78話 学園祭 その1
――みなさん、おはようございます。
生徒会長のサラ・イリア・カルディアです。
本日より七日間、リュケイオン魔法学園の学園祭が開催されます。
幸いこのような晴天に恵まれたことをとても嬉しく思います。
きっと
拡声魔法を通してサラのよく通る声が、第一訓練場内に響く。
「ねーねー、ユージンくん。本当は雨だった天気を晴れさせたのって私やレベッカ委員長やユーサー学園長なんだけどー」
隣のスミレが少し不服そうだ。
俺もあとで聞いたところだが、ここ最近の天候が悪かったのを学園祭の開催に合わせて無理やり天気を晴れさせたらしい。
計画はレベッカ委員長。
魔法術式の構築は、ユーサー学園長。
魔法の発動は
「計画者のレベッカ委員長が、『裏方は出しゃばらないべきだ』って言ってたんだろ? それにスミレは口止め料をもらってるんだし」
「そーだけどー」
それにしてもいくら祭り好きとはいえ、天候まで変えるとはねぇ。
レベッカ委員長の意識は高い。
――みなさん、今日のために真剣に準備に取り組まれたと思います。
我が校の学園祭には、各国から多くの来客がいらっしゃいます。
皆様が大陸の最高学府であるリュケイオン魔法学園の催し物や出し物を楽しみにされています。
サラの開会の挨拶は続く。
「スミレは今日はどうするんだ?」
俺は特に予定がない。
武術大会の決勝は六日目だ。
スミレを誘って学園祭を回ろうかと思っていたが。
「えっとねー、今日は体術部の手伝いなんだー」
ふられてしまった。
「そっか。がんばって。あとで見に行くよ」
「うん☆ 来てきてー」
スミレがニカっと笑う。
すっかり学園に馴染んだな。
サラは生徒会の仕事で忙しいと聞いている。
スミレもすっかり体術部の一員という感じだ。
(あれ……? 俺が一番馴染めてない?)
気がつくと一人だし。
学園祭を一緒に回るような友人もいない。
いや、一人だけクロードからは「せっかく都市外から女の子がいっぱい来るから、ナンパしようぜ」と言っていたので頭をしばいておいた。
あいつはそのうちマジで刺されると思う。
そんなことを考えているうちに、サラの挨拶が終わりそうだ。
――それではリュケイオン魔法学園の学園祭を開始します!
七日間、精一杯楽しんでください!!
開会挨拶終了とともに、大きな拍手が響き渡る。
こうして、リュケイオン魔法学園の学園祭が始まった。
◇スミレの視点◇
「いらっしゃいませー」
「こちらの乗り物は10分待ちですー」
「はーい、ボクは身長いくつかなー? 結構速いけど大丈夫?」
「次のかたはここでお待ちくださいー」
すっごく賑わっている。
体術部の出し物は、『人力遊園地』。
その名の通り、『メリーゴーランド』『観覧車』『ジェットコースター』を提供しているのだけど、その動力が『人力』。
だから、最初は「観覧車っていっても10人乗りくらいの小さいものだろうなー」なんて思ってた。
だけど。
(うーん……想像と違ったなぁ)
見上げるほど巨大。
お台場の遊園地にあったような巨大な観覧車を、体術部のみんなが動かしている。
修行の一環らしい。
いやー、ファンタジー世界だなぁー。
「スミレちゃんー、そろそろ花火をお願い」
「はーい」
レオナちゃんに言われて、私は花火打ち上げの魔導具に魔力を込める。
ポン! ポン!
と上空で乾いた破裂音と、鮮やかな色の花火が上がる。
昼間なのでほとんど見えないけど。
その音につられてお客さんがやってくる。
主に子供が多い。
やっぱり遊園地は子供が好きだよね。
「お姉ちゃん、どこに並べばいいのー?」
「こっちだよ。一緒に行こうか」
私やレオナちゃんは案内係なので、やってきたお客さんの整理をする。
客足はまったく途絶えず、私たちは忙しなく働いた。
一瞬、ユージンくんっぽい人影が見えた気がしたけどすぐに人混みに紛れて見失った。
「おーい、スミレちゃん、レオナ。休憩入っていいよ」
「やっとかぁー、スミレちゃんご飯食べに行こー」
「はーい、お腹ぺこぺこ」
私とレオナちゃんは、体術部の先輩に言われて昼休憩をとった。
「スミレちゃん、あっちの屋台街にいこう」
「うん、食べ物の出店がいっぱい集まってるところだね」
学園祭の準備中にも、屋台はいくつか営業していてレオナちゃんと行ったことがあった。
今日は本番なので、全ての屋台から良い食べ物の匂いが漂っている。
私は魚と芋の揚げ物。
あとは、柑橘系の果汁水を買った。
レオナちゃんは、おっきな骨付き肉とパンを買ってきていた。
「「いただきます」」
学園祭用に学園の至る所に設置されているベンチの一つに座り、私たちは昼ごはんにした。
遠くから演奏の音楽が聞こえる。
屋台街は昼時ということもあって、人混みで溢れている。
まさにお祭りの風景だった。
(ユージンくんと回りたかったなー)
明日はシフトが空いているし。
ユージンくん誘って一緒に遊ぼう。
でも、また抜け駆けってサラちゃんに怒られるかなー? なんて考えていたら。
「あれ? ねぇ、スミレちゃん。あれってユージンさんじゃない?」
「え?」
言われて大きな
学園祭中ということもあって、探索者は少ない。
だから、すぐに気づいた。
学園祭を一人で回ると言っていたユージンくんが、なぜが一人で天頂の塔の攻略をしていた。
◇サラの視点◇
「サラ会長、開会の挨拶お疲れ様でした」
「いえ、忙しいのはこれからですから、テレシアさん」
「ええ、その通りですね。お茶を淹れました」
「ありがとうございます」
私はテレシアさんが淹れてくれたお茶をちびりと飲む。
生徒会棟の中継装置の画面には、学園祭の各所の様子が映っている。
本来は最終迷宮内の様子を映す中継装置。
それを学園長が模倣魔法で、作った魔導具……らしい。
おかげで人が見回るよりずっと早く、問題を検知できる。
私は生徒会長席で、皆の様子を眺めた。
「あそこの店は出店許可をとっていませんね」
「撤去させますか?」
「規則通り、罰金と追加申請を出させましょう。拒否するようなら撤去で」
「「「はい!」」」
生徒会執行部の実行部隊の数名が足早に出ていった。
「あの画面に人だかりができてるけど、何かあったのでしょうか?」
「黒魔法使い同好会と、赤魔法使い同好会が揉めてますね。あの二つは仲が悪いから……」
「なんで仲が悪いのに隣り合った場所に出店してるんですか」
「あの場所が天頂の塔の位置関係的に、魔法実験を行うのに最適らしいんですよ。なので毎年魔法使い同好会は、同じ場所で出店してますね」
「あー、一年の魔法使いが威嚇用の魔法を使ってますね」
「危ないなー、止めてきます」
「お願いしますー」
生徒会執行部の仲でも魔法に長けた実行部隊の人間がそちらへ向かった。
学園祭初日だというのに既に慌ただしい。
「私も何かしたほうがいいでしょうか」
ポツリと私が言うと、テレシアさんが首を横に振った
「サラ会長の出番はこれからです。明日には蒼海連邦の姫君がいらっしゃる予定があります」
「連邦の姫君?」
私は首をかしげる。
連邦は、大小多くの国々のより集まりだ。
連邦そのものは国ではない。
「現在の連邦会議の議長の御息女です。連邦最大の国家である『黄金の国』の王族と言ったほうがわかりやすいかもしれません」
「なるほど」
そう言われてピンときた。
確かにそれなら連邦の姫君と言われるのもわかる。
かなりの重要人物だ。
「しかし、珍しいですね。去年は居なかったでしょう?」
「武術大会を観戦したいそうですよ。レベッカ委員長が、各国の王族や貴族に手当たり次第に観戦チケットを売りつけていましたから」
「……そうですか」
私はため息を吐いた。
「ユージンさんは大人気ですね。噂の魔王エリーニュスを退けた剣士を見に来たという噂ですよ」
「ま、まさか……ユージン狙い?」
だ、駄目です。
ただでさえユージン狙いの女は他にもいるのに。
これ以上増えてはいけません!
「気になるならご自分で確認してください。明日の飛空船で迷宮都市に到着するそうです。それから三日後には、神聖同盟から聖女様と神聖騎士団長様が一名づつ。同日にグレンフレア帝国から宰相様と皇族のかたが一名いらっしゃると聞いています。サラ会長は挨拶をしておいたほうがいいでしょう」
「……気が重いですね」
「ですから、今日はゆっくりなさってください」
テレシアさんが気遣いがありがたい。
それにしても。
「聖女様はともかく、帝国の宰相様や皇族の出迎えは
「学園祭の主役は生徒だから、ユーサー王はでしゃばらない、という伝言をもらっています」
「実際のところは……」
「面倒ごとは、他人任せと公言しているのがユーサー王ですから」
「ですよね」
もし生徒が困っていれば、すぐに駆けつけてくれる頼りになる学園長ですが。
平常時はあまり表に出たがらない。
(あぁ、本当はユージンと一緒に学園祭を回りたかったけど……)
この調子では難しそう。
はぁ……、昨年は忙しかったので今年こそは一緒にいたかったのですが。
そういえば、スミレちゃんは体術部の手伝いと言ってましたけど、本当でしょうか。
こっそり抜け駆けをしていたりして……。
生徒会の諜報担当を一名、スミレちゃんの監視につけようかしら、なんて考えていると。
「あら、あれはユージンくんですね。サラ会長」
「え?」
それは学園祭監視用の画面ではなく、天頂の塔の様子を映した画面。
(何やってるの? ユージン)
それはなぜか天頂の塔の低層階をいまさら探索しているユージンの姿が中継装置の画面に映っていた。
◇ユージンの視点◇
校内は学園祭一色だ。
普段は空いている訓練場も、今は外部からの客用のオープン席で埋まっている。
訓練もできないので、俺は一人で学園祭を見回ることにした。
演奏部が奏でる音楽や、吟遊詩人の歌が聞こえてくる。
曲芸部の生徒たちは、人が多い通り沿いで道行く人々へ技を披露している。
武術大会の参加者ではないが、武闘派な生徒が野良の賭け試合をしているが、先生や生徒会に見つかって解散させられていたり。
どこも賑わっている。
食べ物の出店は多く、どこも盛況だ。
屋台の素材は、ほとんどが最終迷宮産。
学園祭には都市外からも多くの観光客が来ており、迷宮産の食べ物を珍しそうに買っている。
俺もどこかの店で食べ物を調達しようと思ったが、どれも行列で並ぶのが億劫だった。
(学食は……学園祭期間は確か休みだったよな)
となるとあとは街に繰り出すしかないが。
迷宮都市の飲食店も、学園祭期間は休業の店が多い。
客が学園祭に流れるためだ。
(うーん、どうするかな……)
一食くらい抜いてもいいか、と考えていると。
「おにーさん! ちょっと、こっち来てよ!」
知らない女の人に呼び止められた。
小さな机に水晶玉。
黒いフードに口元を隠し、晒しているのは目元だけ。
怪しいことこの上ない。
が、その格好には見覚えがあった。
「えっと、占い部の人?」
「そのとーり! ささっ! 座って座って」
「いや、俺は占いは興味が無……」
「あっー!!! なんてこと! 今君の未来についてとんでもないことが視えてしまったわ! これを伝えないなんて私にはできない! しかし、それを無料で伝えるわけにもいかない! 私はどうすればいいの!」
「…………」
この女。
勝手に占いやがった。
大体、占いなんてのはただの『未来予知魔法』だ。
そのほとんどが紛い物であると帝国では言われている。
精度の高い未来予知ができるなら、とっくにどこぞの大国に召し抱えられている。
それくらいの希少能力。
(……のはずなんだけど)
なんだかんだ、料金を支払ってしまった。
占いの結果は『学園祭期間中に大きな事件に巻き込まれる』という、非常にふわっとしたものだった。
……もし何も起きなかったら、文句を言いにいってやる。
そう心に決めながら、俺は人混みを避けて訓練場外れのベンチに腰掛けた。
ちらっとスミレのいる体術部の様子を見に行ったが、かなり混雑していて声をかけるのはやめておいた。
遠目に学園祭の人混みを眺める。
学園の生徒たち。
天頂の塔の探索者。
迷宮都市の住人。
外からやってきた観光客。
その中で、珍しい人物を発見した。
相手もこちらに気づいたようで、近づいてくる。
「ユージン。祭りは楽しんでいるか?」
「学園長。どうしたんですか?」
普段は学園長室か、自身の研修室か、はたまた迷宮都市の最高決定機関『円卓会議』に出るしかしてない……つまりは引きこもっているユーサー学園長が、外を歩いている。
珍しいこともあるものだ。
「実は困ったことになっているようでな」
「困ったこと?」
いつも飄々としているユーサー学園長が、眉間にしわを寄せて天頂の塔を見上げた。
「どうやら最終迷宮・天頂の塔で、近々『
さらりと。
まるで世間話をするように。
ユーサー学園長は、それを告げた。
■大切なお願い
『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。
ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!
■次の更新は、【8/13(日)】予定です
■感想返し:
>封印牢ってそーいうもんだったのか
>5からは雰囲気変わってるから、そりゃ選ばれた者しか入れんわけだ
>学園祭がやっと始まる…!
→ここから学園祭本番です。
■作者コメント
書籍化作業で、しばらく集中します
■その他
感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません
更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。
ご興味があれば、フォローしてくださいませ。
大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki