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第23話 控室にも攻防がある

 不安と緊張に押し潰されそうになりながらも、普段通りの生活を強いられる二次審査前日。アビーとヒーロの二人は、一つだけ達成した。

 師匠にも雇用主にも、「明日、二次審査がありまして」と打ち明けずにいられたのだ。


 これは案外、トロフィーを一つ獲得するくらいの条件クリアだ。




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 ――そのとき控室は静かにざわめていた。


 普段は大会議室として使われている一室。そこに机や椅子が配置され、約百人の冒険者たちが「こちらが控室です」と案内された。


 確定している事実があった。それは、全員が同レベルであるということ。

 筋骨隆々、眼帯をしたあそこの冒険者もレベル2だし、一見魔術師風のローブに身を包んだ、おそらく魔術師ではない妙齢の女性もレベル2。壁際に座り込んでいるハーフフィートもレベル2。机を一つ占拠して、市のように荷物を並べている恰幅のいいドワーフもレベル2なのだ。



 そのレベル2たちが、部屋の中央に向かってチラチラと視線を投げながら、囁き合っていた。


「……なんだあいつ……?」


 あいつというのは光栄なことにハーランだった。彼は当然のように、大部屋の中央にあった椅子にふんぞり返っている。



 一つの幸運があった。どうやら今回残った40組は、その全てが『真面目なパーティー』らしかった。



 今回三年ぶりのオーディションであり、絶対に合格したい気持ちは全員等しい。

 「失敗できない」「外せない」と思えば思うほどに、マイノリティーよりマジョリティーを選び、守りに入るのは、当然の心理の働きだ。


 ――ただ元々は、種族の違い、信仰の違い、育った環境の違いなどにより、冒険者というのはもっとそれぞれ個性的であったはずだった。……『レベル2』という鋳型に流し込まれた結果、そうなっていったのかもしれない……


 理由はともかくとして、集まったパーティーはどこか画一的だった。

 年齢には差はあるものの(十五歳から上は八十歳までいるだろうか?)九割が人間族で、あとの一割の種族にしても、決して良い意味ではなく、なんだか馴染んでしまっているように見える。


 そして、特に個性を消してしまっている要因は、おそらくどうやら装備であった。


 無難に無難に、誰にも嫌われないように。定番のダガーに、ショートソードかブロードソード、あるいは片手でも両手でも扱えるコンパクトなスピア、みんな着ている皮鎧、良い評判を耳にする盾、量産されてるナップザック、安くて生地もしっかりしており、動きやすい上下の衣服……


 もちろん多少の差はあるものの……ほとんどが誤差の範疇。印象としては、九割九分のパーティーが、相似形のように映る。

 (言うまでもないことだが、基本、『それが正解』なのである。目立てば優勝のコンテストに来ているわけではないのだから……!)



 そんな集団の中、頭部を輝かせ、銀と赤とで全身をコーデする、ハーランは浮いた。

 浮きに浮いていた。



 だがどうも……不思議なことに、悪い意味ではないような気配なのであった。

 むしろ、


(やっぱ冒険者って……あっちの方が正しいんじゃねえかなあ……)

 と、勝手に揺れ、自信を喪失するライバルも、実は結構いたのである。



 いやはや、堂々としたものであった。


 注目を集めていることなどどこ吹く風といった様子で、背もたれに深々と身を預け、ダラりと首を傾けている。が、なぜだか『わざと悪ぶってる』ような空気は微塵もない。むしろ、『本物』のようなオーラをまとっている。


 そしてまた紙一重であった。


 冒険者には血の気の多い者も少なくはない。いかに面接の控室とはいえ、ガンを飛ばしたり、床に唾を吐いたり、貧乏揺すりで明らかに挑発などをしていれば、「なんだテメェ?」と絡まれたって、何もおかしくはない。


 そうはならなかったのは、このハーランにはどこか、『真剣です』みたいな姿勢が見え隠れしているからなのかもしれない。

 本人がどう思っているかはわからないが……おそらくそれは、元々貴族の家に生まれたという、育ちの良さなのだろう。と、裏事情を知っているアビーなどはなんとなく思った。



 スケープゴート的な効果もあった。ハーランが一人で視線を集めてくれてるおかげで、アビーたち三人は、なんとなくいい意味での蚊帳の外に置かれ、変に緊張することもなく、リラックスして出番を待つことができたのである。



 そう――これは事前にわかっていたことなのだが……


 彼らは筆記試験、ドンケツでの合格である。


 そして面接は、上位のパーティーから呼ばれる。


 よって、彼らは一番最後まで待たなければならない。




 これがまた予期せぬ効果を生んだ。


「あのパーティー、要チェックだな」……などと警戒してしまった者は、無意識に、あのスキンヘッドは自分たちよりも上位なのだろうと思い込んでしまう。


 だが、いつまでたってもハーランは呼ばれない。

 そのうち、自分たちのパーティーの方が先に呼ばれてしまう。

 すると、「え???」と首を捻ったまま、面接会場へ進むハメに陥るのだ。


 残りの組数が減るにつれ、「さすがに次あたり呼ばれるだろ」という期待がなぜか高まる。周りが勝手にそういう目で見る。

 だが呼ばれない。

 どういうことだ?

 本人はノーリアクション。一分の乱れもない。

 それを見た者がさらに混乱する。

 どういうことだ?

 いや、次あたりか?

 次も呼ばれない。



 ――そしてそのまま――


 アビーたちは、一番最後まで、控室に残っていた……!

(さすがに、ラスト直前の組はそのからくりに気づいた。気づいて、唖然としていた)




「……では、最後、ヒーロさんのパーティー、こちらへ」



「はい!!!」

 係員に呼ばれ、ハーランは今日イチの大きな声で返事をした。

 わずかに、裏返っていた。


 そこで、三人はハッと気づいた……!




 こいつ、本当は緊張していたのか……!


 全部、素だったんかい……!

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