74話 ユージンは、学園祭実行委員長と出会う
「はじめまして。ボクはレベッカ・J・ウォーカー。リュケイオン魔法学園の学園祭実行委員長だ。よろしくね、魔王を倒した英雄くん☆」
ニカっと笑う赤髪のエルフの美少女。
小柄ながらも、身体から発する魔力が尋常じゃない。
相当な使い手だ。
「はじめまして、レベッカ委員長。ユージン・サンタフィールドです」
「もちろん、知っているさ! キミは有名人だからね。で、キミを見込んでの相談があるんだ」
すすすっ、とレベッカさんがこちらに身体を寄せてくる。
大きなパチッとした瞳が、猫のようにこちらを見上げてくる。
「な、なんでしょう?」
「今度の武術大会のことなんだけど……」
やはりその件だった。
「大会の優勝者は俺と戦うことになると聞きました」
「そう! そのとーり!」
がしっ! と手を握られた。
レベッカさんの体温が高い。
というか熱い。
「俺は同意してませんけど」
「お願い!! もうチケットは完売しちゃったんだ! もしキミが出れないとなると、僕は一体どうなってしまうのか……」
ただでさえ近かったレベッカさんが、抱きついてくる勢いで身体を寄せてくる。
「ど、どうなるんです?」
「莫大な借金が返せずに身売りをさせられてしまうかもしれないんだ! そうなるとボクのような美少女は性奴隷として金持ちの相手を毎晩……」
「…………え?」
本気で言ってるのかこの人。
というか学園祭の実行委員長そこまでやるの?
俺が戸惑っていると、レベッカ委員長はするりと背中に腕を回してくる。
「どうせ相手をするなら、ボクはキミみたいな精悍な男の子がいいなぁー☆ どうだい? もしも武術大会に出てくれるなら、ボクの身体を好きにして良……」
むちゃくちゃなことを言い出した彼女の言葉を聞いて。
「は、離れてー」
「レベッカ先輩。私たちのユージンに近づき過ぎです」
スミレとサラが、間に割り込んできた。
「おや、ユージンくんの恋人ちゃんたちかい。君たちの前で色仕掛けは野暮かー」
「悪い冗談ですよ」
俺が言うと、レベッカさんは俺の手を握ったまま流し目を送ってきた。
「さっきの件は冗談じゃないんだけどね?」
「ダメです、レベッカ先輩」
「ユージンくん、聞いちゃダメだよ!」
サラとスミレから止められるが、言われるまでもなくレベッカ先輩に手を出そうとは思わない。
「そもそも、一般枠で飛び入り参加でもいいんですけど」
俺は自分の考えを口にした。
武術大会自体は興味があったし。
「うーん、でもねー。やっぱりユージンくんは、優勝者と戦ってほしいんだよねー! なんといっても千年前に南の大陸を支配した魔王エリーニュスを退けた英雄なんだから!」
ビシっと俺を指差すレベッカさん。
「客寄せですか」
見世物扱いされるってのは……気が進まない。
それが表情に出たのだろう。
「武術大会の決勝戦と特別試合は、リュケイオン学園祭の最終日なんだ! そこにはグランフレア帝国やカルディア聖国の要人も大勢やってくる! そこでチンケな試合をするわけにはいかないんだよ! 頼む! 何でも言うことを聞くから!」
最後は深々と頭を下げられた。
何でも……か。
「ユージンくん?」
「ユージン?」
スミレとサラが、俺の背中をつつく。
いや、別にエッチなことを要求したりはしません。
代わりに聞いたのは、別のことだった。
レベッカ先輩は、学園でも有名なA級探索者だ。
これから101階層を挑戦する俺にとって、聞きたいことは沢山ある。
「レベッカ先輩って天頂の塔の記録は、何階層ですか?」
「ボクかい? ボクは150階層の階層主が倒せずに記録が止まってるしがないA級探索者だよ。学園に来た頃は『母さん』の記録を抜いてやると意気込んでいたんだけど……、うまくはいかないね」
レベッカ先輩が寂しそうな表情になった。
それは有名な話だった。
天頂の塔の記録保持者・第九位――ロザリー・J・ウォーカー。記録:300階層。
別名『紅蓮の魔女』とも呼ばれる、リュケイオン魔法学園の大先輩だ。
そしてレベッカ先輩の母親であるということは、どこかで耳にしたことがある。
偉大な親の名前に苦労している……、そんな印象を受けて俺は他人事と思えなくなった。
「レベッカ先輩。俺たちは今度101階層から挑戦します。天頂の塔のことを教えてくれるなら、武術大会に出ますよ」
「そんなことでいいのかい?」
意外だったのかレベッカ先輩が目を丸くする。
「あーあ、引き受けちゃった」
「ユージンてば、女に甘いんだから」
「悪い話じゃないだろ?」
今回の武術大会の参加は、俺一人の話だ。
それで150階層の手前まで到達した先輩の話を聞けるなら悪いことじゃない。
「ありがとう、ユージンくん! 愛してるよ!!」
レベッカ先輩が今度は思っきり抱きついてきた。
「だから、ダメー!」
「先輩、ダメです!」
スミレとサラにすぐ引き剥がされたが。
こうして、俺の学園祭で参加する
◇
「結局、武術大会に出ることになったの? お人好しねー、ユージンってば」
ここは封印の第七牢。
エリーを含む、やばめの神話生物たちが封印されている禁忌の場所。
「いいんだよ。もともと武術大会は出たかったし」
ここに来たのはしばらく帝国に行ってぶりだったので、時間をかけて見回った。
特にエリーの部屋は散らかっていたので、現在掃除中だ。
「ねーねー、久しぶりなんだからもっと構いなさいよ」
「服を引っ張るな。だったらワインの空きビンくらい並べておいてくれ」
「やーよー、面倒くさい。ユージンがいなくて暇だったのー! ほらー、こっちこいー」
「うわっ」
片付けている途中で、エリーに引っ張られ俺はベッドに押し倒された。
真上から恐ろしく整った顔がこちらを見下ろす。
キラキラと光る銀髪が俺の頬にかかった。
真っ赤な唇を、妖艶に舌が舐める。
何度見ても見慣れない美貌。
ただし今日の魔王の表情は、やや不機嫌そうだ。
「だいたいあの小娘たちを相手して、私の相手が後回しとかあり得ないよ。わかってるの、ユージン」
「小娘って……」
そりゃエリーに比べたら誰だってそうだろう。
「それにね。私はユージンと契約しているから、ユージンが他の女とやってるのが
そう言いながら、エリーの長い指が俺の首元を這う。
「……ん?」
エリーの言葉に、嫌な予感がした。
俺は魔王と契約をしている。
そして、
「なぁ、エリー」
「なによ?」
「躰の契約って……その、……」
「ユージンがもし他の女と浮気をしたら、全部契約相手にはそれが伝わるけど? 知らなかった」
「し、知らなかった」
「ふふん、じゃあ、小娘たちに私たちが愛し合うのをはっきり知らせてあげないとね♡」
「な、なぁ……それって伝わらないようには」
「できないわよ。だってそれが『躰の契約』ですもの」
「お、恐ろしい契約だ」
複数人契約はオススメしないと、どこかの魔導書に書いてあった。
そういう理由だったのか……。
「ちょっとぉ、他の女のことを考えずに私を見なさい」
魔王の目がいつもより赤い。
(これは……大変なやつだ)
過去にも何度かあった。
――その夜は、朝まで寝かしてもらえなかった。
「……そろそろ行くか」
ほんの少し仮眠をとったあと、俺はベッドから立ち上がった。
午前の授業は自習で助かった。
後ろから寝息が聞こえる。
きっとエリーは寝ているのだと思っていたら。
「いってらっしゃい、ユージン。今日は迷宮探索を再開するんでしょ?」
起きていたらしい。
「ああ、まずは様子見だな。武器を新調したばかりだから、本格的な探索は後日にするつもりだよ」
「101階層、気をつけなさいよ。油断しているとすぐ死ぬわよ」
「……わかった」
魔王の口調は真剣そのものだった。
「今の
「そうなのか?」
「ここ最近、記録を更新してくれる探索者がいなくて苛ついてるって話よ」
「そんなこと言われてもな」
俺はエリーに別れを告げ、第七の封印牢を出た。
すでに太陽は高く上っている。
寮に帰って着替えたあと、午後の授業は睡魔との戦いだった。
幸い身体を動かす授業ばかりだったので、眠らずに済んだ。
その後、少し寝てから俺は待ち合わせの場所へと向かった。
天頂の塔・一階層。
ここでスミレとサラと、待ち合わせをしている。
俺は約束の時間より少し早く到着したが、すでに二人が待っていた。
「「…………」」
スミレは後ろに手を組んで、こちらをじぃっと何も言わずに見つめてくる。
サラは腕組みをして、冷たい目でこちらを見ている。
「は、はやいな。二人とも」
「「…………」」
俺の言葉に帰ってきたのは、より冷たい視線だけだった。
すすす、とスミレとサラが俺の両脇に近づき、腕を「がしっ!」と掴まれた。
「す、スミレ? サラ?」
どうしたんだ? とは聞けなかった。
聞く必要もなかった。
「ユージンくん」
「ユージン」
スミレとサラが口を揃えて言った。
「「ゆうべはおたのしみでしたね」」
その後、正座で小一時間の説教をされた。
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■次の更新は、【7/9(日)】予定です
■感想返し:
レベッカさんの母さんについてのコメントばっかりでした。
■作者コメント
ツイッターが落ちてます?
宣伝できない……。
今日は寝ます。
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