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第21話 その前に二次試験がある

「けどよ、フォレストドラゴンうんぬんよか、その前のオーディションに合格するかだろ? 肝心なのは。ぶっちゃけ、オレら以外にも、レベル5のモンスターを倒せるレベル2パーティーなんて、掃いて捨てるほどいるわけだし」


 肩をすくめ、両手を大きく開き、吹き出しが具象化して見えてきそうな、ハーランのやれやれしょうがないなといったポーズ。


 この、時々キメてくる意味は一体なんなのだろうか?


 本人一流の話題転換の意味合いもあるのかもしれない。事実、そのように機能はしているわけだし。


「まあたしかに、レイモンドさんとこもヤガロワさんとこも、レベル2だけど滅茶苦茶強いって噂だしなあ」

 と、アビー。


 どちらのパーティーもレベル2なので、強敵を倒したというような実績があるわけではないが、時折開催される剣術大会で団体優勝した、といった話を耳にする。


 ちなみにヒーロたちのパーティーはそういう大会に出場したことはない。特に深い理由があるわけではないのだが……

 ……『なにが大会だよ』というヒネクレた気持ちが、あるためなのかもしれなかった。優勝したところで、レベルが上がるわけでもないし……



 一方ヒーロは、

「でも最近、思ったよりも少ないんじゃないか、って思うことも多いんだよな、俺は」

 ポッと言ってみたところ。


 理由は? みたいな空気が満ちたため、本題ではないとわかっていつつ、続きを述べていく。


「いや、そんな深い話じゃないだけどな。リーダー会とかに出ても、なんというか、半分くらい、諦めみたいな雰囲気も感じるんだよ。実際、いつまでもレベル2のまま、鍛錬ばっかしてられるっていうのも、ある種の才能というか、難しいことなんじゃないかって、最近思うんだよな」


 裏を返して、ずっと努力を続けられている自分たちのことを褒めたかったのだったが、こんなことを言ってしまっては若干場の湿りは避けられず。


 わざとらしくゴホゴホと咳を払い、ヒーロは。

「話を戻そう」

 と、仕切り直した。


「ハーランの言う通り、オーディションを勝ち抜いて、最後の一組に残らなければ、フォレストドラゴン対策を練ったところで何の意味もない」

「ちなみに、あと何回あると思う? 試験」

 アビーの軽い問いかけに、

「二次で10組に絞って、その次が最終試験ってとこだろうな」

 妥当な予測であり、誰も異論はなかった。


 と、ハーランがぽかーんとした顔で言い放った。

「でもよ、じゃーなんでこのタイミングでフォレストドラゴンだって教えてくれたワケ?」

 待ってましたとばかりに、ヒーロはビシリと指をさした。

「そこだ!」

 むむ? と三人、固唾を飲んでヒーロの次の言葉を待つ。



「なんでこのタイミングで? ってのは、俺も思ってて。まあ、もしかしたら、ただ形式上の情報開示で、意味なんかないのかもしれないけど、でも何か、ヒントはないだろうかと思って。とりあえず、フォレストドラゴンのことを調べてきたんだ」

「すると?」

 とハーラン。

「すると、とんでもない結論にたどり着いた」

「その結論とは?」

 とアビー。

「それはだな……」


 小気味よいリズムを構築してから、そしてたっぷり間を取り、溜めて。

 ヒーロは言った。



「最低限、フォレストドラゴンを倒せる戦力があるかどうかは見られるってことだ!」

「いやだからそれが何なのかって話だろうが!」

 勢いよく突っ込むハーランに、

「そう。そういう話なんだ」

 頷きを返すヒーロは真剣そのものだった。のだが……



 表情こそ真剣だが、このリーダーはどうも回りくどい言い方をする癖がある。そういうときは、どうにもまどろっこしい。


 そう思ったアビーは、先に自分の知っている知識を全部吐き出してしまおうと思った。というのもこの男、師と仰ぐギドの影響で、モンスターの知識が半端ない。

 殊に、『どうすれば最速で命を絶てるか』ということを語らせたら、右に出る者はいない。



「フォレストドラゴンは頭部から尻尾の先まで四メータル程度。体表は堅い鱗に覆われている。腹部が比較的柔らかいから、どうにかしてひっくり返し、腹から心臓を貫けば一撃だ。けど、四足歩行で重心が低く、ひっくり返す手間の方が面倒だとも言われている。だから、最も手っ取り早いのは――目から脳を突き刺すことだ」


 そこまでアビーの演説を聞いていたヒーロは、やがて、……パン…………パン……………………と、やたらゆっくりとした拍手を始めた。



「……合格……!」



 何がなのだろうか。最近、ヒーロとハーランの評価(主に頭脳)を逆転させても良いのではなかろうかと、アビーは思うことがある。



「ナニが?」

 ちょっと棘のある聞き方をしてしまったが、意に介さずにヒーロは、


「何がって、今の説明さ。大事なことだろ? 『もし、フォレストドラゴンと戦うことになったら、あなたはどう立ち回りますか?』……いかにも面接で聞かれそうな質問じゃないか」


 まあ、それはそうなのかもしれないが……


「このくらいの知識なら、おれ、元々持ってたんだけど。ヒーロの方で、調べてみて、なんかプラスアルファないの?」

「特にない」

「オォーーーイ!」


 このリーダー、結局、今日という一日を無駄に使ってきただけらしかった。


 ……のような、絶望が目に宿ったのだろう。それを見透かしたかのように、ヒーロが続けて言うことには、



「まあ、対フォレストドラゴンに関しては、アビーがいれば十分だってことはわかっていたさ。図書館に行ったのは、一応、俺も俺で、ある程度は知識を仕入れておかなきゃって思ったからで、新発見があると思ってたわけじゃない。……それよりも、だ。ぐっと話を、戻していって……」


 握られる拳とともに、話はぐっ……と戻っていき――


「それだけじゃあ、全然足りない……! 今回こそは、何が何でも勝ち残るんだ……!」


 ……まさか……


「これより、二次審査対策会議を始める!」



 いやホントに振り出しに戻ったな、と、三人は思った……

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