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私は彼女を見つめながら、大きくため息をついた。
「クシャナが指示したの?」
「え」
「クシャナが、犯人を吊し上げろって指示したのかって聞いてるのよ」
私はこみ上げてくる苛立ちを押し込めながら、そう言い放った。
一同の動きが止まる。皆、私と女を見ている。
レオンたちの方も私たちの様子を覗っている。これは非常に大切なことだ。クシャナが下した命でなく、自分勝手にクシャナのためだと行動をして、誰かを殺そうとしているのなら、それはただのエゴだ。
そんなエゴに巻き込まれたくない。
「……早く答えなさい。待つのは嫌いなの」
私は冷たい言葉を女にかける。
つまらない茶番劇に参加している暇はない。私にはやらなければならないことがある。
「…………違うわ」
女の弱々しい声が耳に届く。
「聞こえないわ」
聞こえているが、もっと確かな声で断言してほしかった。
女は強い目で私を睨みながら「違うわ!」と叫ぶように声を出した。
「けど……、前回の火事はリガルがしたことだもの! 昔、この村に大惨事を引き起こしたのは、今、あんたが庇ってる男だよ!」
………………は?
話がややこしくなりすぎている。頭が回らない。
……リガルの顔を見ればすぐに分かる。彼は被害者だ。それに、今回の犯人はリリーという老婆だ。
ああ、マカロンがほしい。糖分がなければ、クリアな思考ができない。
私はライから飛び降りた。そして、ライの足で踏まれている女の方へと近づき、しゃがみ込んだ。
彼女と至近距離で目が合う。赤茶色の瞳が冷たい目で見下げる私を映している。
「貴女、名は?」
「……ミレア」
「ミレア、私は別に貴女たちと戦いたいわけではないわ。……だから、前にこの村で起こった火事のことを詳しく聞かせて」
私は静かにそう言った。
ミレアは少し戸惑った表情をした。すると、レオンと戦っていたガタイの良い男性がこちらの方へと降りてきた。彼はこの中で最も筋肉があるのではないかと思う。
逞しく大きな腕の筋肉には仮面と一緒の独特な模様が描かれている。
「俺らもお前たちみたいなバケモノとは戦いたくない」
あら、私たち、そんなに怖かったからしら。
私は小さく笑みを浮かべながら「正しい判断だわ」とガタイの良い男の方を見つめた。
「俺の名はレオナルド。この二刀流の奴がソル、こっちは双子でドゴンとシェドだ。髪が長い方がドゴンで、短髪がシェド。さっき、吹き飛ばされて今こっちに向かっている者がファーゴだ」
私は指差している方へと視線を向けた。
ファーゴが大きな剣を持ち、首を回しながら私たちの方へと歩いてきている。
……ライに飛ばされた時、上手く受け身を取っていたのだろう。軽傷で済んでいる。
「そして、リガルのところにいる奴が槍使いのライネルだ」
…………そうだったわ。リガルのところにもう一人いたんだったわ。…………リガル、生きているかしら。もう手遅れなんてことになってないわよね?
「まだ殺されてないさ」
私の考えていたことを読み取ったのか、レオナルドはそう言った。
一気に名前が出てき過ぎて、覚えられない。クシャナと七人の親衛隊ぐらいで認識しておけばいいかしら……。
「あの日、何があったのか話そう」
レオナルドはそう言って、この村に起こったかつての火事について説明し始めた。