第29話 判明する事実がある
「それはこの際、別問題です」
ノディマスはクールだった。クールでドライだった。
その一言で封殺できると思ったのだろうか?
――そんな簡単にいくわけがなかった!
「……証明ができれば、それでいいんじゃねえのか……?」
あまりの別問題ではなさに、ギドが指摘をした。が、
「今回はたまたま、それでいいのかもしれませんが、一般的な規範としては、認めないことが正しいと考えます」
中々のへりくつであった。証人よりも、それがいない場合のために定められた基準の方が、大事だと言っているのだ。
いるのに。
これは、捜査において、「犯行を目撃した」という証人がいるにも関わらず、それを無視し、報告書から犯人を特定しようとしているようなものだ。
逆になってしまっているのだ。「いつも証拠があるとは限らないから」考慮に入れられないというのなら……
証拠があれば、よくないかい……?
ノディマス氏以外、全員固まっていた。
おそらく何かしらのシンクロニシティが働き、全員が同じ思考をした、その『間』だったのであろう。
「……さて……」
このまま世界の終わりまでオブジェでいるわけにもいかず、代表してノームのじいさんが硬直を解き、発言した。
「まあ、君が今言った通りでいいんじゃないかな、ナルタフくん」
「ラジユさん、今はノディマスです」
「失敬」
「今私が言った通りでいいとは?」
短いやりとりのうちに、二つの事実が発覚した。
まず、ラジユと呼ばれた『ノームのじいさん』の方が、役職あるいは年齢、もしくはその両方が、ノディマスよりも上のようだ。
ノディマスは過去にナルタフと呼ばれていたことがあるらしい。
……ん? アビーの記憶中枢は、このときはまだ本格的には動き出さない。
ノームのラジユは、ノディマスの視線を真正面から受け止めて、発言した。
「『今回はたまたまそれでいい』……ということだよ」
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ふっ……と息をつくと、ノディマスは認めた。
「確かに、そう言いましたね、私は」
おおっ……と、面接されている四人は思った。ピリついていた空気も、ノディマスの表情と同様、和らいだようだった。
「ギドさん、あなたの実力は、身に染みて知っています。そのあなたが二年半も稽古をつけたこちらのアビーさんの実力が、レベル2の範疇に収まっていないことは、想像に難くありません」
「――あっ!」
認められた嬉しさよりも、灰色の脳細胞が活性化した方に気を持っていかれ、アビーは思わず腰を浮かしてしまった。
「まだ何か不服ですか?」
「あ……りがとうございます。不服なんてありません。ありがとうございます」
さすがに睨まれてしまい、ありがとうございますサンドをして再び椅子に腰を下ろすアビー。ハーランたちも驚いている。ヒーロに至っては、「せっかく良い空気だったのに」と、眉間に皺を寄せている。
だが、アビーは一旦、仲間たちのリアクションどころではなくなっていた。
思い出したのだ。勇者ナルタフ――六十年前、師匠が武術大会の決勝戦で戦った相手だ……!
そのつながりで、ここにいるわけか……!
ようやく師匠出現の謎が解け、呆然としつつも腑に落ちていくアビーであった。
「と、いうことになりはしましたが――」
スッと無表情に戻ったナルタフことノディマス。
ほんのわずかに首を傾け、言葉を続けた。
「実のところ、ここで、あなたたちの強さが証明されようとされまいと――何の意味もありません」
「ど……どういうことですか?」
自分たちが合格することは決してない。そういうことを言っているのか――?
見る間に顔が青ざめていくヒーロが質問を投げかけると、
「おいおい、そんな意地の悪い言い方することはねえだろ?」
ギドが助け舟を出した。
目をつぶり、ノディマスがフフっと笑う。
「失礼。いまのは些かやりすぎましたね。そんな顔をしないでください。口で証明しても意味などないと言ったのは――」
――は!
四人は全員、次に来る言葉を悟った。
「これから実技があるからです」
そういうことなのね……!