<< 前へ  次へ >>  更新
73/73

73話 ユージンは、知らされる

「学園の武術大会で優勝した者は……『魔王討伐』の勇者『ユージン・サンタフィールドへの()()()()()()ことができる』ってルールになっていたの!」


 サラの言葉に、戸惑いつつ尋ねた。


「なんでそんなことに?」

「うちの学園祭実行委員長が勝手に決めたのよ! あの人は本当に、もう!」

 サラがぷりぷり怒っている。


「学園祭実行委員長って、確か英雄科の上級生だったよな?」

 俺は去年のことを思い出した。


 有名な人だ。

 名前だけは知っている。

 なにやら騒がしい人だった気がする。


「そうよ! お祭り好きで、何でも大げさにしていくの! もう予算だって無いっていうのに」

「それは……大丈夫なのか?」

 お金がないのは致命的だろう。


「だからよ! 武術大会に急遽『超貴賓席』を用意して、特別試合を組んでそのチケットを一枚『100万G』で売り捌いたの! 生徒会に届け出無しで! その客寄せにユージンの名前を使ってたの」

「な、なるほど……」

 自分で言うのもなんだが、俺の今の知名度は高い。

 うまく使われてしまったらしい。


「というわけで、今から学園祭実行本部に乗り込むからユージンも来て」

「わかったよ」

 天頂の塔(バベル)から戻って少し疲れていたが、サラの勢いに拒否はできなかった。


 学園祭実行本部は、訓練場の脇に巨大な天幕がありその中にある。

 俺とサラはそちらへ向かう途中、天使(リータ)さんから預かった『恩恵の神器(ギフト)』を渡した。


「えっ!? 天獅子のマント! やったぁ!」

 サラが目を輝かせている。

 かつて世界を救った伝説の聖女アンナ様と同じ装備。

 感銘を受けたようだ。


「ねぇ、ユージン似合う?」

 さっそくマントを羽織ったサラがくるりと回る。


「似合ってるよ」

 実際、長い髪のサラと良く似合っていた。


「ほんと!? うれしい!」

「お、おい。サラ」

 抱きつかれた。


 こちらをじろじろ見つめる視線を感じたが、サラは気にする様子はない。

 しばらく『恩恵の神器(ギフト)』に見惚れていたようだが、本題を思い出して俺たちは移動を再開した。


「~♪」

 サラの足取りが軽い。

 途中、俺はサラに自分のもらった『白剣』の話をした。


「へぇ、じゃあこれからはユージン一人でも探索ができるのね」

「ああ、助かるよ」

「ふーん」

「サラ?」  

「何でもないわ、行きましょう」

 意味ありげな視線を向けられたが、特に何も言わずサラは先へ進む。


 そうこうするうちに学園祭実行本部の天幕にたどり着いた。


 大きな看板が立てられており――『リュケイオン魔法学園・学園祭実行委員本部』と書かれている。


 巨大な天幕の入り口は、多くの人が出入りしている。


「行くわよ、ユージン」

「ああ」

 俺とサラは天幕の入り口をくぐると、中に入った。

 多くの生徒が忙しなく働いている。

 が、すぐにサラを見て反応があった。


「サラ会長?」

「どうされましたか?」

「わざわざ本部に来るなんて」

 サラを見ると何人かが、こちらにやってきた。


「レベッカ委員長はいる?」

「「「…………」」」

 そこにいた数人が顔を見合わせた。


「それが昨日から本部に顔を見せていなくて」

「なんでも足りなくなった予算を補填するんだー! って言ってました」

「どうして……責任者が本部にいないのよ……」


「我々も相談したいことがあるんですが、あの方は自由なかたなので……」

「はぁ……」

 実行委員も困っているようで、全員渋い顔をしている。

 彼らは俺に対しては何も反応をしていなかったのだが。


「あれ? 君はもしかしてユージンくん?」

 実行員の一人が俺に気づいたように声をかけた。


「はい、そうです」

「いやー! ありがとう! 武術大会の特別試合にでることを()()()()()()()! 助かったよー!」

「え?」

「え?」

 その言葉に俺が驚いた顔をすると、相手もきょとんとした顔になった。


「ま、まさか……了承してない?」

「さっき知ったばかりです」

「そ、そんな……。委員長からは本人に許可を取ったって言って聞いたんですけど」

「その件を詳しく聞こうと、こちらにやってきたんですよ」

「うわっ、委員長また独断で進めたのかー」

 実行委員の人が頭を抱えた。


「あのね……、ユージンと私は今日の朝に帝国から戻ってきたんですよ? 許可が取れているわけがないでしょう」

 サラが大きくため息を吐いた。


「サラ、今はいないみたいだけどどうする? ここで待つか?」

「いえ、昨日から戻ってないなら待ってても無駄かもしれないわ。探しに行きましょう」

「わかった」

 俺とサラは天幕を出る。


 が、リュケイオン魔法学園は広い。

 ちょっとした村よりも広い。

 闇雲に探しても見つからない。


「どこから当たる?」

「仕方ないわ。生徒会メンバーにも協力を求めて……」

 サラがそう言いかけた時。




 ゴオオオオオオオオオオオオオ! と轟音が響き、巨大な火柱が上がった。




「「!?」」

 俺とサラは顔を見合わせる。


(あれは……上級火魔法・炎の嵐(ファイアストーム)?)

 その魔法自体は珍しくない。

 上級魔法が使えるものなど、リュケイオン魔法学園にはザラにいる。


 問題は威力だ。

 天を焦がすほどの業火。

 火柱の頂が見えない。


 普通はこのような魔法の使い方はしない。

 同じ威力を出すなら、超級や王級の魔法を使ったほうが効率がいいから。


 にもかかわらず、上級魔法で王級並の大魔法を発動している。

 つまりこの魔法の使い手は()()()()()()を保持しているわけで。



「今の火魔法って……」

「スミレっぽいな」

 なんとなく火魔法のクセに見覚えたあった。


「もー! スミレちゃんってば、訓練場じゃない場所であんな大魔法使ってー!」

「見に行こう。もしかしたら魔法が暴走したのかも」

「……そうね、スミレちゃんが心配だわ」

 サラの表情が真剣になる。


 もっとも俺が心配だったのは、スミレ自身より周りにいる人たちだった。

 炎の神人族であるスミレの魔法は、全てを焼き尽くす。


(確かレオナと一緒に体術部の出し物を見に行くはずだったよな)

 体術部の面々はスミレの魔法の威力を知っているので、大丈夫だと思うが。

 ついつい早足になった。


 俺たちがにたどり着く頃には、だいぶ火柱は小さくなっていた。

 それでもいまだ燃え続けている。

 凄まじい威力の炎の嵐(ファイアストーム)


 なにやら人だかりができており、会話も聞こえる。



「す、スミレちゃん! 凄いよ、この威力なら客の目を引くこと間違いなしだ!」

「えへへー、そうですか?」

「あのー、副部長? お言葉ですけど、あまり攻撃的な魔法を出しもので使うことは学園祭規則では禁じられてますよ?」


「何を言ううんだい、レオナくん! スミレちゃんは異世界からやってきた『英雄科』の生徒だろう? 少々のルール違反は多めにみてもらえるはずだ!」

「いえ、私『普通科』です……」


「な、なに! それであの魔法の威力だと! 素晴らしい!」

「いや、だから副部長。英雄科の特権は使えませんからね?」

「なあに、レオナくん。心配は要らないよ。こういう時はユーサー学園長に直談判だ! あの御方なら多少の無茶は面白がって目をつむってくれるさ」


「学園長の出し物は、実行委員と生徒会の承認が必要ですよ。サラ会長は厳しいですよ?」

「はははっ! だから生徒会への申請は最後にする! なんなら無許可で実行して後で謝ればいい!」

「絶対すぐバレますって。あの魔法の威力ですよ?」


「生徒会が怖くて、体術部の副部長が務まるか!」

「知りませんからね」

 そんな会話が聞こえてきた。


「…………へぇ」

 隣のサラが薄く笑っている。

 カルディア聖国のお国柄か、サラを含めかの国の人たちは規則にとても厳格だ。

 さっきの会話は駄目だろう。


「あっ、サラちゃんだ」

「「「!?」」」

 スミレがサラを発見した。


「さ、サラ生徒会長!?」

 先程悪巧み(?)をしていた体術部の副部長らしき人が青くなる。


「あーあ、私は止めましたよ」

 レオナは肩をすくめて副部長から一歩距離を取った。


「ち、違うんです! サラ会長。これからイベントにおける魔法許可届けを生徒会に出そうと書類を作成中でして……」

「あら、そうですか?」

 サラがにっこりと笑う。

 笑顔なのに有無を言わさぬ迫力があった。


「申し訳ありませんでした!!!」

 すぐに副部長さんが、地面に平伏した。

 うん、その対応がきっと正しい。


「ねぇ、サラちゃん。学園祭で魔法使っちゃ駄目なの? 体術部の人たちの出し物が地味だーって、剣術部のイジワルな人に煽られたから何か目立つことがしたいんだって。私の魔法ならぴったりかなって思って」

 スミレが無垢な瞳で尋ねる。


「あのね、スミレちゃん。もちろん安全に運用するなら認めるわ。……ところで火魔法の制御は問題ないのよね?」

「え? あー、うん。()()完璧だよ!」

「ほぼじゃ駄目!」

「えぇ~、ちょっとくれいいいじゃん」

「駄目!」

「ケチだなぁ」

「なんですって!」

 いつものやりとりが始まったところで、俺は二人の間に割り込んだ。


「スミレ、これを持ってみてくれ」

「ユージンくん……これは杖?」

 俺は天使さんから預かったもう一つの『恩恵の神器(ギフト)』を渡した。


 スミレが手に取ると、炎の神人族の魔力に反応するように赤く輝いた。


「どうだ? スミレ。天使さんが扱いやすいように調整してくれたらしいけど」

「んー? ちょっと、試し撃ちしてみよっかなー。えい☆」

 ひょい、っとスミレが軽く杖を振るう。


 ……ゾワ、っとした。


 スミレは何気なく杖を振るっただけだ。

 なのに戦術魔法を向けられたような錯覚を覚えた。


 炎の神人族(スミレ)の魔法が発動する。




 ――キャ、キャッ☆

 ――ワーイ☆

 ――フフフ



 そこには炎で形成された、子天使(エンジェル)が現れた。


「魔法生物の発現……?」

「て、天使を形どるってことは……聖級魔法……?」

「それを無詠唱で発動した……?」


 副部長さんとレオナがあっけにとられている。

 いや、それは俺とサラも同じだった。


 スミレだけが「わー、可愛いー☆」と炎の天使とじゃれている。

 本人だけ、とんでもないことをしていることに気づいてない。


「どーするサラ?」

「……スミレちゃんが魔法を使う時は、必ず見張っていること!」

「りょーかい」

 保護者である俺の役目だろう。


 スミレがもらった新しい杖は、彼女に合っているようだ。

 が、より強力な魔法が容易に発動するようになった。

 取り扱いには十分注意しないと


 その時だった。


 ――シュイン、と空中に魔法陣が現れる。


 その中から何者かが、姿を現した。


空間転移(テレポート)?)

 使い手の少ない希少魔法だ。


「おや、さっきの凄い魔法は誰が撃ったのかな?」


 現れたのは癖のある真っ赤な髪のエルフの小柄な女子生徒だった。


 一見幼く見えるが、長寿のエルフは見た目と年齢が一致しない。


「わ、私ですけど」

 スミレがおずおずと手をあげる。


「おおー! 君のことは知っているよ、指扇スミレくん。異世界からやってきたんだってね。是非話してみたかったんだ。これから時間はあるかい? 本部でお茶とお菓子を用意させるから是非一緒に……」


「探しましたよ、先輩」

 スミレに早口でまくしたてるエルフの女子生徒に、サラが口を出した。


「おっ! こっちはサラくんと噂の彼氏くんかな? そうそう! 君たちにも話があったんだ! これは丁度いい!」

 

 ニカっと笑う大きな瞳が挑発的だった。


 彼女の名前は――


「はじめまして。ボクはレベッカ・J・ウォーカー。リュケイオン魔法学園の学園祭実行委員長だ。よろしくね、魔王を倒した英雄くん☆」


 ずいっと顔を近づけてくる彼女こそが、俺たちが探していた相手だった。


■大切なお願い

『面白かった!』『続きが読みたい!』と思った読者様。

 ページ下の「ポイントを入れて作者を応援~」から、評価『★★★★★』をお願いします!



■次の更新は、【7/2(日)】

6/25は『信者ゼロ』の更新です



■感想返し:

>リータさん可愛いし、面白い!話し方とか結構好き

→リータさんいいですよね。


>続刊決定おめでとうございます!

→ありがとうございます



■作者コメント

※前作ネタなので興味ないかたはスルーしてください。


質問くる前に回答します。

レベッカさんは、ロザリーさんの娘でルーシーの姉です。



■その他

 感想は全て読んでおりますが、返信する時間が無く申し訳ありません


 更新状況やら、たまにネタバレをTwitterでつぶやいてます。

 ご興味があれば、フォローしてくださいませ。


 大崎のアカウント: https://twitter.com/Isle_Osaki

<< 前へ目次  次へ >>  更新