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どうしろっていうのよ。
大勢で一人を袋叩きなんて……。こんな卑怯なやり方に一言申したいけれど、今の私にそこまでの力は残っていない。
そもそも、意識を保つだけで精一杯の人間がここにいるべきじゃないのよね。
なけなしの残りの体力をちゃんと考えないと、負けてしまう。
「何か言いたいことはないのか?」
リガルの首元へ先が鋭く尖った長い槍のようなものが向けられる。
……本当に処刑されそうな雰囲気じゃない。まだ、「最期に言い残したことは?」って聞かれていないだけ、殺されない見込みはあるって捉えておきましょ。
口を閉ざしたままのリガルに、槍を持った男はグッと刃の先端をリガルの喉に突き付けた。リガルの首元から血がゆっくりと流れてる。
……呑気な考えは捨てよう。このままだとリガルは確実に殺される。
「育った村が焼け野原になる苦しさをお前は知っているだろう?」
…………女?
私はその声の高さに仮面を被っている者の中に女がいることに気付いた。
華奢な体型だと思ってはいたけれど、女だったとは……。勝手に全員男だと思い込んでいた。
……ベリーショートの髪型と、女性らしい体つきでもない。顔を見れば女性だと分かるのかもしれない。
そう考えると、クシャナってかなり胸がある…………って今はそんなこと関係ないわ!
「お前のその火傷はお飾りか? 何があったのかもう忘れてしまったのか?」
女性の煽りにリガルの目つきが変わるのが分かった。
「なんだその目は」
睨むリガルに向かって、女性の口調がきつくなるのが分かった。
……リガルも大変ね。
私は他人事のように心の中でそう呟いた。
ふと、私が今もし万全な状態だったとしても、私は彼らを倒さないだろうな、と思った。
そんな優しい人間じゃないもの。私は彼らになんの恨みもない。
身動きが取れないリガル一人と武器を持った仮面をつけた七人、これはフェアじゃない。それが嫌なだけ。
「強き者は、むしろハンデを与えないと」
私は小さくそう呟いて、自ら、地面に落ちていた小枝をパキッと踏みつけた。
一斉に仮面の者たちがこちらを見るのが分かった。リガルも視線を私の方へと向けていた。
大体、こういうシーンはドジって意図せずに物音を立ててしまうことが多い。けど、私はそういうポンコツキャラではない。
わざと気付かれるように仕向けたのだから。