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私の挑発に乗り、男は怒りのこもった声を発する。
「なんだと? 今にもその笑顔をはいでやる」
「楽しくなりそうだわ」
相手の感情が高ぶっている時ほど、冷静沈着でいとかないと。それにこの貧血の状態で、私まで怒りにまかせて動いてしまったら、もう失神してしまう。
私の方へと一気に五人の仮面の者たちが攻撃してくる。ライは見事にかわし、更に鋭い爪で反撃する。ライの一撃はかなり重く、彼らの持っている武器では受け止めるのは難しい。
横幅のある大きな剣で受け止めるが、一人は吹っ飛ばされる。
あと、二回ぐらいこの攻撃を受けたら、剣が割れてしまうんじゃないかしら。
「大丈夫か!! ファーゴ!!」
野太い男性の声がその場に大きく響く。
ライが飛ばした大きな剣の者の名がファーゴだということが分かった。……まぁ、名前が分かったところで、一気に七人誰が誰かなんて覚えられないけれど。
私はそんなことを考えながら、他の四人の様子を覗った。
「ちょっと、こんなのもろにくらったら死ぬじゃない」
「どうすんだよ」
「俺たちはクシャナ様のために命も惜しまないだろ! さっさとこいつをやるぞ!」
少しだけ弱っていた勢力に一人の男が覇気ある声を出す。
こうやって、チームワークの熱を保つのか……。残りの四人も覚悟を決めたように私の方へと身構える。
…………なんだか、急に馬鹿らしくなってきたわ。
「クシャナが可哀想だわ」
私は彼らに聞こえるぐらいの声でそう呟いた。その瞬間、その場の空気が張り詰めたのが分かった。
「は?」
女の声が聞こえた。女は彼らの中で彼女だけだろう。
「もう一度今の言葉言ってみな!!」
私の発言が勘に触ったのか、女は剣ぐらいの大きさの鎌を私の方へと向ける。
鎌を持っているのは、きっとクシャナへとの尊敬と憧れからだろう。クシャナが持っているものより随分とちっさいけれど……。いや、クシャナが持っている鎌なんて誰も扱えないか。
「クシャナ様の侮辱は絶対に許さない!」
私が鎌のことに関して考えていると、女が殺気を漂わせながら私の方へと攻撃してきた。
……流石にライで吹っ飛ばすのは可哀想よね。
「ライ、彼女を殺さない程度に踏みつけて」
私はライにそう命じる。こちらに向かってくる仮面を被った女は一度はライの攻撃をかわしたが、すぐにライに踏みつけられた。
その反動で仮面が取れる。仰向けになったままライの手と地面にサンドされている彼女と目が合う。