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全身の力が抜けていくのが分かった。
呼吸が乱れたまま、シーナの様子を見る。彼女の方は呼吸が整っており、顔色もいつも通りになっている。意識は失ったままだけど、次目を覚ませば元気な姿が見られるだろう。
「アルビー、ルーク国王に『お主の探している天才を見つけた』と伝えてくれ」
呟くように発した言葉に、おじい様の足元にいた蛇がシュルッとその場を離れる。
……あら、アルビー、いつからそこにいたの。
おじい様がなんて言ったのか分からないけれど、私は彼らの様子を横目で見ていた。
「アリシア、ありがとう」
私がクシャナの声に反応しようとした瞬間に、彼女に力強く抱きしめられた。
……なかなかの腕力!
今にも貧血で倒れそうなのに、この圧で更に死んでしまう!!
私はそんなことを思いながら、クシャナの方をチラッと見た。彼女は誰にも分からぬように微かに震えていた。
シーナを失うことが余程怖かったのだろう。
あんなにいつも威厳があって、強いクシャナが……。私は彼女の人間らしい一面を垣間見たような気がした。
「私の孫娘は本気を出せば国をも亡ぼすかもしれぬな」
そう言って、笑うおじい様の顔が目に入った。
このまま意識を失っていいかと思った。もう限界よ。魔力を使えても、そんな体力もう残っていない。
本来なら、今すぐにでも私は安静にならなければならないのよ……。
このまま、少し眠りに……………………ダメよ!!
私はカッと目を見開いた。
「リガル!」
私は彼の名を叫んだ。
……色々あって、すっかり忘れてしまっていた。ごめんね、リガル。
「どうした?」
クシャナが私から手を離し、驚いた表情を浮かべる。
「クシャナ、リガルって男を知ってる?」
「…………あの顔に火傷のある者か」
「そう! その人!」
「彼がどうかしたのか?」
「私、彼を探しに行かないと」
私はそう言って、フラフラと立ち上がる。「おい」とクシャナが私を止めるが、私はそんなことお構いなく、走り出した。
よく私動けるわね、と自画自賛したい。
これで全て終わったのね~~、と一息ついている場合じゃなかった。
あの老婆の問題も残っているし、リガルを森に置いてきてしまっているし……。
「もう少しゆっくりしなさいよ!」
ヴィアンの声が聞こえたけれど、私は振り向かずに足を進めた。最後にため息交じりに「どこにまだその精神力と体力が残っているのよ」と言ったのが微かに耳に届いた。
……正直、もう一ミリも動きたくないわよ。
リガルがあの場にいてくれれば、良かったのに……。
そしたら、私もこれ以上ない体力を更に酷使することはなかった。
この一連の出来事が終われば、たんまりと休んでやるんだから! 悠々自適に過ごすこともたまには必要よ!
そんなことを思っていると、私はリガルとさっきまで会話していた場所へと戻って来た。