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オーラの行方と別行動

「まずはメニュー画面を開くだろう?」

「ほうほう、それで?」

「次に、こうビュワーと念を送ると……ポンと装備欄に現れる訳だ。外す時はフワーっと……」

「???」


 金曜午後八時半、TB内『ヒースローの街』の一画。

 トビがそういえばイベント報酬はどうなったの? とユーミルに質問したことでこの状態になっている。

 今日はバイトが無かったので、ユーミル、俺、トビの順でTBへと早い時間にログインした。

 トビが居ない間にイベント報酬『勇者のオーラ』の行方に関しては全て解決したため、こうして話して聞かせることになっている訳だ。

 ユーミルの感覚的且つ擬音だらけの説明に、トビが眉を八の字にした。


「は、ハインド殿……お助けを」

「つまりこういうことだ。オーラは実体が無い。なのでメニューの装備欄を開き、オーラが欲しい! と念じることで装着が可能になるってことだ。外す時も外したい! と思うだけで外す事ができる。インベントリから出し入れ出来ないから、こういう仕様なんだと思うが」

「お、おお……!」


 俺の言葉でようやくトビが理解の色を示す。


「装備したオーラを出す時も一緒だぞ。気合を入れてガッ! とやるとギュンッと出てくるからな! 気分が乗ってくると更にバリバリと――」

「VRギアの脳波感知機能の応用みたいだぞ。プレイヤーの意識というか、要は戦闘中の戦意の高揚次第で一段上の派手なエフェクトが出るんだ。このアクセサリー自体は苦労に見合った高度な技術が詰まってるってこったな。装備として無能力なのは変わらないけど」

「おおー、凄いでござるな……」

「そうだろう!」

「ハインド殿の超翻訳が」

「馬鹿な!? 何故このアクセサリーの素晴らしさが伝わらん!?」

「その返しに驚愕でござるよ!? 分かる方がおかしいのでござる!」


 まあ、これは付き合いの長さ故のものだから分からなくても仕方ないだろう。

 トビは中学からの付き合いだからな……。


「そういえばハインド。妹はどうしたのだ? 今日は随分と遅いではないか」

「ああ、あいつは日曜に全国模試だから。それが終わるまではログインしないってさ」


 今頃は部屋で勉強していると思う。

 後でココアでも持って行ってやろうかね。


「フンッ。全国一位様の癖に、何をこれ以上勉強することがあると言うのだ」

「定期テストで赤点スレスレの拙者からすると天上人でござるなぁ。ところで、リィズ殿は何か目標でもあるのでござるか? 何処か有名大学でも狙っておいでで?」

「いや、良く分からん。ただ、将来的に俺を養えるくらいの職に就きたいって言ってたかな……。それを聞かされた時は、喜んでいいのか頼りにされていないと悲しむべきなのか分からなかったよ」


 理世用にバイト代で大学の学費を積み立ててはいるけど……ちなみにこれは母さんと俺との秘密だ。

 ただ、本人的には奨学金を受けて成績優秀者で返済免除、というシナリオを描いているような気がする。

 しかし、もうちょっと頼ってくれても良いのになと思う兄心母心がある訳で。

 そんなことを考えていると、対面の二人は物凄く微妙な顔をしている。

 どうした?


「亘、気を付けろよ。いや、むしろ私が気を付ける。お前の身の安全は、私が必ず守るからな!」

「わっち、監禁とかされないように注意してね……。俺はちょっと理世ちゃんに恐怖を感じるよ。凄まじい一途さというか執念というか……」

「お前ら何言ってんの?」


 人の妹を何だと思っているんだ。

 時々やけに俺を見る目が怖いし悪戯もするけど、基本的には優しい子なんだぞ?


「あ、あの!」

「お?」


 雑談を続けていると、何やら女子中学生くらいの三人組に声を掛けられた。

 視線の方向からして、目当てはユーミルの模様。


「私か。ハインド、こういう時はどう答えればいいのだ? 何いきなり話かけて来てるわけ? ――とでも言えばいいのか?」

「普通に用件を聞けよ……恥知らずって言われちゃうぞ、それだと」

「そーか。私に何用だ、小娘ども!」

「ひっ」


 ユーミルの特に意味の無い大声が少女プレイヤーを襲う!

 結果、先頭で声を掛けてきた少女は委縮した。


「威圧すんな。普通に聞けってば」

「こんな態度でも、ちゃんと聞いているので言ってみると良いでござるよ?」

「そこでお前が仕切りだす意味は分からんが。覆面してるし怪しさ満点だろうが。かえって警戒するわ」

「うむ、そうやって会話の主導権を得ようとするとは。汚いなさすが忍者きたない」

「ひどい!? 話が進まないから気を回してみただけなのに!」

「ふ、ふふふ……あ、ごめんなさい!」


 この反応から、少女が生真面目な性格だということが分かる。

 見かねたもう一人の少女が、横から声を掛けた理由を説明してくれた。


「すみません。この子、騎士なんですけど……動画で見たユーミルさんの積極的な戦い方に憧れてて。そこを通ったら偶然見つけたものですから、運命だなんてのぼせ上っちゃって」

「ちょっと、サイちゃん!?」

「あ、私はサイネリアっていいます。この子はリコリス。こっちの眠そうなのがシエスタです」

「こんばんはー……ふぁぁ」

「不躾で申し訳ないのですが、お願いがあるんです。少しでいいので、リコリスの為にユーミルさんの戦いを見せて欲しいんですが――」

「いいぞ!」

「いいんですか!? 即答!?」

「あ、ありがとうございます! 感激です!」


 思わぬ切り返しに、目を細めて眠そうにしていたまで少し驚いている。

 こういう奴なんだよ……諦めて下さい。


「構わないだろう? ハインド」

「ああ、行ってこいよ」

「ん? 一緒には行かないのか?」

「どの道、今夜は例の大剣を売ったり量産型のエルフ耳を作ったりで、別行動しようと思っていたからな。トビはどうする?」

「拙者も、取引掲示板の相場が気になるでござる。レベルキャップも開放されたことでござるし、今夜は情報収集を優先したい。ここはハインド殿と共に参るでござるよ」

「という訳らしい。一段落したらメールをくれ」

「分かった!」


 ユーミルが先頭に立って歩き出すと、三人組は俺達にお辞儀をして礼を言ってくる。

 三人ともきちんと礼儀を弁えている様子なので、特に心配することもないだろう。

 早速四人で背を向けてフィールドへ出て行こうと――


「あ、ちょっと待った。このパーティの回復役は誰だい?」

「ふぁぁーい……私ですぜ旦那ぁ……」


 欠伸あくび交じりで、眠そうながだるっと手を挙げた。

 俺の制止の声に全員が振り返って立ち止まるが、えーと……シエスタちゃんだっけか。

 シエスタちゃんは、他のメンバーに先に行くように促した。


「あー、先に行ってて。直ぐに追いつくから……たぶん。で、何ですかせんぱい?」

「今の内に回復アイテムを渡しておくよ。主に聖水」

「えー? 何故に? ……ああ、何となく察しがつきました。確かに私は神官でもバランス型なので、蘇生は出来ませんです。でも、いいんです? こんなに一方的にご厚意を頂いても」

「いいんだよ。ユーミルが原因で蘇生できなくなって雰囲気を悪くするのもなんだし……多分、君にかなりの負担が行くと思うから」

「んむ。やっぱりそういうタイプですかー、ユーミルさん……いのしし?」

「当たらずとも遠からず、でござるよ。彼女はハインド殿のサポートに頼り切っているでござるからなぁ……並のヒーラーでは到底支えきれないかと」

「ふーん……私、ユーミルさんよりも貴方に興味があるんですけど……良かったら、フレンド登録お願い出来ません? ダメ?」

「ん? 別にいいけど……変わってるね、キミ」

「それ、わりとよく言われるようなー……言われないようなー……」


 聖水を受け取り、俺とフレンド登録を済ませるとシエスタちゃんはのんびりと三人を追いかけて行った。

 あの速度で追いつけるんだろうか?

 うーん……しかし、イマイチ何を考えてるのか分からないだったな……。


「……駄目でござるよ、ハインド殿」

「あ? 何の話だよ」

「いくら発育が良かろうと、犯罪でござるよ! どう見ても彼女、中学生くらいでござるし!」

「何言ってんの? 興味があるって言ったって、異性としての興味じゃないのは明白だろうが。それよか、お前は何処を見て発育が良いとかぬかしてやがる。そういうスケベ心を不適切な場所で出すから、女子に避けられるんじゃないのか?」

「……」

「わ、悪かった。言い過ぎたよ。謝るから無言で泣くな!」


 彼女はトビとはフレンドコードを交換しなかった訳だが……恐らく、年に似合わず豊かな胸をトビが凝視していたのに気付いたんだと思う。

 気を付けないと不快感を与えるから駄目だって、以前から言ってるのに。

 津金君は女子との距離感が悪いよね! とは、クラスメイトの斎藤さんの談だ。

 だから顔が良いのにモテないんだと思うのだが……本当に勿体ない奴だなぁ。

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