60 三十六歳 ウィリアムズ家父 アーノルド
現在三十六歳 ウィリアムズ家父 アーノルド
私の息子は三人とも優秀で自慢の息子たちだ。
しかし一番下の娘がとても我儘に育ってしまった。それでも可愛くて甘やかしてしまった。
それが急におかしくなったのがアリシアが七歳の時だった。
何に対しても長続きしなかったアリシアが急に剣を習い始め、本を読み始めたのだ。
すぐに飽きるだろうと思って放っておいたが何かが憑いたように豹変した。
剣の腕はどんどん磨かれていき、膨大な知識を持ち、発想力も素晴らしい事が分かった。
私は何かの病気かと疑い、医者を呼ぶと言ったのだがアリシアは断固拒否した。
彼女が剣のテストを受けたいと言った時はなんとしても止めなければならなかった。
あのテストは勿論女の子も受ける事が出来るが、アリシアはその辺の貴族と比にならない程の並外れた剣の技術を持っている。本人は全く自分の剣の腕の凄さには気付いていないみたいだが。
つまりあの剣のレベルテストを受けるとアリシアが間違いなく目立ってしまうという事だ。
アリシアが幼い頃から目立つと危険だと私は考え、それをアルバートにも伝えた。
アルバートも私の意見に賛成してくれた。
そして、アリシアが魔法学園に入学する歳、十五歳になったら理由を伝える事にした。
しかし、事態は急変しつつある。
なぜなら、アリシアが十歳で魔法が扱える事が判明してしまったからだ。
アリシアの魔法を実際に見た後、我々五大貴族は緊急会議を開いた。
「まさか本当に魔法が使えたとは……」
ネヴィルが顎の髭を触りながら呟いた。
「十歳で魔法が使えるなんて、初めてじゃ……」
「いや、初めてじゃない」
デレクの言葉に重なるようにジョアンが答えた。
「確か過去に一人いたはずだ」
「そいつはどうなったんだ?」
「魔法が二度と使えなくなった」
ルークの言葉で部屋が静まり返った。
私達は国王の事をルークと呼ぶ。本名はシーカー・ルーク。
「なら、アリシアもそうなる可能性があるという事か?」
ネヴィルが眉間に皺を寄せながらそう言った。
「いや、レベルを順番に上げていけばそうならないだろう」
「成程」
私は自分の娘が異端児になるとは思ってもみなかった。
アリシアには幸せでいてもらいたい。
「ルーク、異例だがアリシアを魔法学園に入れたらどうだろうか?」
ジョアンの提案に耳を疑った。
「アリシアはまだ十歳だ」
「それが一番の安全策だ」
確かにそれはそうだが、アリシアには普通の生活を送ってもらいたい。
しかし、彼女が早くから魔法学園に行くことを望むかもしれない。
私はアリシアの意思を尊重したいが、十歳はまだ早すぎる。
「せめて十三歳だ」
「そうだな。十三歳が妥当かもしれない。どうだ? ルーク」
ルークは目を瞑りながら難しい顔をして俯いている。
これは彼が深く考え込んでいる時の癖だ。
暫く沈黙が続いた後、ルークが顔を上げた。
「キャザー・リズの件はどうするのだ?」