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いつものように庭でお稽古をしているとエリック様が私の元へ来た。
あら、何の用かしら。私は素振りを止めてエリック様の方を見た。
「アリシア、十歳になったんだし町に行ってみないか?」
貧困村には毎日足を運んでいたのに町には一度も行った事がないのよね。
「行きたいですわ!」
私がそう言うとエリック様の表情が明るくなった。
二人で行くのかしら?
「エリック何してんだ?」
ヘンリお兄様が私達の方へ向かってくる。
あら、ヘンリお兄様はエリック様が来ていた事を知らなかったのかしら。
ヘンリお兄様はエリック様の首に手を回した。
「今からエリック様と町へ行くんですわ」
私がそう言うと、ヘンリお兄様の顔が険しくなった。エリック様を横目で睨んでいるわ。
仲間外れにされた事を怒っているのかしら。ヘンリお兄様も町に行きたかったのね。
「俺も行く」
ヘンリお兄様は笑顔でそう言った。なんだか裏のある笑顔ですわね。
アルバートお兄様がよくしている笑顔に似ていますわ。
「アランお兄様は?」
「アランは今家庭教師に勉強見てもらっているぞ」
あら、双子なのに一緒の時間じゃないのね。
「とりあえず、馬車に乗ろうぜ」
エリック様が少し顔を引きつらせながらそう言った。
馬車より馬に乗って行きたいわ。ちゃんと乗馬できるようになったんだから。
「馬に乗って行きませんか?」
私がそう提案すると二人は固まった。
「つまり、俺らのどっちかと一緒に乗って行くって事か?」
「いえお兄様、私が馬に乗りたいのです」
「でも、アリ、君は女の子だろ?」
「女の子は馬に乗ってはいけないのですか?」
「いや、そういうわけではないが一般的には……」
「それでも私は馬に乗りますわ。ヘンリお兄様とエリック様は馬車でいいですわよ」
自分の意見を通すあたり、まさに悪女よね。悪女になるため三年間訓練した成果が出ているわ。
自然に悪女っぽい台詞が出てくるんだもの。もう立派な悪役令嬢になったんじゃない?
ヘンリお兄様もエリック様も困惑した表情をなさっているわ。
ヘンリお兄様は大きなため息をついた。
あら、幸せが逃げてしまいますわよ?
「分かった。俺らも馬で行くよ」
やったわ! なんだか勝った気分だわ。ヘンリお兄様一人なら勝てるのね、私。
「そうだな。俺らが馬車に乗って、アリシアが馬に乗っているのなんておかしいしな」
エリック様はそう言って笑った。
やっぱり美形の笑顔って破壊力半端ないわよね。
私がエリック様の顔をじっと見ていると、エリック様が手で私の目を覆った。
「そんなに見つめんな」
エリック様の声だけ聞こえた。照れているのかしら。
いや、年下の女の子に見られただけで照れるはずないわよね。
きっとこの釣り目の生意気な瞳に苛立ったのよ。まさに悪女って瞳で私は気に入っているんだけどね。
「早く行くぞ」
ヘンリお兄様にそう言われてエリック様が私の顔から手を離した。
あら、エリック様少し顔が赤いですわよ?
もしかしてそんなに怒らせてしまったのかしら……。
凄いわね、私。瞳だけで人を怒らせる事ができるんだもの。