貴女の不遜な態度、許し難いですわ!」

「上等だ! さっさと掛かってくるがいい!」


 いやー、前から思っていたんだけど……この二人、気質がそっくり。

 ワルターはどう思う? とのんびり訊くと、困った顔で俺を見返してくる。


「た、確かにそうかもしれませんけど。師匠、これ放っておいて大丈夫なんですか……?」

「大丈夫大丈夫。戦闘後の二人の態度をお楽しみに、ってとこだな」

「師匠がそう言うなら……えと、あの……む、胸をお借りします! 宜しくお願いします!」

「おう。俺も全力を尽くすよ」


 俺はユーミルのやや後方に、ワルターがヘルシャを守るように立つと皇帝陛下が一歩前に出る。

 こうして話が終わるまで待っていてくれた、粋な陛下に感謝だ。


『準備は整ったな? ……ふむ、宜しい。では、準々決勝最終戦、ワルター・ヘルシャフト対ユーミル・ハインド……始めよっ!』

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