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「レオン」
一つ前の崖から現れたレオンと目が合う。
……まさか、ここに現れるとは思いもしなかった。驚きが大きすぎて、言葉が出てこなかった。
レオンはそんな私を嬉しそうに見ている。全く変わらない彼の姿にラヴァール国へ戻って来たのだと再認識させられた。
リオは無事だったのかしら。
私は斑点病にかかったリオのことが一瞬頭に過った。……けど、レオンを見た感じ、大丈夫だった気がする。
「また、お会いできて光栄です」
「私もよ」
私はレオンを見つめながら、微笑んだ。
「あのライオンは一体なんなんだ…………」
恐怖に怯える声が聞こえてくる。私は仮面の者たちの方へと視線を向けた。
彼らは逞しいライオンの姿に慄いている。森で育った彼らにとって、ライオンの恐ろしさはよく理解しているだろう。
ライとレオンが来てくれたおかげで、反撃できるわ。
私は口の端を小さく上げた。レオンも私の顔を見て、「仰せのままに」と仮面の者たちの方へと振り返る。
……ここから私のターンよ!
「仲間がいるなんて聞いてないわよ」
「……やっぱり、部外者なんて信じるべきではなかったんだ!」
「俺はガキを相手する! お前らは女を頼んだ!」
レオンの方へ一人のガタイのいい男性が向かう。それ以外の五人は私の方へと向かってくる。
あら、私の相手がこんなに多くていいのかしら。レオンはメルビン国の暗殺者よ? そう簡単に倒せる相手ではないわ。
……私も負けないけどね。
私はライに乗りながら、五人の方へと駆けてゆく。ライの迫力はやはり凄い。どう戦えばいいか分からないのだろう。仮面の者たちは、ライを目の前にして戸惑っている。
野生の力は侮れないわね。……少しズルして戦ってしまっている気もするけれど、今はしょうがない。
私を囲うようにして、五人がぐるぐると回っている。
…………隙を狙いたいのだろうけど、残念ね。私に隙などないのよ。
「レオン、短剣はある?」
一つ先の岩の方で戦っているレオンに声をかける。レオンは瞬時に「これを」と彼の腰につけてあった小さな剣を私の方へと飛ばした。剣は真っ直ぐ私の方へとくる。
ナイスコントロール! と心の中で言いながら、私は短剣を片手で掴んだ。
スピードと重みでなかなか手の平に痛みが走る。……レオン、かなり強く投げたわね。
「ハッ、武器はそれだけか?」
私のことを鼻で笑う仮面の男に満面の笑みを向けた。
「貴方たち相手なら、これで充分だわ」