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第27話 ライバルにスター性がある

 あの日、レベル2リーダー会で――オーディション情報が公開されてから、二週間足らず――


 あの場にいた800組のうち、およそ500組が応募し、書類選考で450組、筆記試験で40組に絞られ、一次面接を通過したのは、たったの10組。


 ここに至るまでに、どれだけのパーティーに、どれだけのドラマが生まれただろうか?

 泣いたり、怒ったり、衝突したり、裏切ったり……これが原因で、解散したパーティだってあるに違いない。


 忘れてはいけない。

 主催側や、合格者だけが、注目を集めがちなオーディションだが――


 その陰には数えきれないほどの、敗者たちがいるのだということを。


 ――だが――



 だからこそ……勝者の放つ輝きは、人々を魅了するのである……!




 その日、目覚めたハーランは、「勝ったな」と思った。

 しかしその直後、「毎日そう思ってんな?」という事実に初めて気づいてしまい、ややもにょる。



 四人は筆記試験、一次面接のときと同様、最適(だと思われる)な栄養分を摂取し、適度な運動で体を起こしながら、シンヤークギルドへ。なんとなく、『最終面接ですが、何か?』という鼻高々な気持ちもありつつ(その程度何も偉くもないのだが)控室に入った。


 一次面接と違い、控室は小部屋だった。2組ずつに分けられているらしい。大部屋よりは、幾分緊張もせずに済みそうだ。


 しばらく待っていると――



「あ、どもっすどもっす~」


 四人の待機する部屋に、もう四人の若者が現れた。

 言うまでもなく、ここまでオーディションに勝ち残っている、いわばライバルパーティーであろう。



 ここで例えば……徹底して無視を決め込んだとて、非難されることはないだろう。

 なぜなら、合格者はただ一組だけ。余計な馴れ合いは不要だし、万が一、どちらかに悪意があれば、相手の動揺を誘ったりであるとか、オーディションの本筋とはズレた『邪道な手』を繰り出すことだってできてしまうかもしれない。


 と、ヒーロは考えていたのだが……挨拶されてしまった以上は、応じざるを得ない。いつまでかはわからないが、同室で待機するのだ。


「こんにちは。リーダのヒーロです」


 椅子から立ち上がり、軽く頭を下げると、


「『月の牙』でリーダーやってます、スヴェンっす」


 へえ、もうネームドパーティーなのか……と内心で思いながら、ヒーロはスヴェンと名乗った男と握手を交わした。万が一解散したら、どうするつもりなのだろう? チームを名乗るならレベル2の壁を越えてから、なんて言葉もあるというのに……相当強気だな。


 そう思ってみれば、八重歯を覗かせて笑うこの男からは、かなりの『自信』を感じた。それも、ちょっと危険な香りがするというか……さぞかし、異性にモテるのでは。そんなことをヒーロは思う。

 おっと、種族は人間族。歳は同じくらいだろう。いっても二十歳くらいではなかろうか。


「アビーです」

 アビーが名乗ると、


「シュウです」

 銀髪の男が名乗り返した。


「ハーランだ」

 スキンヘッドが名乗ると、


「レオン」

 青い眼の男が端的に。


「…………」

 クーがなぜかフリーズしていたので、「こういうやりとりに慣れていないんだな」と察したヒーロが、

「彼はクーです。うちでも最年少で」

 と紹介すると、

「……はじめ、まして」

 小声でそれだけ返すクーは、なんだからしくない。


 相手の最後の四人目、金髪の優男がにっこりと笑った。

「クーくんだね。私はアラン。よろしくね」



 アランだと。


 思わず、ヒーロとアビーは『こっちの本名アラン』に目線をやってしまったが、本人はどこ吹く風といったすっとぼけた表情だった。この場合、ハーランが正解である。ありふれた名前なのだ、慣れていかなければ。二人は反省する。



 それにしても……

 『月の牙』などというスカした名前はどうなんだ? と、正直思ったところだったが、ちょっと想像を巡らせたらば、なるほどな……と合点がいったのは、アビーである。


 察するところ、彼らは『黒き翼』をリスペクトしているのだ。リスペクトというか、もっと直接的に、二匹目のドジョウを狙っているのかもしれない。四人全員が美男子であったり、名前が全員主役風味だったりと(本名だったらごめんなさいだが)、狙っている方向性が明らかにそっちだ。


 多少の、『やられた感』もある。というのも、『黒き翼』は、一つの『正解』なのである。「こういうパーティーを目指してくださいね。これからの時代、こういう路線をギルドはプッシュしますよ」という、ギルドからの『解答例』である、という受け取り方だってできるのだ。



 が、『模範解答とまんま同じ答え』を示してしまうのは……アビーだったら、プライドが決して許さないことであろう。というか、プライドがあるが故に、考えつかないことである、とも言えるわけなのだが――



 ――プライドよりも、大事なこと。それが、『レベル3に上がる』ことなのだ。



 そう考えて、見たときに。

 このイケメン四人衆は、決してスカし集団ではなくなってくる。全てのプライドをかなぐり捨てて、たとえギルドに媚びへつらうことになったとしても、何が何でもオーディションに合格してやろうという、熱血泥臭パーティーに映ってくる……


 ……のか? それとも、それは考えすぎか?

 同じような趣味の持ち主四人が引き寄せられ、偶然こうなった可能性だってゼロではないわけだが……


 とにかく、どちらにせよ、相当手強いライバルの登場だぞ……!

 というところで、アビーは思考を結論づけた。

(ちなみに、ヒーロも全く同じ思考ルートを辿り、さらにその先の、「あ、このカンジだとノディマスさんにウケがいいに決まってるわ」という敗北寄りの結論にまで到達してしまっていた。ノディマス氏が『黒き翼』の生みの親であることを、オーディションが終わるまでは余計なノイズだと判断し、ヒーロはまだメンバーに共有していない)




「それにしても、キミ、すごいカッコだね?」

 アランがハーランに声をかけている。

「別に、いつもこんなだけど?」

「そ、そうなんだ……独特なセンスだね」



 最終面接とあって、本日のハーランの服はかなり控えめだ。(本人談)

 一言でいえば、骸骨のようなデザインの入った、漆黒の上下である。

 頭部は、朝もう一度剃った上、オイルで磨き上げてきたためギラギラと光っている。

 ワンポイントはギザギザにデフォルメされた、太陽のようなサングラス。



 面接に際し、服装の規定はないとはいえ、さすがに今日くらいは、誰か止めてもよかったのかもしれない。

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