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前回に続き暴力的な表現があります。
「おい、嬢ちゃんが言ってた少年ってこいつの事か?」
そう言いながら色黒男が小屋に入ってきた。
……ジル?
私は驚きのあまり声が出なかった。
色黒男が引きずって連れてきたジルが血だらけになっていた。
上半身の服はズタズタに引き裂かれて、頭からは大量の血を流していた。
顔はもはや血だらけで誰か分からなかった。
自分の血の気が引いていくのが分かった。
あれは本当にジルなの……?
ジルが私の方を薄目で見た。
その目には恐怖が全くなかった。ただ私に逃げろと訴えかけていた。
私はゆっくり体を起こした。
「もう動けるようになったのかよ」
後ろから一番体格のいい男が顔を出した。
「アリ……逃げて」
ジルが今にも消えそうな声で呟いた。
色黒男が私からジルに視線を移した。
私が何か言葉を発する前に色黒男の拳がもうジルのお腹に入った。
「このガキしぶといんだよ」
「かはっ……」
ジルは眉間に皺を寄せて苦しそうな表情を浮かべた。
それでも目だけは色黒男を睨んでいる。
ジルを助けないと……どうやって?
私も身動き出来ないのにどうやって助ければいいのよ。
ドンッと床が振動した。
ジルがまるでいらないものみたいに私の前に放り投げられた。
私は今、目の前で起きた事が信じられなかった。
理解できないわ。本当に人間なの?
こんななんの力もない男の子を虐めるなんて……。
「アリ、大丈夫?」
ジルは薄っすらと笑みを浮かべながらか細い声でそう言った。
自分は血だらけになっているのに、私の心配をしてくれているの?
ジルは何とか目を開きながら私を見る。その目は私に助けを求める目ではない。
「ジルを置いていけない」
私はジルにしか聞こえない声で呟いた。
かといって、何の案も浮かばない。
ジルの体は近くで見ると痣だらけだった。
一体どれだけ殴られたのかしら……。
こんな小さな体にこんなにも傷をつけるなんて。
「そいつはもうゴミだな」
色黒男が吐き捨てるようにそう言った。
……何ですって?
今、ジルになんて言ったの?
私は生まれて初めて本気で殺意を覚えた。
何とか体を持ち上げてその場に立った。
絶対に許さないわ。
悪女を怒らせるなんていい度胸しているわね。
情けなんて少しもかけないわよ。
貴方達も雇い主も…殺すわよ。