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「アリシア様。客間に皆様が来ていますわ」
ロゼッタの声が図書室に響いた。
今、良い所なのに……。
私は読んでいたところに栞を挟んだ。
「今行くわ」
「今日は女性の方もいらっしゃいます」
女性の方?
お兄様達って女の人と親しかった印象があんまりないのよね。
可能性があるとすれば……ヒロインのキャザー・リズ!
リズさんが我が家に来ているの?
魔法学園に行かなくても会えるなんて。今日は最高の一日になると思うわ。
お兄様達の前でリズさんを虐められるのよ。ああ、楽しみだわ。
ついに私も本物の悪女になれるんだわ。
私の悪女っぷりを誰かに見られて認められる日が来たんだわ。
私は軽快な足取りで客間に向かった。
「こんにちは」
私が部屋に入るとリズさんが私の元に近づいて挨拶をした。
礼儀はちゃんとしているのね。
「アリシアちゃんってアルバートの妹だったのね」
私と目線を合わせて笑顔でそう言った。
相変わらず眩しい笑顔だわ。
「ええ」
私は満面の笑みで答えた。
私の笑顔はリズさんみたいに全く輝いていないのよ。むしろ真っ暗なオーラを放っているの。
「アリちゃん、今日も可愛いよ」
「カーティス様も今日もかっこいいですよ」
カーティス様って軽々しくそんな事を言えちゃうから凄いわよね。
その顔でそんな甘い台詞……、甘くはないか。でもまぁ、破壊力は凄いわ。
「今日はどうしたのですか?」
「ああ、学園のフェスティバルのパンフレットを作るんだよ」
アルバートお兄様が笑顔で教えてくれる。
そうだったわ、お兄様達って生徒会ですものね。
まだフィン様やエリック様、アランお兄様とヘンリお兄様がいるのは分かるわ。
どうして私まで呼ばれたの?
まさか手伝わせるつもりなの?
「そんな嫌な顔するな。少しアドバイスが欲しいだけだよ」
アルバートお兄様が苦笑しながら私に一枚の紙を渡した。
『魔法学園フェスティバル 生徒会の出し物』
……これ、イベントだわ。
デューク様とリズさんがきっとここで急接近するのよね。
この出し物について私はアドバイスするの?
何度も言うけれど私十歳なのよ?
……でも悪女に年齢は関係ないわね。
私の役目はいかにデューク様とリズさんをこのイベントでラブラブにさせるかよ!
勿論、二人を応援しているわけじゃないのよ。ラブラブにした後にリズさんを罵るのよ。
貴方の身分で……、ダメだわ、身分の話をするなんて卑怯よ。それに彼女は実際能力があって魔法学園に入れたんだから。
ラブラブにしても罵る言葉が見つからないわ。
「アリシア? 難しい顔をしてどうしたんだ?」
「この顔になった時は僕達の話なんか聞こえてないよ」
「急に集中して何か考えだすからな」
「ある意味才能だよね」
お兄様達の声が微かに聞こえたが、考え事に集中していて、何を言っているのか分からなかった。
私はリズさんのライバルだから、ラブラブに対して何を言うべきなのかしら。
……そうだわ、デューク様に相応しいのは私だって言えばいいんだわ。
これぞ好敵手!
問題は恥ずかしくてそんな台詞言えるかどうかよ。いきなりデューク様に告白するようなものだわ。
度胸と勇気が必要だわ。悪女に度胸と勇気がないと立派とは言えないわ。
デューク様はどのみち私を振るのだし、当たって砕けろよ。
悪女になるためならなんでもするわ!