前へ次へ
610/621

610

 私の血なら……!

 心の中でそう呟き、デュルキス国の古語を唱え始めた。

 私の周りとシーナの周りが紫のオーラに包まれる。古語を口にしながら、自分の血が失われていくのが分かった。

 段々、体が熱くなってくる。

「な、何をしてるんだ」

 クシャナの驚いた声にヴィアンが静かに「彼女、自分を犠牲にしているんだわ」と答える。

 魔法を持たないが、聖女やデュルキス国について色々と調べていたヴィアンだ。魔法についてはそれなりに詳しいのだろう。

 ……まずいわね。

 思ったより血が必要みたい。私の意識が持つか怪しいわ。……このままだと二人して終わってしまう。

 頭がクラクラする中で、意識を必死に保つ。一瞬にしてここまでの貧血になるなんて、死のうとしているようなものだ。

「なんてことだ……」

 おじい様の声が微かに聞こえた。

「マークとケイトに任して、こちらの様子を見に来たら……。生きている間にこれほど素晴らしい魔法能力を目に出来るとは……」

「アリシアがしていることは、そんなに凄いのか?」

「……お主の肉親を救うために自分の血を分け与える。常人にはとてもできぬ技だ。闇魔法のあの魔法をこれほど高度に使った者はいないだろう」

「ちょっと、待て。アリシアはどうなる?」

「それは…………、私にも分からぬ」

 おじい様とクシャナの話し声が聞こえたが、何を会話しているのかは分からないほど頭がぼんやりとしてきた。

 シーナの顔色が少しずつ良くなってきた。

 ……良かった、上手くいっているみたい。後少しの辛抱よ。

 周りに人が集まっているのが分かった。まるで私を「聖女様」と言わんばかりの表情を向けてくる。やめてほしいわ。その視線を向けられるのはリズさんだけで充分。

 これは人助けなんかじゃない。私の魔法能力を上げるための踏み台でしかないのよ。

「だから、死なれたら困るのよ!」

 私はそう言って、最後に力を強く込めた。

 その瞬間、薄紫色の光が眩しく放たれて、ゆっくりと消えていった。

前へ次へ目次