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第14話 他に方法はない

「3、2、1……」

 せーの、

「「どうだ!?」」

 とアパートのドアを開くと、


「おかえりー」

 とオンリークー。


「いねえじゃねえか!」

 クソッ! と、指を鳴らすアビー。

「これじゃ俺が嘘ついたみたいじゃないか!」

 と両腕をワナワナ震わすヒーロ。



 どっちにも言えるのは、いつものふざけに戻ってきたっぽい。




「……アースパルスと、ハーフサークルにはいなかった、と」

「うん」

「スカラベは見たか?」

「見てない、知らない、その店」

「そうか……小さいからな……」

 というかそもそも打たない&辺境出身のクーにしては、二軒プチ屋を確認できただけでも快挙であろう。


 現在三時。

 冒険者ギルドシンヤーク支部の受付窓口営業時間は六時まで。


 三人はまず付近の地図を座卓に広げ、ヒーロが質問してクーから答えを引き出し、それをアビーが地図に書き込んだ。


「……となると……あいつが行きそうな店は……」


 アビーはなんだかんだ言って、たまに打つことがある。そういう意味では三人の中では一番、ハーランの思考を予測できる。

 なので代表して地図とにらめっこし、あの男の潜伏先を割り出そうとしているのだ。



「一人はスカラベ経由でさらに東のグレイト、そこから南に行ってミエナ」

「俺が行こう」

「頼む。途中の喫茶店なんかも極力覗いてくれ。優雅に休憩してたりするかも」

「了解」

「クーは……ここから西のブルーワースとテツジン、この二軒を頼みたい。どっちも大型店舗だから、近くまで行けばわかる」

「わかった!」

「南回りのルートはおれに任せてくれ。二人とも、プチ屋の中は隅々まで見て回ってくれ。奴は、新台や角台にいるとは限らない」

「「了解」」



 五時……いや、五時半までに見つかれば、あとはハーランのサインだけで書類が完成するよう準備してある。


 そして――『サインをした全員が揃っていること』が、提出する際の条件であった。替え玉は通用しない。(専門の看破魔術師が窓口に立ち会うのだ)


 アパートからギルドへは、走れば15分。たとえハーランが見つかったとしても、別の誰かの合流が遅れれば、それもまた致命傷になる。


 事態は一刻を争う。


 ――ザッ!!



 三人は同時にアパートを飛び出した。(肩がつっかえた)

 なんとなく全員なぜか股下からのアングルをイメージしたのかもしれない。

 なんだかわざとらしく手の振りの大きい駆け足で三人は大通りへ出ると、


「「「散開!」」」


 果たして、ハーランはどこに……?



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 ――路地裏のスカラベは知る人ぞ知る名店。新台は少ないが、絶滅したはずの人気台が残っていたり、店舗独自の特殊な祭りが開催されたりするため、思った以上にファンが多く、思わぬときに長蛇の列ができていたりする。


 グレイトの建っているエリアはあまり治安がよろしくない。当然客層もワンランクダウンしている。台を叩く音が聞こえたら要注意。行くか、退くか。ハーランもそれをやるのだから。


 ミエナも比較的小型の店舗だ。その上、数種類の特定の台だけで統一されている。選択肢は少ないが、同じ台好き同士が集まるためであろうか、どことなくアットホームな雰囲気である。


 ブルーワースは西側の大型店舗である。一階と二階で表情がガラリと変わるのが特徴だ。二階エリアは全体的に薄暗く、台も一か八かのピーキーな設定の物が多い。さらに、高額で勝負できる別室もあるとの噂だが……?


 日参するならテツジンだ、と言う者がある。そこでは大勝ちすることもないが大負けすることも少なく、通い続けていればいずれ、じわじわとプラスに転じていくという。だがそれはギャンブルなのか? 疑問を抱いた者から去っていく……


 そして南エリアにもまた、それぞれに個性のある店舗が点在しており――







「いたか!?」

 汗を蒸気と上げ、アビーが荒々しく扉を開くと。


「ダメ」

 こちらも、珍しく肩を上下させているクーが首を振る。


「……っ! 入れ違いになった可能性は!?」

 口を真横に結んでいるヒーロに質問すると。


「ない」

 ハーランは帰宅一秒で部屋を汚す。帰ってきた痕跡があれば、すぐにわかる。


「……くそっ……! なんで今日なんだよっ……!」

「リーダー会の日は、家にいさせるべきだったな」

「今更遅えよ!」


 そう、今は後悔するときではない。

 やれることを、選ぶしかないのだ。


「……五時半、か……」


 時刻を確認したヒーロが、無感情に呟く。


「…………」

 アビーも無言で、ヒーロと見つめ合った。

 二人とも瞳に――『冷たい決意』が浮かび上がってきていた。

 クーは何やら言い知れぬ不安を覚えたが、口を挟める空気ではないことを感じ、黙って次の言葉を待つしかなかった。



「ギルドに行くぞ」

「おう」


 二人が同時に動き出した。

「え? なんで?」

「書類の提出。まだ間に合う」

「だけど、ハーラン、いないよ?」



 クーはビクンと体を震わせた。

 対峙するヒーロが、感情の全くない目をしたからだ。



「もうこれしかない」

「これ、って……?」




「パーティーを解散する」

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