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一日で熱が下がってすっかり元気になった。
病気になったら普段健康でいられる事の有難みがよく分かるわ。
昨日のデューク様の……、人命救助の事はあまり深く考えないでおきましょ。
それよりも問題は、魔法学園にもうヒロインがいるって事よ。
一番重要な事なのにすっかり忘れていたわ。忘れていた事を今更悔いてもしょうがないわ。
今を考えないとね。どんな状況なのかしら。
ヒロインは絶対に攻略対象者達に近づいているはずよね?
でも、アルバートお兄様からヒロインの話を一回も聞いた事がないのよね。
本当に魔法学園に入学したのかしら。
平民で全魔法を使えるって相当噂になるはずだわ。
もしかして、急にお金がなくなって魔法学園に入れてもらえなかったとか……。
けど、ヒロインって特待生だから関係ないわよね。
ああ、どうなっているのか気になるわ……。
アルバートお兄様に聞いて、どうして知りたいの? とか言われたら困るわ。
馬鹿正直にヒロインを虐めたいからですなんて言えないもの。
……こうなったら魔法学園に侵入するしかないわね!
情報収集は自分でしないとね。悪女たるもの人に頼ってはだめよ。
侵入すればヒロインを生で見る事が出来るし、それに侵入って悪い事だから……、一石二鳥よ。
ああ、ヒロインについに会えるのね。長い道のりだったわ。胸が高鳴るわ。
私は駆け足で馬小屋に向かった。
開いた口が塞がらないわ。
魔法学園って一体どれだけ費用をかけて作られたの……。
ゲームで外見は知っていたけど、生で見たら迫力が凄いわ。
やっぱり貴族が来るだけの事はあるのね。
窓がステンドグラスって、誰かがボール遊びして割れたらどうするのかしら。
私は馬から下りて正門の方へ向かった。
正門から入って大丈夫なのかしら? 捕まったりしないわよね?
でも裏門からコソコソ行くのは嫌なのよね。悪女は堂々としておかないと!
それに魔法学園の生徒以外立ち入り禁止なんて聞いた事ないもの。
きっと大丈夫よ、入れるわ。
私は背筋を伸ばして門を潜ろうとした。
「君!」
秒殺だったわ。
「何ですか?」
私は満面の笑みを浮かべて守衛らしき人を見た。
この人は普通の人間なのかしら?
「君はここの生徒じゃないだろう?」
「ええ」
「それじゃあ、入ったらダメだ」
あら、魔法学園の生徒以外立ち入り禁止なの?
それならそうとゲームの説明書に書いておいて欲しかったわ。
こうなったらプランBね。
本当はこんな卑怯な手は使いたくなかったのだけれど……。
「私はウィリアムズ家のアリシアですわ。お兄様の忘れ物を届けに来たのよ。それを追い返すつもり?」
私は睨みながら守衛らしき人に言った。もちろん嘘だけどね。
守衛らしき人の顔が急に青ざめていく。
さっきまでニコニコしていた少女が睨んできだけでそんなに怯えた顔をされるなんて……。
嬉しすぎるわ。そんな顔をしてくださり有難うございます。自分が悪女だって実感できますわ。
「ウィリアムズ家の……」
守衛らしき人は後ずさりながらそう呟いた。
ん? もしかして私がウィリアムズ家だからって理由で怯えたの?
さっきの喜びを返してほしいわ。なんだかとても残念な気分よ。
結局家の名前なのね。
「どうぞ、お入りください」
私は気分が沈んだまま校舎へ向かった。