609
我ながらとんでもない方法を思いついてしまった。
水魔法と融合するよりも頭の中でイメージが浮かばない魔法だ。……私ってば魔法書の一つぐらい出せるんじゃないかしら?
「ううう」
シーナの呻き声に早く処置を取らねばと焦らされる。
魔力を体内に流し込むときにシーナの体に適応させるなんて……。
「ハッ」
私は今の状況を鼻で笑ってしまう。
ただクシャナの手助けをしにきたはずが、まさかシーナを全力で助けないといけないなんて。
ウィルおじいさん、貴方ならこの状況を絶対打破しますよね?
……私はその天才少年の弟子よ? できないはずがない。
深呼吸して、私は魔法の態勢を整えた。シーナの頭の切り傷を治し、後はキイの洗練された魔力を借りて、私はゆっくりとシーナの体内へと力を流し込む。
やっぱり、と私は心の中で呟いた。
魔力はただシーナの体を通り抜けるだけだ。
…………なんて難易度なの。
失敗と共に焦りが更に大きくなる。
私が歴史を学んできた限り、今までこんな魔法をした人などいない。過去から学べることなどない。
「あんなに本を読んできたのに、役立たずの脳みそ」
私が小さくそう呟くと、クシャナの優しい声が聞こえた。
「知識は新しい知識を生み出す」
クシャナの言葉に私はハッとさせられた。
過去の歴史と同じことを繰り返してても、歴史には残らない。
「私が歴史を変えてやる」
確かな声で私はそう発した。
私はシーナの体へと触れた。彼女の血が私の手にべっとりとつく。ヌルッとしたその感触に私は手を離したくなった。血生臭い匂いが私の鼻へと入ってくる。
……正直怖い。
失敗するかもしれない。そしたら、シーナは命を落とす。
私は人の生死を自分の魔法に賭けているのだから。
怖い、手が震えるほどに……。緊張からお腹が痛くなる。手先がじんわりと冷たくなっていく。
魔力を流すだけではだめなのよ。
瞬時に魔力を適応させるなんてこと…………。いや、待って。できるかもしれない。
一度だけ使ったことのある魔法。私のものを他人に適応させることに成功しているじゃない。
………………………………………闇魔法レベル91。