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ふかふかのベッド、柔らかい枕、温かい人肌。
……温かい人肌!?
私は驚きのあまり目を覚ました。
眠気が一瞬で吹っ飛んだ。
長い睫毛、整った鼻、少し薄い唇、なんて綺麗な寝顔なのかしら。
一生見ていられるわ。
……だめよ、悪女は男になんか振り回されないんだから。
けど、どうしてデューク様が私の隣で寝ているのかしら。
それにどうして上半身裸なの?
……筋肉質で綺麗な体だわ。
私もこんな風に筋肉をつけたいのよね。
どんなに筋トレをしても全く形にならないのよね。
私はそんな事をぼんやりと考えながら部屋を見渡した。
ここって、……私の部屋じゃないわよね。
私の部屋はこんなに広くないし、こんなにシンプルでもないわ。
という事は、デューク様の部屋って事よね?
つまり、王宮って事よね?
どうやってここに来たのかしら……馬車に乗ってからの記憶がないのよね。
すぐに寝てしまったのよ。
とりあえず、今、私に出来る事は一つだけだわ。
……ここから逃げましょ。
私は物音を立てないようにベッドからそっと降りた。
「どこに行くんだ?」
私がベッドから降りたのと同時にデューク様の声が聞こえた。
もしかして、さっきから起きていたのかしら。
私はゆっくりデューク様の方へ振り向いた。
……ダイヤモンドのネックレス。
どうしてデューク様が持っているのかしら。
確か私の首に……魔力を封じ込める首輪がなくなっている。
「アリシアが頭を吹っ飛ばした男のポケットから出てきた」
そう言ってデューク様は意地悪そうに笑った。
嘘でしょ。
まさか、私、その高級なダイヤモンドのネックレスを盗られていたの?
自分の血の気が引いていくのが分かる。
やっぱり、逃げたほうがいいかしら。
私は何もなかったかのようにデューク様に背を向けて歩き出そうとした。
「こっちに来い」
そう言ってデューク様が私の腰に腕を回して軽々と私を持ち上げた。
これは反則技では?
私はそのままベッドの上でデューク様の前に座らされた。
どうして向かい合わせなのかしら。
今から物凄い説教でもされるのかしら。
弱気になってはだめよ。悪女たるもの、説教ぐらいではめげないわ。
デューク様が優しく私の首に手を回した。
……え?
どうしてデューク様の顔がこんなにも近くにあるのかしら。
私の頭が真っ白になる。
気付けば胸元にはダイヤモンドのネックレスが戻ってきていた。
前と変わらずダイヤモンドは美しく輝いている。
「綺麗だな」
デューク様が私の目を真っすぐ見ながらそう言った。
……ダイヤモンドの話ですよね?
主語をつけて欲しいですわ。私をからかっているんですよね?
蒼い瞳は真剣に私を見つめる。
自分の体が熱くなるのが分かった。
こういう時ってどうすればいいのかしら。
ヒロインなら間違いなく目を逸らしていると思うの。
でも、目を逸らすのは失礼だと思うし、何よりもヒロインがしそうな事は絶対にしたくないのよね。
「あの、国王陛下は……」
私は思わず国王様の方に話題を変えてしまった。
私がそう言った瞬間、デューク様の顔が曇った。
基本的に自分の発言に後悔する事はないのだけど、この発言に対しては物凄く後悔した。