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初PvP(観戦)

 かくして、遺恨を残さない為に二人は決闘を行う運びとなった。

 ヘルシャは火と風系統の魔導士だそうで、前衛職との一対一は厳しいかと思われたが――


「何も問題ありませんわ!」


 とのことで決闘を受諾。

 決闘はPKとは違い、勝ち負けで受ける影響に関しては現在のところ何もなし。

 負けてもデスペナルティは無く、体力全快で決闘開始前の状態に戻されるだけだ。

 ただしステータスに勝敗の数が刻まれるので、負けず嫌いはその数字を見てずっと悔しがることになるそうな。

 アップデート予告にて闘技場とPvPランクの実装が予定されており、今回は関係ないが、実装後は勝敗によってそのランクが変動するのだそうだ。


 他のプレイヤーが干渉できなくなるフィールドが形成され、その中でトビとヘルシャが向かい合う。


「わたくしが勝ったら、今後はきちんとプレイヤーネームで呼んで頂きます!」

「拙者が勝ったら、もう少しワルター殿に優しく接するでござる! お主の態度、いささか目に余る!」


 二人とも要求がささやかだね……本当に戦う必要あんの?

 ともあれ、戦いの火蓋が切られた訳で。

 向き合って双方、武器を取り出す。

 俺はワルターの横に並んで戦況を見つめた。


「ヘルシャの武器はむちかぁ。珍しい物を使ってるな」

「お嬢様、乗馬鞭なら扱い慣れているからと仰いまして。それで装備可能な武器に鞭がある魔導士をお選びに……」

「うん……うん? 乗馬鞭と武器に使う長物の鞭は全然違うと思うんだが?」

「ぼ、ボクに聞かれても困りますよぉ」


 「ボク」ねぇ……ワルタ―の自称は初めて聞いたけど、そんなだったとは。

 ボクっ娘というのも世の中には存在するらしいが、平坦な体に化粧っ気の無いこの顔……いや、まさかな。

 こんなに可愛いのだし、俺の考え過ぎだろう。


「ほ、ほら見て下さいよ、ハインドさん。現に、ああやって使いこなしていらっしゃいますし……」

「本当だ、堂に入ってる。しかしトビのやつ、鞭の軌道が全っ然読めてないな……食らい過ぎだろう。空蝉うつせみの術もとっくに消し飛んでるし」


 空蝉の術は本来なら衣服等を身代わりにする技だが、TBでは一撃だけどんなダメージの攻撃でも肩代わりさせることが出来るスキルだ。

 これを使うことで軽戦士は紙防御に保険を掛けながら戦闘可能な訳だが……それが既に無いという事は、劣勢だという何よりの証拠な訳で。

 トビの残りHPは半分、武器のリーチを活かして一方的に攻撃しているヘルシャは無傷だ。


「おっと、トビが懐に飛び込んだ。勝負に出たか」

「お嬢様、危ない!」


 敢えて二刀の内の片方を鞭に絡め取らせ、隙が出来た所に高速の一撃。

 トビは勝利を確信したことだろう。

 首筋を狙った一撃は、あやまたずにヘルシャの全HPを刈り取った――かに思われた。

 しかし、一割ほどのHPを残してダメージによる減少が止まる。

 トビの驚愕をよそに、ヘルシャは短刀が深々と刺さった片手をだらりと降ろしてわらう。


「捕まえましたわ……!」

「!!」


 無事な手に持っていた鞭を投げ捨て、無詠唱の魔法『ファイアーボール』をトビの腹に向けて接射、接射、接射。

 トビの細い体が魔法に合わせて浮き上がる。


「ぬわーーっっ!!」


 あえなくトビは跡形もなく焼き尽くされ――こそしなかったものの、煙を上げながら撃沈。

 決闘はヘルシャの勝利で終了し、バトルフィールドが解除されるのだった。




「へ? お二人は現実でも主従関係……でござるか?」


 トビとヘルシャの頭が冷えたところで、支障の無い範囲でヘルシャとワルターの関係について聞くことに。

 それによると、ヘルシャは実際に良い所のお嬢様らしい。

 その格好、ロールプレイじゃなかったのか……。


「何やら誤解を生んでしまったようですわね。別段、わたくしとしてはワルターに辛く当たっているつもりはありませんことよ?」

「そ、その、トビさん。お気持ちだけはありがたく……すみませんでした、説明不足で。これもある意味、仕事みたいなものですから……」

「拙者の早合点でござったか……申し訳ない!」


 頭を下げるトビに、ヘルシャは良い笑顔になってこう言い放った。


「心から許しを乞うのであれば、地に頭を擦り付けなさい!」

「おい」

「冗談です。わたくしは心が広いので、特別に許して差し上げます」

「心が広いとか自分で言っちゃうんだ……」

「お嬢様ですから……こういう方なんです。すみません……」

「改めて宜しくお頼み申す、ヘルシャフト殿」

「ええ、よろしくね。トビ」


 和解が成立したので、ようやくパーティを組んでダラム山を登ることに。


 ダラム山は所謂いわゆる鉱山跡であり、各所に小屋が点在している場所だ。

 その山のクエスト地点を目指して四人で登っていく。

 道は多少荒れているものの整備されており、それなりに歩き易くて助かる。


「しかしヘルシャ、気が利くじゃないか。俺のスキルポイント不足は深刻だからな。1でも2でも、増えるだけありがたいよ」

「あんな無茶なスキルを取るからですわ。例の動画、わたくしも見ましてよ?」

「動画とその後の掲示板を見たお嬢様、叫んでいましたからね。これですわ! という感じで。やっとハインドさんへの恩返しが出来ると、喜んで――」

「ワルター、今度余計な事を言うと口を縫い合わせますわよ?」

「も、申し訳ありません……黙ります……」

「と、ところで今回のクエストはどなたから? スキルポイントの書は、NPCが好感度に応じて出す特殊なクエストだけの報酬だと聞いているのでござるが」


 それは俺も疑問だった。

 各場所の村長や町長が誰でも受けられる汎用的なクエストを常に出しているそうだが、『スキルポイントの書』が絡むものは基本的にレアケースらしい。

 俺達の場合は今の所、クラリスさんを護衛した際に受け取った物だけだ。

 掲示板でも『スキルポイントの書』の存在自体の真偽が議論になるほどに希少価値が高い。


「今回のクエストは、ヒースローの町長であるコンラッドからのものですわ。密輸品を取引している町役人を突き出したら、冒険者として気に入られましたの」

「不正役人? TBのNPCってそういうあくどい挙動も取るのか。へぇ……」


 俺達の行動半径では接触機会が皆無だろうタイプのNPCだ。

 そもそも、役人どころかまだ村長にも町長にもまともに会ったことがない。


「それは偶然でござるか? それとも……」

「ヒースローの街には、NPCも住んでいない用途も不明な家屋が一件だけあったんです。それをお嬢様は不審にお思いになられて……」

「張ったのでござるか? まさか一日中?」

「そんな非効率な事はしませんわ。周辺住民であるNPCに聞き込みをして、ゲーム内時間で週に一度、夜の決まった時間に人の気配があることを特定しましたの。その時間に踏み込んでみたところ――」

「いかがわしい物品を取引していたと。俺達と同じゲームをプレイしているとは思えない話だな」

「現実でもゲームでも、ドブネズミの生態にそれほど違いはありませんもの。わたくしの目は誤魔化せませんわ!」


 ヘルシャが片手を胸に当ててドヤ顔で静止する。

 たたえなさい! という雰囲気をひしひしと感じたので、俺達三人は揃って乾いた拍手をヘルシャに送った。

 すると、益々得意げな顔に。

 頭は回るようだけど、この単純な感じ……毎日会っている誰かの姿と重なるような気がするんだが……気のせい?


「で、肝心のクエスト内容は何なんだ? まだ聞いてなかったよな?」

「今回のクエストは……山賊退治ですわ!」

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