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岸上家の朝とイベント時の掲示板

 早朝の洗面所、俺の目の前には合体した二つの歯ブラシが置かれている。

 ……どうして、気が付くとこうなっているんだ?

 我が家の歯ブラシはマグカップに三本、適当に立て掛けておくだけのスタイルだ。

 俺はブラシ部分がくっついている二本の歯ブラシを分解して水につけた。

 いや、家族だから別に気にしないけど……くっついてたの、理世のだし。

 歯を磨いて顔を洗った後は、キッチンで朝食と弁当の用意。


「ふわぁぁぁぁ……ねみぃ……」


 現在の時刻は朝の五時。

 普段よりも一時間早い起床だ。

 昨晩は洋食だったっけ……朝は和食にするか。

 最初に味噌汁を作る為の湯を沸かしておく。

 次に弁当箱を四つ並べ、昨晩の内に予約炊飯しておいた白米を三角形の小さいおにぎりにして詰める。


「あちちちち」


 湯気の立つご飯を、熱さに耐えつつ気合で握る。

 中身はツナ、おかか、ゴマ昆布の三種。

 で、おかずの彩りどうすっかな……プチトマトとブロッコリーは弁当の鉄板食材だ。

 この二つを入れるだけで大抵は見れるいろどりになる。

 が、使い過ぎるのも考え物なので今日は別の物で行くか。


 自分の弁当は茶色っぽくてもいいけど、他は女性が三人だから気を使うところだ。

 多めに作って冷凍しておいたアスパラのベーコン巻きを置き、定番の玉子焼きをササッと作り、ほうれん草とコーン、人参をオリーブオイルで炒め……と、まだ少し寂しいか。

 あ、冷凍したカボチャのコロッケがあったな。

 レンジでチンして、断面が見える様に切って置いたら完成。

 うん、カラフル。


 わかめと豆腐の味噌汁も出来たし、焼鮭、小鉢に漬物、後は好みで納豆でも味付き海苔でも自由に使いやがれ、という感じで置いておく。

 これで簡単にだが朝食も完成。

 四人分の弁当をそれぞれの袋に入れ、こちらも準備が――


「あ、母さんのシフト! ……良かった、日勤か。確認するの忘れてた」


 夜勤の場合は俺が帰ってくるのが間に合わない事も多いので、母さんは適当に買ったもので済ませている。

 その場合は弁当を作っておく必要は無い。

 ちなみに俺が料理を覚えてからは、母さんはほとんど自分で料理をしなくなった。

 手料理が余り食べられなくなって、少し悲しいような……。

 さて、一人寂しく朝食を――と思ったら、規則正しく静かな足音が階段の方から聞こえてくる。


「おはようございます、兄さん」


 リビングのドアから理世が顔を覗かせる。

 今は……六時か。

 普段は起きる時間がもっと後なんだが。


「おはよう、早いな。今朝の体調はどうだ?」

「よく眠れたので、珍しくすっきり目覚めました。折角なので、兄さんと一緒に朝食を……」

「そうか。じゃあ、ちょうど出来た所だし一緒に食べようか」

「はい」


 起きてきた理世と共に朝食を摂った。

 その後、七時になったら制服に着替え、寝起きの悪い未祐を起こす為に七瀬家に出向く。

 合鍵を差し込み、玄関を開けると雑に脱がれた未祐の靴だけがあった。

 章文おじさんは外で泊まりか……靴を整え、慣れた足取りで二階の未祐の部屋へ。

 ……何時いつも思うんだけど、どうやったらベッドの上で逆さになれるんだ?

 枕が足元にあるんだけど……。


「おーい、起きろやーい」

「……んむぅ……」

「起きないと額に米マークを書くぞー」

「そこはせめて肉ではないか!? ――んにゃ?」

「起きたな? 起きたよな? 二度寝するなよ?」

「……。亘ぅー、ちゅーしてくれー」

「……何の真似だ。寝惚けてんのか? 何にしてもやだよ。寝起きの口は細菌が一杯なんだぞ? そもそも――」

「うぅー………………ぐー……」

「起きろー!!」


 未祐を起こしたら、朝食と弁当の為に俺の家へ向かわせ、七瀬家の戸締りをして学校へ。


 学校に到着したら玄関の掃除をしていた用務員さんに挨拶をして、所属する美化委員の仕事を始めた。

 内容は掃除用具のチェック。


 放課後にやっても良いのだが、俺は面倒な事は先に片付けておきたいタイプなので早朝に来た。

 登校してくる生徒が少ない時間の内に、さっさと各教室を回って道具の不備が無いか確認していく。


 ってこの箒、穂の間に埃が詰まりまくってんな……雑な使い方をしやがって。

 そんな感じで適当に手入れもしつつ、四階から一階へ順番に回っていく。


「あれっ、岸上君。今日は七瀬さんと一緒じゃないの?」

「ん? ああ、斎藤さんか。見ての通り、美化委員の仕事があるんで置いてきた」


 交換が必要な掃除道具を抱えて歩いていると、廊下の奥から見覚えのある姿が現れた。

 斎藤さんはショートカットが爽やかなテニス部女子で、俺のクラスメイトである。

 練習着という格好からして朝練だろうか?


「精が出るねぇ。あ、そうそう、昨日はマフィンご馳走様!」

「何言ってんの。呼んでないのに、木曜になると勝手に調理室に集まってくる癖に……」

「運動部はお腹が空くんだよ。料理部が美味しそうな匂いを出しているのがイケナイと思うんだ」

「はいはい……部長に感謝してやってよ。先生方に掛け合って運動部に餌付けする許可を得てるのは、井山先輩なんだから」

「ワンワン!」

「おわっ! ビックリした……そこは餌付けとは失礼な! って普通なら怒る所では?」

「運動後の学生なんて飢えた狼と変わらないよう。特に昨日みたいに甘い物だと、自然と女子が増えるよね」

「あー、確かに。逆にガッツリ系だと男子の方が多いかも。甘党の男も居るけどね……昨日みたいな時は、女子の壁を前に入り辛そうにウロウロしたりして」

「あっはは、分かる分かる。野球部の田中とかモロにそうだよね!」


 ……とまあ誰にでも気さくで、学年で一番美人とかではないのだが、これはこれでモテるタイプ。


 この学校にはそれなりの規模の料理部があり、俺はそこに所属している。

 活動は週に一回、木曜日だけなのでバイトの負担になるようなこともない。


 掃除用具の点検が済み、職員室で報告した後は花壇の水やり。

 用務員さんも偶に水をやってくれるのだが、基本的にはこれも美化委員の仕事だ。

 花とか植物も嫌いじゃないんだが、園芸部があればなー……と思うことも多い。

 細かい部分まで手を入れると時間が足りないんだよな。


「あっ、こんなところに居た! わっち! わーーーっち!」

「朝からうっさい、秀平。どうせまたTBの話だろ?」

「その通りだけど視線ぐらい向けて! 冷たい! 態度が冷たい!」

「もうちょっと待てよ。この一画で終わりだから……よし、OK。で、何?」


 学校の裏手で水を撒いていると、息を切らせて秀平が駆け寄ってきた。

 じょうろを置いて汚れた手をはたいていると、秀平がスマホの画面を俺に近付けてくる。

 って、近い近い。ピントが合わねーよ。

 ……これは、掲示板か?




【魔王ちゃん】討伐イベントランキングスレ5【カワイイ】


TBで開催中のイベントランキングに関するスレです。

ランキングに興味が無く、まったり素材を収集したい人は『イベントについて語るスレ』へどうぞ。

荒らしはスルー、マナー厳守。

イベント中は流れが速いので次スレは>>900が宣言して立てること。 



432:名無しの重戦士 ID:dfySsRK

イベントもあと二日か

ランキングもあんまり動かなくなってちょっと退屈だな


433:名無しの魔導士 ID:irTTtfc

クリは軽戦士と弓術、総ダメは魔導、回復は神官、一撃は重戦士だもんな

工夫の余地が少なくてつまんねーよ


434:名無しの騎士 ID:f9XR3iU

あのあの、騎士の名前が見当たらないんですが?


435:名無しの重戦士 ID:dfySsRK

騎士(笑)は魔法剣を覚えるまで我慢しなさいw

……それは冗談としても、他職より晩成型っぽいから今回は仕方ないね


436:名無しの弓術士 ID:RZNJpzD

勇者って言ったら騎士のイメージなんだけどな

重戦士が勇者のオーラって、なんか違和感が

>>434 

弓術も遠距離としては魔導士に比べてイマイチだから気にスンナ!

クリ数も軽戦士に微妙に勝てないというジレンマ


437:名無しの軽戦士 ID:CMVXk6h

ソロだと最強だけどね、弓術

とりあえず遠くから安全にアローレイン撃っておけば敵が死んでいくし


438:名無しの弓術士 ID:RZNJpzD

あれWTクッソ長いけどな!

実質必殺技みたいなもんだわ、狙いが下手でも当たるし

弱点意外ノーダメージの敵とか出たら詰む気がするけど


439:名無しの神官 ID:nh9gYK3

神官としては味方がほとんど被弾してくんないから退屈だよ

回復ランキングの順位稼げない


440:名無しの重戦士 ID:dfySsRK

だって亀の攻撃遅いじゃん

慣れれば鉄系フル装備の重戦士だって躱せる攻撃しかしてこないし


441:名無しの神官 ID:jCUprEW

>>439

初心者パーティに声を掛けてどんどん回復すると良いよ

ランキング上位者はそうしてるって聞いたけど


442:名無しの武闘家 ID:tZPYzsF

(名前が挙がらない以前に人数が少ない、武闘家という職があったこと……)

(時々でいいから、思い出して下さい……)


443:名無しの重戦士 ID:dfySsRK

あっ……(普通に忘れてたなんて言えない)




「えーと……これが何? 普通にイベントについて語り合ってるだけなんだが」

「ん? ……あ、間違えた。もっと下だよ、下!」

「手ぇ汚れてるからスクロールしてくれ」

「あー、もうじれったいな!」




544:名無しの魔導士 ID:rtLphdm

ちょwww

アタックランキングがおかしなことになっとるwww


545:名無しの重戦士 ID:eRHELM6

今見てきた

騎士が2位って何ぞwww


546:名無しの弓術士 ID:JGUWCYX

これはやってしまいましたなぁ……


547:名無しの騎士 ID:zzTKpYy

え? どういうこと?


548:名無しの騎士 ID:6eKgTW4

お前さんも騎士なら分かるじゃろ

これが普通にやって出るダメージじゃないことくらい


549:名無しの武闘家 ID:7CaH5Qg

つまり、チー……


550:名無しの重戦士 ID:eRHELM6

待て待て 

これって計算上で絶対出ない数値なのかな?

誰か細かいダメージ計算できる奴はおらんのか!

このご時勢、チートなんて使う奴は居ないと思うんだけどな

直ぐにリアルで捕まるじゃん

       ・

       ・ 

       ・

562:名無しの魔導士 ID:A9kTpsi

計算してきた

レベル30までに取得できる主要なバフ・デバフと

現状最高性能のメテオ系武器極上、騎士の捨て身+ヘビスラで計算した結果……

あ、計算式は詳しく書かないよ?

お前ら馬鹿だから書いても分かんないでしょ? 面倒だし


563:名無しの弓術士 ID:3KpJgT4

いいから結論はよ!


564:名無しの魔導士 ID:A9kTpsi

ギリギリ9000に届きました

だから現在の理論上の最高値のちょい下になるのかな?

理論上は可能な数値だから、チートと断じるのも難しい


565:名無しの神官 ID:cE3eWp3

メテオ系武器の極上って時点で無理ゲーなんだが

星降りの丘なんて事故が怖くて怖くて


566:名無しの重戦士 ID:eRHELM6

お前にはできない 俺にはできる

星降りの丘自体は、ランキング上位者はレベル上げで大抵行ってると思うぞ?

まあ、それで極上作れるかっていうと腕の良い生産者の知り合いが居ないと

無理だけどな! ボクのは上質!


567:名無しの神官 ID:cE3eWp3

結局無理なんじゃねーか!w


568:名無しの魔導士 ID:xBpiyAA

もっとはっちゃけた数値ならチートだって分かり易いんだけど

これだとどっちとも言えるから微妙っすな




「微妙に荒れてんな。でも、これって終了二日前のスレだよな?」

「うん、当然だけど終了前後はここからもっと荒れるんだ。でも、動画公開の直後まで見るとスッキリ出来るよ! よ! だから見ようぜ!」

「つまりその感動を分かち合いたいと。取り敢えず手を洗ってからでいいか?」

「いいけど早く! 早く!」


 急かす秀平を背に、水道の蛇口をひねる。

 確かにイベント終了後の動画の反応は知りたかったし、良い機会かもな。

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