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私の血なら……!
心の中でそう呟き、デュルキス国の古語を唱え始めた。
私の周りとシーナの周りが紫のオーラに包まれる。古語を口にしながら、自分の血が失われていくのが分かった。
段々、体が熱くなってくる。
「な、何をしてるんだ」
クシャナの驚いた声にヴィアンが静かに「彼女、自分を犠牲にしているんだわ」と答える。
魔法を持たないが、聖女やデュルキス国について色々と調べていたヴィアンだ。魔法についてはそれなりに詳しいのだろう。
……まずいわね。
思ったより血が必要みたい。私の意識が持つか怪しいわ。……このままだと二人して終わってしまう。
頭がクラクラする中で、意識を必死に保つ。一瞬にしてここまでの貧血になるなんて、死のうとしているようなものだ。
「なんてことだ……」
おじい様の声が微かに聞こえた。
「マークとケイトに任して、こちらの様子を見に来たら……。生きている間にこれほど素晴らしい魔法能力を目に出来るとは……」
「アリシアがしていることは、そんなに凄いのか?」
「……お主の肉親を救うために自分の血を分け与える。常人にはとてもできぬ技だ。闇魔法のあの魔法をこれほど高度に使った者はいないだろう」
「ちょっと、待て。アリシアはどうなる?」
「それは…………、私にも分からぬ」
おじい様とクシャナの話し声が聞こえたが、何を会話しているのかは分からないほど頭がぼんやりとしてきた。
シーナの顔色が少しずつ良くなってきた。
……良かった、上手くいっているみたい。後少しの辛抱よ。
周りに人が集まっているのが分かった。まるで私を「聖女様」と言わんばかりの表情を向けてくる。やめてほしいわ。その視線を向けられるのはリズさんだけで充分。
これは人助けなんかじゃない。私の魔法能力を上げるための踏み台でしかないのよ。
「だから、死なれたら困るのよ!」
私はそう言って、最後に力を強く込めた。
その瞬間、薄紫色の光が眩しく放たれて、ゆっくりと消えていった。