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「好きな色は黒ですわ」
「黒が好きなんだ! 私は白が一番好きよ」
「正反対ですわね」
私が笑顔でそう言うと、リズさんも笑顔を返してくる。
この笑顔の意味も正反対だわ。
「反対だからこそいいんじゃない?」
「ソウデスワネ」
正直話すのがだんだん面倒くさくなってきたわ。
こんな会話でお互いのことなんて知れるはずないわ。
「好きな事は?」
まだ質問するの? それに質問があまりにも抽象的だし。
リズさんは私の表情を全く読み取ってくれないのね。
これだから鈍感ヒロインは苦手なのよ!
「これですわ」
私はパチンと指を鳴らした。
すると、部屋の端っこにある花瓶に挿されていた花束の中の一輪が私の方に向かってきた。
物を引き寄せる魔法よ。
私はこっちに飛んでくる花を見事にキャッチしてリズさんに渡した。
「どうぞ」
リズさんだけでなく、皆が私を凝視している。
私が男前な行動をしてビックリしているのかしら。
「魔法……?」
「ええ」
早く花を受け取ってくれないと私が恥ずかしいわ。
「アリちゃんって」
「十歳……、だ」
「だよね」
カーティス様とアルバートお兄様の会話が聞こえた。
ウィルおじいさんも私が魔法を使った時に年齢の事について聞いてきたわよね。
もしかして私、普通の子より優れているのかしら?
「有難う」
ようやくリズさんが私の手から花を受け取ってくれた。
「綺麗なマーガレットね」
リズさんが天使も顔負けの笑みを私に向けた。
悪役を倒すような神々しい笑顔を向けないでください。
あなたからの好感度が高くなっても、ちっとも嬉しくないわ。
その花は嫌味のつもりで渡したのよ?
鈍感ってある意味幸せね。
皆が帰った後、私は図書室に向かった。
結局今日も何にも決まらなかったわね。
ただリズさんと私が会話しただけになったじゃない。
私が図書室に着く前にアルバートお兄様とお父様が立ち話しているのが見えた。
凄く真剣な顔だわ。そんなに難しいお話をなさっているの?
私はばれないようにこっそり近づいた。
「アリシアが魔法を使った? それは本当なのか?」
「はい。この目で見ました」
「けどアリシアはまだ十歳……」
十歳がどうしたの?
どうして皆、私の年齢を聞いて驚いているのよ。
「こんな事は初めてだ。信じられない」
「僕も驚きました。魔法を扱えるようになるのは十三歳からなのですから」
十三歳から?
私、十歳。
あれ、なんだか数字がおかしいわよね…?
「異端児」
お父様が低く重みのある声で呟いた。
私が異端児?
異端児はヒロインのはずよ。
それに、魔法が扱えるのが十三歳からなんておかしいわよ。きっと何かの間違いだわ。
私は頭で今の話を処理できないまま図書室へ走った。
悪女がこんなに取り乱しちゃいけないって分かっているけど今の私にそんな事を考えている暇はないわ。