77話 ユージンは、約束する
――ロベール・クラウン
リュケイオン魔法学園における最大派閥『剣術部』の部長。
出身は神聖同盟の盟主・カルディア聖国。
つまりはサラと同じだったと記憶している。
俺も決して背が低いほうではないが、それでも見上げるほどの長身。
そして、広い肩幅。
かなりの威圧感がある。
「君に話がある。ユージン・サンタフィールド」
歳はたいして変わらないはずだが、よく通る低い声は俺よりずっと大人びて聞こえた。
「なんでしょうか? ロベール部長」
「以前、オルヴォからも声をかけたと思うが我々の部隊に入らないか?」
「剣術部の壱番隊ですか」
それは学園内においてもっと天頂の塔の探索が進んでいる部隊だ。
確かもうすぐ200階層を突破するとかなんとか……。
200階層を突破した者は『S級』探索者と呼ばれる。
現役の学生探索者でS級に到達できた者は、歴代でも多くない。
決して悪い話ではない、とは思う。
「どうかな?」
「ありがたいお話ですが、やめておきます」
「ふむ、理由を聞いても?」
「自分の力を試してみたいので。しばらくは今の三人部隊で挑戦したいと思っています」
「お前、100階層以上のA級探索を舐めているのか! たった三人で何ができる!」
隣のオルヴォくんが口を挟んできた。
「そうは言っても500階層の記録保持者は単独だろ?」
「あんなもの、真似できるか! 」
「そうか、わかった。君の意見を尊重しよう」
「部長!? いいんですか?」
思いの外あっさりと、ロベール部長は引き下がった。
「だが、一つ頼みがある。もしも、次の武術大会で剣術部員が君に勝つことができれば考え直してくれないか?」
「貴方が出場する、ということですか」
ロベール部長は昨年の武術大会優勝者。
優勝者と戦うことになっている俺の対戦相手としては、最も可能性が高い人物だ。
(これはつまりあれか……)
負けたら軍門に降れ、というわけだ。
要は言い方はソフトだが、決闘の申し出のようなものだ。
「いいですよ、受けて立ちます」
「ふっ……、楽しみにしている」
そういうと剣術部最強の男は去っていった。
ふぅ、行ったか。
正面で会話するだけで少し疲れたな。
と、背中をトントンと叩かれる。
「ねー、ユージンくん。さっきの人強そうだったよ? 勝てるの?」
「ユージン……大丈夫? ロベール先輩は次期神聖騎士団長と目されている人よ。」
スミレとサラが心配そうにこちらを見つめる。
「まぁ、あくまで勝負するのを受けただけ、だから」
決して剣術部に入部することを約束したわけじゃない。
一応、検討はするけど。
「でも、ユージンくん負けず嫌いだからなぁー」
「勝手に剣術部に入部しちゃ駄目よ」
「しないって」
負けず嫌いなのは否定しないが。
こうして、剣術部部長との試合がある可能性が高まった。
……修行しておかないとな。
◇
「よう、ユージン。聞いたぞ。武術大会で剣術部の
「なんで知ってるんだ? クロード」
天頂の塔104階層。
俺と英雄科のクロードは、そこで修行をしていた。
ドン!!!!
と巨大な拳が頭上から降ってくる。
さきほど、獰猛な
10階層のボスが、ここでは群れで出現する。
「よっ!」
「うお、危ねっ!」
俺とクロードはそれを避けつつ、
「学園新聞に号外が出てたぞ。有名人は大変だな」
「まじかよ……」
この前の食堂にはそんなに人はいなかったはずだけど。
人の口に戸は立てられない。
戦っている
俺とクロードは互いを背として、取り囲んでくる巨鬼たちの相手をする。
「そういえば、クロード」
「なんだ? ユージン」
「おまえは武術大会には出ないのか?」
「一応去年は出たが……、本国からの指示だったし。今回はどうするか迷ってるよ。一応、蒼海連邦の戦士枠でエントリーしてあるから出ようと思えば出られるけど」
「ふーん、そうか」
クロードは強い。
『勇者見習い』の才を持っており、槍術に関しては学園屈指だろう。
ただ学園内の序列にはあまり興味がないようで、いつも女遊びにせいをだしているが。
「よし! これで最後だな」
「だな」
ドシン……! と最後に残った一番大きな
「俺はそろそろ戻るよ。ユージンはどうする?」
「もう少し単独で修行を続けようかな」
「ほどほどにしとけよ」
クロードは苦笑しながら、手を振って迷宮昇降機のほうへ去っていった。
それからしばらく強い魔物がいないか、見て回ったがあいにくこの日の探索は平和に終わった。
◇
今日は生物部の仕事の日だ。
向かう先は、第二の封印牢。
別名『最終迷宮の0階層』。
俺は封印の鍵を開いて、巨大な結界の中に入った。
――ギャオオオオオオオオ!!!
――キキキキキキキキキキッ!
――グルグルルルル……
(今日は騒がしいな……)
普段よりも多くの魔物の鳴き声が響いている。
第二の封印牢は、天頂の塔を囲うように作られている。
理由は、最終迷宮から
天頂の塔の中は広いとはいえ、魔物には縄張りがある。
縄張り争いに敗れた魔物は、下の階層へと追いやられ最終的には外に飛び出してしまうものもいる。
最終迷宮の逃亡魔物。
それが街に入ってしまわぬよう、第二の封印牢は設けられている。
(逃亡魔物……、倒しておくか)
あとで生物部の先輩の誰かが来る可能性もあるが、せっかく立ち寄ったので倒しておこうと刀に手をかけた時。
「王級火魔法・
巨大な炎の鳥が俺の頭上を通り過ぎて、魔物たちに襲いかかった。
魔物たちの断末魔が響く。
逃亡魔物がまとめて焼き払われた。
「おや、そこにいるのはユージンくんかい?」
声をかけられ振り向く。
「レベッカ先輩? どうしてここに」
そこには学園祭実行委員長の姿があった。
第二の封印牢は、弱い魔物が多いため迷宮探索に自信が無い若い探索者向けた修行の場として開放している。
リュケイオン魔法学園の生徒なら出入り自由だが、レベッカ先輩のようなベテラン探索者がいるのはめずらしい。
「んー、学園祭の出し物に盛り上がりそうなものはないかなーって探していてね」
「仕事熱心ですね」
「でも、第二の封印牢は面白そうな魔物はいないね。みんな弱いのばかりだ。階層主クラスのやつがいれば、それを使って賭け試合をやれば盛り上がりそうなんだけどなー」
「それって校則違反じゃ……」
リュケイオン魔法学園では、学生が主催する賭博行為は禁止している。
「おっと口が滑った。ユージンくんの
「ちゃんと隠してくださいね」
俺はため息を吐いた。
その時、レベッカ先輩が馴れ馴れしく俺の肩に手を置く。
「ねーねー、ユージンくん」
「な、なんです?」
「君と学園長だけが入れるっていう第七の封印牢に入れてもらえない?」
「入ってどうするんですか?」
「面白い魔物がいないか見てみたいんだよね!」
「あそこにいるのは『禁忌』の神話生物ばかりですから、外には出せませんよ」
「むぅ……、じゃあ第六の封印牢『災害』は?」
「第六は部長の管轄なので、そっちへ言ってください」
「う……、生物部の部長さんは怖いからなぁ」
「話せばいい人ですけどね」
「んー……じゃあ、第五の封印牢は~……」
「第五ってアンデッド系しかいない『墓場』ですよ?」
「アンデッドは可愛くないよねー」
「そもそも魔物は可愛くないですよ」
「ちなみに第四って」
「第四の封印牢は、通称『病院』。怪我をしている
「それはちょっかいかけちゃ駄目だね。……第三は入りたくないからいいや」
「カルロ先輩が管理している『蟲籠』ですね。第三の封印牢は、見学者が全然来ないって先輩がぼやいてましたから、行けば喜ぶと思いますよ」
「知ってるよ! 同じクラスなんだから! カルロくんは「レベッカちゃんはエルフだし、森育ちだから虫は好きだろう?」とか言って、しょっちゅう彼の虫魔物コレクションを見せてくるんだよ! ボクは虫が苦手なのに!」
「あー……そうですか」
どうやらレベッカ先輩は、カルロ先輩が苦手らしい。
「仕方ないほかをあたろうかな。じゃーねー、ユージンくん。武術大会は楽しみにしているよ☆」
そうい言うや、レベッカ先輩は空間転移でどこかへ消えた。
……忙しい先輩だ。
◇
「なーんか、今日のユージン疲れてる」
「……修行し過ぎた」
俺は
ここ最近、俺はずっと天頂の塔に通い詰めだ。
おかげで階層を106まで進めることができた。
ただし、疲労が凄い。
「ほどほどにしておきなさいよ」
「……そうするよ」
呆れた顔の
身体が重い。
身体が動かなくなるほどの修行は厳禁だな。
「まったく、ちょっと寝ていきなさい」
「すまん……エリー」
魔王の様子を見に来たはずが、こっちが心配をされてしまった。
俺は言葉に甘えて、しばらくは休ませてもらった……のだが。
「ユージンが寝てて暇だなぁー」
「おい、エリー……」
「なに~?」
「重いんだけど……」
「あら、失礼ね」
寝ている俺の上に、
……く、寝れん。
その後も
そんな感じでだらだらしていたあと。
エリーがふと気づいたように声をかけてきた。
「学園祭って、
「あぁ、明日から七日間だ」
そう、ついにリュケイオン魔法学園の学園祭の開始直前となった。
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