第22話 搦め手という手段もあるはず
「これより、二次審査対策会議を始める!」
と、高らかに宣言したパーティーリーダーのヒーロ。
「具体的には?」
そのハーランからの一撃で、
「それをみんなで考えよう」
早くもノープランが露呈する。
――450組が、筆記試験により、40組に絞られた。
次は二次審査。通常、実技と面接である。
さて、立てられる対策とは? 一体何があるのだろうか?
実技でモノを言うのは日々の鍛錬である。明日一日稽古したところで、最強の剣士になれるわけではない。
また面接といったところで、「仕事に就きたいです」ではないのだ。冒険者たちは果たしてその場で、何を語れば良いのだろうか? 何を語るのが正解だろうか?
そもそも正解はあるのだろうか?
仮に正解がないのだとしたら? その面接の場では、一体何が見られているのだろうか?
と、まずはここまで、ヒーロとアビーは推論を進めていった。するとハーランが、
「そりゃ簡単だ。見られるのは『人』だよ」
「ひと、って?」
クーが聞き返すと、
「ぶっちゃけ容姿だろ」
身も蓋もない一刀両断だった。そしてさらになますに斬る。
「レベル3に上がるってことは、そのまま20まで行くかもしれねー、要するに英雄候補だ。強さよりも、スター性とか、カリスマ性とか、そういうところを見るだろ。プッシュするギルド側は」
残酷なまでの説得力であった。
「……それなら、ハーラン。おれたちはどうすればいいんだ?」
――四人の容姿は、全員、それほどマズくはない。それどころか、クーは誰がどう見ても美少年である。
だが昨今、どのパーティーもだいたいこのくらいだったりする。
無論、シュッとするばかりがスター性ではない。鼻の折れ曲がった中年戦士だって、身にまとう殺気次第で『チョイワルオヤジ』になるし、ヒゲに埋もれたドワーフだって、負けないカリスマが溢れているときもある。
何か一点、キラリと光るものがあるパーティーくらい、別に珍しいものではないのだ。
そこへいくと、やはり頭一つ抜けているのだ。有名になるパーティーは。
わかりやすく言えば、『黒き翼』などは、クークラスの美男子が四人揃っていると考えれば正解である。
であれば……今からでは、どうあがいたところで合格は不可能なのだろうか……?
と、ハーランがふふんと不敵に笑った。
「おいおい。オレが、伊達や酔狂でこんなカッコをしてると思ってたのか?」
本日の彼の服装は、下半身はモザイク柄のパンツ。上半身は黒地に炎のパターンが刻まれ、襟元には真っ赤なファー。額にはどこで買ったのかレトロなゴーグル、頭髪は金と黒のツートン。
「伊達や酔狂でしかないだろ」
ヒーロが冷え冷えとした声を出すと、
「敵を欺くには、まず味方からってな……!」
何を言っているんだコイツは……? 全員の頭上に『?』が浮かんだのを確認すると、ハーランはさらに宣言する。
「当日、頭剃ってく」
あまりに意味がわからなかったので一拍遅れたが、一同突っ込むと、彼は一応の理由らしきものを語った。
『まずはどんな方法でもいいからちょっと注目されること』が重要なのだという。まあ一理ある。
それには奇抜な服装をするのが一番手っ取り早いと、そこまでは誰もが考えることだろう。だが、面接当日だけ唐突に変な服を着ては、『服に着られてる感』は拭いきれない。
だからそのために、普段から妙な恰好をするよう心掛けていたのだ。と彼は言う。それにも一理あるといえばあった。
そう。冷静に考えると、そこにあるのは理だけなのであった。
「な? だから、まずはオレがインパクトを与えっから。で、あとは頼んだ」
そう言われ、アビーとヒーロは同時に唸った。
こいつがここまで考えて先鋒を買って出てくれるのなら、それに応えるのが仲間というものだろう。
「……ハーランがそれでいくとなると、おれたちは逆に、このままが良さそうだな」
「だな。俺たちは、いつも通りの恰好で臨もう」
「ボクは?」
「クーは……ちょっとだけ、異種族っぽさ出していこう。軽装で」
「わかった!」
「ハーランとクーでまずは目を引いて……で、そっからだな、俺たちの出番は」
残りのカードは、アビーによる『フォレストドラゴン対策知識』しかなく、それだけでは心もとない。
だが……この夜は、そこで詰まってしまった。
「こうなってくると、俺たち二人は、『普通にする』以外に、やりようないのか?」
「そういうことに、なるのかなあ……」
ヒーロとアビーは同時にため息を吐いた。
実は若干、この二人。共通して、自分が『普通』すぎるのではないか、というコンプレックスを心の奥底に隠している。
同類は星の数ほどいるのだが、個人個人にとっては自分の悩みが一番重い。
二人が技術や知識を身につけることに積極的なのは、裏を返せばどこかで自分自身のことを信用していないからなのかもしれない。
そしてこういうとき。
『他人の目・他人の評価』が主体となったとき、二人は言いようもないほど大きな不安を覚えてしまう。
潜在的に、自分には何もないと思っているため、他人が自分を見たときに、良い部分などあるわけないと思ってしまうのだ。
だから、ある意味では、クーやハーランのように、『攻め手』があることが羨ましくてしょうがない。
のだが――
これこそが、面接の本質。
面接とは『見られる場』なのだ。
『見られる側』がイニシアチブを握ろうとしすぎるあまり、アピールに躍起になるのは、往々にして逆効果だ。
判定するのは他人なのだ。
『自分が自分が!』という売り込みは、本能的な作用だけを考えれば、「そんなに言われるとむしろあんまりだなあ……」となってしまう者の方が、おそらく多数派なのだ……!
――他者に判断の一切を委ねるという、その恐怖と戦うこと。それが面接なのだ。
当事者は不安でたまらないだろうが……二人のようなタイプの場合、「これならいける!」と、ずれた武器を持ち、ずれた自信を持ってしまうことの方が危険だ。
だから、この場合。
何も妙案が浮かばなかったのは、二人にとってはおそらくプラスなのである――