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レベッカは驚きから少し怯えた表情に変わった。
「対価?」
私は小さく頷いた。
私は彼女の命を助けたのよ、それなりの対価は必要よね。
ジルには彼の賢さを私に共有してくれるという対価を貰ったわ。
レベッカは少し喋った感じだと、彼女は物分かりが良いのよね。
薄茶色の目に、銀色の髪、整った顔に知性が見られる、体はガリガリ、栄養失調レベル。
年齢は十五歳ぐらいかしら……。
「レベッカは何歳ですの?」
「十五歳よ」
やっぱり、十五歳だわ。
私ってやっぱり人を見る目あるんじゃないかしら。
それに彼女、相当我慢強いわよね。
足の激痛が収まったわけじゃないのに、それをあんまり表情に出さないのよ。
さっきは本当にパニック状態に陥っていただけって感じだったわ。
額から沢山汗が出ているって事はかなりの痛みを我慢しているって事よね。
「今から私が質問する事に嘘つかずに答えなさい」
私はあえて圧をかける言い方でレベッカに向かって言った。
レベッカは黙って頷いた。
「どうして私に助けを求めたの?」
こんな質問をされると思ってなかったのか、レベッカは固まった。
その辺で寝転がっている人に助けを求めても良かったはずなのにレベッカは私に助けを求めたのよ。
レベッカは私の目を真っすぐ見た。
「貴方から良い匂いがしたのよ。この村じゃ絶対にしないような匂いがね。多分身分が高いんだろうっていう私の推測よ」
「身分が高い人の足を掴んで自分が殺されるとは思わなかったの?」
「そんな事をする人がわざわざこんな所に来るとは思えない」
レベッカは顔をしかめてそう言った。
つまり生きる為に賢い選択を出来るようになったって事ね。
……そういえば壁を作ったけど大きな怒鳴り声もしないし、皆何をしているのかしら。
私はふと周りを見渡した。
何人かは私を睨んで声を上げている……、そう言えばこの壁って防音だったんだわ、何人かは私を羨ましそうな顔で見ている、何人かは茫然と私を見ている。
けど、大半の人が私の事を救世主だという希望の目で見ている。
……嘘でしょ。
困るわ。どうしましょ。私は悪女なのよ。救世主は聖女の役割よ。
この村の救世主なんて肩書きが私についたら悪女失格だわ。
それだけはなんとかして回避しなければ。
「アリシア?」
ジルが私の顔を覗き込んだ。
私はジルの頭を軽く撫でてから、レベッカが着ているぼろぼろの服の胸元を両手で掴み彼女の顔を私の顔に近づけた。
レベッカの瞳孔が大きくなるのが分かった。
こんなに顔を近づけたら人の瞳孔の動きがよく分かるのね。
まるでキスをする数秒前みたいな状況だわ。
「レベッカ、この村の救世主になりなさい。それが対価よ」