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第1話 世界には今ゴブリンがいない

エピソード完結! 全77話!


【あらすじ】

剣と魔法の世界で、冒険者が飽和。


ゴブリンの絶滅により、冒険者の九割超がレベル2でストップ。

「レベル3に上がること」

いつしかそれ自体が『夢』だと言われる時代になった。


だが裏を返せば、そこさえ抜ければブルーオーシャン。

英雄への道をまっしぐら。

のはず。



『百万都市』ウルトで共同生活を送るアビー、ヒーロ、ハーラン、クーの四人の冒険者。

チャンスが来ると信じて、バイトで稼ぐ日々。


生活しようと思えばできるし! そこそこ楽しいし、諦めてもいないけど!


でもコレいつまでやってんの!?



冒険者よ、夢を掴め!

「天才魔法剣士エルグレイヴ率いる『黒き翼』、灼炎の谷にてサイクロプス討伐!

 レベルは19から念願の20へ――」


 その張り紙を見ながら、アビーは嘆息した。


「……本当に、すごいよなあ……」


 こうなりたい、と願う冒険者は何人いるだろう。

 そのうち何人がなれるのだろうか。


 聖暦一三五〇年。

 世界は平和だった。


 魔王認定された最も新しい案件は五十年前の『澱みの王』であり、以降、世界はさしたる脅威に直面していない。

 それどころか、『澱みの王』との決戦時にもたらされた、世にいう『三女神の祝福』が、今でも効いている……


 大地の女神ナイアは全ての大陸の土地という土地を肥沃にした。

 時の女神ニルノアは人々の若い時間を延ばした。

 言葉の女神ルメアは国と国とに絆を与えた。

 (この三つの祝福には目撃者も証言者も多く、公式に奇跡認定がなされている)



 三つの奇跡に後押しされた人々は、人間、エルフ、ドワーフなど各種族から選りすぐりの冒険者たちを派遣し、『澱みの王』を討った。

 普通にオーバーキルしたという。




 以来――奇跡は継続している――




 アビーは十五歳で実家を飛び出し冒険者になった。

 時の女神の祝福により、人間族でさえ、齢九十を過ぎてなお軽々と斧を振る世の中。夢を追うなら早い方がいい。

 いや……十五でさえ、早いとも言い切れない。

 それに……早いからといって――



「加工……のわけないよな、さすがに……」


 張り紙に掲載されている『絵写(ピクツ)』は、随行する監査官がモンスター討伐の際に必ず記録する物。なのだからして、当然これも現実の一場面を切り取ったものなのだろうが……


 最近ではあくどいこともあると噂だ。


 だが噂を知っていたからといって、アビーに真贋を見定められる素養はない。


 この仰向けに倒れ、一つ目を剣で貫かれているモンスターがサイクロプスだということは知っているが、黒ずくめの甲冑で身を包んだ四人の若い男たちと、そのすぐ背後で燃え盛る谷とが、それぞれ別で撮られ合成されたものであっても、彼にはわかりようもない。


 ただ……滅茶苦茶熱そうだな、とアビーは思った。……なのに、みんな笑顔で歯を見せて。

 さすが売れっ子パーティーだと感心する反面、「こうなりたいのか?」と改めて問われてしまうと、ちょっと揺らがないでもない。


「…………」


 アビーはそれからもしばらく、その張り紙を隅から隅まで眺め回した。

 そのためにわざわざ「見に来た」のだから。



 冒険者がギルド登録時に渡される『ポータブルライセンス』は、革命の導師と呼ばれたマギ・ラトル氏の世紀の大発明である。氏は魔具マジックアイテムの第二の祖とされ、文明を三つは上のステージへ押し上げた偉人と称されている。……彼が『澱みの王』出現時の遭遇戦で命を落としてしまったことは、不運だったとしか言いようがない。


 ポータブルライセンスは戦闘時のあらゆるログを自動で記録してくれる、掌サイズのアイテムだ。これにより、それまで個人のものでしかなかった『戦闘経験』が共有化され、冒険者全体の生存率は飛躍的に上昇した。

 他にも様々な機能が搭載されており、簡易的な情報であれば受け取ることもできる。


 だからアビーは知っていたのだ。アビーだけではない。この大陸の冒険者たちは、全員同時に知ったのだ。数年ぶりにレベル20のパーティーが誕生したことを……


 そう、数年ぶりだった。


 冒険者のレベルは現在50まで規定されている。それ以上は特に差はない。

 冒険者レベルは、レベルに応じて定められているモンスターを、規定数倒したときに上昇の機会を得る。また、レベル以上のモンスターの場合、交戦は基本的に認められていない。


 冒険者レベルは報酬や実力の基準となるだけでなく、世間的な『認知度』にも深く関わってくる。

 いわゆる『英雄』と呼ばれるラインがまさしくレベル20といわれており、今回のニュースは滅多に耳にすることのない快挙である。


 なぜ滅多に耳にすることがないのか?


 それは、冒険者の9割超が『レベル2の壁』を越えられないからだ。



 アビーはその壁を越えたいと心から願ってやまない。アビーだけではない。全ての冒険者たちが同じ気持ちだ。



「……どこか……」



 アビーはどうしてもその壁を乗り越えたい。

 そのためのヒントが、どこかにあるのではないかと思い、藁にもすがる思いで、わざわざこの張り紙を見に、ギルドの掲示板までやって来たのだ。


 ――ポータブルライセンスで見る絵写(ピクツ)では、小さすぎるから――



「……なんか……なんか、どっかなんかないか……!」



 『魔具革命』と『三女神の祝福』――


 それは非の打ちどころがないほど素晴らしく、世界を一変させた。

 特に死亡率を激減させた。

 国と国とはもう争わない。人々は天寿を全うする直前まで豊穣な大地を耕す。


 その結果――人は溢れかえった。



「あ!」



 ――冒険者も溢れかえった。そして――




「……この剣……!」

 食い入るように張り紙を見つめていたアビーは、震える指で絵写(ピクツ)の一点をなぞった。

「師匠のと……同じ刀匠の……か……?」

 アビー。冒険者歴三年。登録職業魔法剣士。

 レベル2。

「……やっぱ……違うか……」




 ――絶滅させてしまったのだ。

 レベル3に上がるためのゴブリンを――

第一章 オーディション編 1話~34話

第二章 初クエスト編  35話~77話


区切りがつくところまで完結しておりますのでご安心ください!


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