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69話 ユージンと幼馴染

本日は『攻撃力ゼロから始める剣聖譚 1』の発売日です!

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挿絵(By みてみん)

「ねぇ……私にはやっぱりユウが必要なの。お願いだから帝国に戻って私を支えて……」


 昔から知っている幼馴染からは考えられないくらい、しおらしい態度でアイリが訴えた。

 蒼玉(サファイア)のような深い青色の瞳がまっすぐ俺を貫く。


「アイリ……」

「ユウ……」

 気がつくと俺たちは、間近な距離で見つめ合っていた。


 こんなに近くに幼馴染(アイリ)がいるのは、二年前のあの時以来だ。


 再会してからも、ずっと俺とアイリの間には壁があった。

 多分、壁を作っていたのは俺で。


 アイリも必要以上に近づいてこなかった。

 けど、その壁が今日崩れた気がする。


(けど、俺はまだ帝国に戻ることはできない)

 相棒であるスミレとの約束。

 そして、サラとの関係。


 今の俺の居場所は、リュケイオン魔法学園だ。

 なんというべきか……。


 迷っているうちにアイリの手がゆっくりと俺の頬に伸びて、細長い白い指が触れる寸前。




「お取り込み中のところ失礼いたしますね☆ 伝説の大魔獣を討伐したユージン・サンタフィールド様」




 歌うような高い美しい声で話しかけてきたのは、純白の修道服に身を包んだ運命の巫女(オリアンヌ)様だった。


「……何でしょうか? オリアンヌ様」

 幼馴染(アイリ)の表情が一気に不機嫌になる。


(現在のアイリは皇位継承権第一位。つまりは次期皇帝の不興を買ってまで割り込んできた?)


 なにか狙いがあるに違いない。

 と、俺が巫女様に視線を向けると。


(げ)


 オリアンヌ様の後ろに、サラとスミレの姿が見えた。

 きっと説教をされるな、と思って覚悟をしたのだがどうも様子がおかしい。


 サラの表情が虚ろだ。

 心ここにあらずという感じ。


 スミレはサラを心配そうにしつつ、俺にじぃーという湿度の高い視線を送ってくる。

 大丈夫だよ、スミレ。

 約束を破ったりはしない。


「どういったご要件でしょうか? オリアンヌ様」

 聖女様に名前を呼ばれたのは俺だ。

 無視するわけにはいかない。


「ふふふ、サラに関することでお話が。実は昨日に決定をしていたのですが大魔獣との決戦に備えてお伝えしていないことがありまして。こっちへいらっしゃい、サラ」

「は、はい!」

 運命の巫女様の後ろにいたサラが、前に一歩出る。


 意味ありげな視線を向ける運命の巫女様。

 一方、サラは俺を不安そうな目で見つめる。


(……何だ?)

 その疑問は、オリアンヌ様の言葉ですぐに判明した。



「実はですね……。聖女候補であったサラがこの度、『()()()()』へと決定いたしました。それにともないサラ・イグレシア・ローディスから『サラ・イリア・カルディア』と名が変わります。ユージンさんは()()()()()()として、末永くよろしくお願いしますね☆」


「…………え?」

「なっ!?」

 俺とアイリが絶句する。


「サラ?」

「し、知らなかったの! 私もさっき知らされたばかりで……」

 だからさっきから態度がおかしかったのか。


「夫とはどういうことです?」

 俺は尋ねた。

 確かにサラと俺は恋人同士ではあるが……、婚約をしたわけではない。

  

「やってくれましたね、オリアンヌ様」

 会話に割り込んできたのは、エカテリーナ宰相閣下だった。

 

「宰相閣下?」

 俺が尋ねると、運命の巫女様が答えた。


「聖国カルディアでは現在ある噂が広がっています。曰く『次期聖女へと決まったサラとその恋人である帝国の若い剣士ユージンが大魔獣ハーゲンティを討伐した』という噂です」


「オリアンヌ様、白々しいことをおっしゃらないでください。噂の出処が『女神教会』であることは帝国の諜報部から聞いております」

 エカテリーナ宰相閣下がぴしゃりと言う。

 オリアンヌ様はニコニコするだけで、否定も肯定もしない。


「ユージンくん、サラちゃんと結婚するの?」

「いや、スミレ。俺も今聞いたばかりで混乱してて……」

 スミレの言葉に、俺は焦った。


「ふふふ……、問題ありませんよ、スミレさん。サラが『次期聖女』になったとはいえ、現役の『八人の聖女』は皆様壮健ですからね。サラが聖女へと成るのは十年以上先でしょう。その間にゆっくり『天頂の塔』を攻略してくださいね☆」

「は、はぁ……」

 スミレが戸惑ったようにうなずく。

 いや、そういう話じゃなく。


「ユージンくんは、帝国の英雄です。勝手に進退を決められては困りますね」

 俺が言うより先に言いたいことを宰相閣下が言ってくれた。

 が、オリアンヌ様の笑顔は一切崩れない。


「ええもちろんです。帝国の英雄の妻ともなれば、やはり聖国カルディアの最高指導者の立場を与えねばなりませんからね。きっと英雄と聖女の夫婦は、グレンフレア帝国と『神聖同盟』の盟主カルディアの良き架け橋となるでしょう☆」


「「「「…………」」」」

 一片の曇りもない笑顔で、俺とサラは政治の道具だと言い切った。

 ここまで人扱いされてないと、むしろ清々しい。

 


 ――聖国カルディアの聖女は腹黒い 



 噂は噂以上だった。

 運命の巫女様、怖い。

 とは、いえ言われっぱなしは癪だ。


「それは……」

「そんなことは認められません!」

 俺の言葉が、幼馴染のセリフに遮られた。


「あらあら、アイリ皇太子殿下。我が国の次期聖女と帝国の英雄の仲を祝福してはくださらないのですか?」

「そ、そんな勝手に決めたらユウが困ってるでしょう! ねぇ、ユウ!! そうでしょう!?」

 アイリが言うと、運命の巫女様はにやりとした。


「では、ユージン様のお気持ちが大事と?」

「そ、そうよ! ねぇ、ユウ! 結婚なんてまだ早いでしょう!?」

 運命の巫女様と幼馴染の視線が、こっちに集まる。

 いや、サラとスミレ、宰相閣下もだ。


「俺は……」

 口を開き言葉を発しようとした時。


「でも、それは言うまでもありませんね☆」

 またしても運命の巫女様が割り込んできた。

 おい、そろそろ話させてくれ。


「あのですね、オリアンヌ様……」

 俺が苦言を呈しようとした時。




「だって、つい先日うちのサラとそちらのスミレさんと共にあんなに『熱い夜』を過ごされたじゃないですか☆」




「「「「「!?」」」」」

 運命の巫女様の爆弾発言に、その場が凍りつく。


「オリアンヌ様!?」

「聖女様!!」

 サラとスミレが真っ赤な顔になる。 


「ユージンくん……、次期聖女に手を出したのですか……」

 宰相閣下が大きくため息を吐いた。

 当時は次期聖女ではなかったが……、そういう問題ではないか。


 その時、背中がぞわりとした。

 

(さ、殺気!?)

 その主が誰なのか、考えるまでもない。



「ユウ……、そうなんだー……へぇー……」



「あ、アイリ……」

 幼馴染の目に光がない。

 表情が消えている。

 

 すっ、とアイリが一歩俺に近づく。

 


「バカー!!!!!!!!!!!!」


 次の瞬間、俺の側頭に光のような蹴りが飛んできた。

 反射的に防御をしても、その上からふっ飛ばされた。


 弐天円鳴流の蹴り技を久しぶりにくらった。

 数回地面を転がりながら、受け身をとった時には「たたたっ!」とアイリが駆け去っていった。


 周りの人々が、なんだなんだとざわついている。


「あ、アイリ……」

 結局、幼馴染からの質問に返事ができなかった。

 

「仕方ないですねー……」

 宰相閣下がアイリの去った方向へ向かった。 



「ユージン……」

 ふらふらとサラがこっちにやってこようとして。


「サラはこれからお話がありますよー。あとスミレさんもできればご一緒に☆」

 運命の巫女様がサラとスミレの手を掴む。


「ユージン~」

「ユージンくんー」

 二人は引っ張られて行ってしまった。

 なぜ、スミレまで……?


 俺はそれを見送ることしかできなかった。

 しばらくその場に呆然としていたら。


「よう、ユージン。さっきアイリちゃんが泣きながら走っていったぞ? 何したんだ?」

「お、親父!?」

 いきなり後ろに親父が現れた。

 いつのまに。


「重傷って聞いたけど」

「もう治った」

 見たところ大した怪我をしている様子はなかった。

 まぁ、元気そうならなにより。



「おい、ユージンサンタフィールド!」

 反対側から肩を叩かれた。

 そこにいたのは、金髪碧眼の美男子――ベルトルド将軍だった。


(姉さんが泣いてたぞ、何をしたんだ?)

 こそっと尋ねられる。


(いや……いろいろと事情が)

(私が八つ当たりでひどい目にあうんだが)

(それは……すまない) 

 横暴な姉のいる弟の悲哀をみた。


 その後も、色々な人に絡まれ。

 

 その間、アイリは姿を現さなかった。




 ◇




「はぁ……」

 俺は人混みを抜け出し、パーティー会場の端っこにある椅子に腰かけた。


 そういえば、パーティーで何も食べていないことを思い出した俺はそのへんの小皿をいくつか持ってきた。

 

 簡易なつまみを、口に運ぶ。

 しょっぱい味に、何か飲みたくなった。


 大きなテーブルの上には、注がれた葡萄酒(ワイン)やカクテルが並んでいる。

 どれにするか迷っていると。



「あの~、ユージンくん……?」



 声をかけられた。

 若い女の声。


 いかにも恐る恐るといった声色。


「…………」

 一瞬、誰の声かわからなかった。


 だけど聞き覚えがあった。

 俺はそれを思い出すより前に、なんとなく振り向いて……固まった。


 二年前、忘れもしない帝国軍士官学校の『選別試験』。

 その時、俺は欠陥『白』魔力のみの結果が出たことで俺は幼馴染に見捨てられた……と思い込んでいた。


  

「ひ、久しぶりー、お元気そうで……」


「……ああ、ひさしぶりだな」

 目の前でとても気まずそうにしているのは、士官学校時代の知り合い。



 俺が学校を辞める原因となった発言をした幼馴染(アイリ)の友人だった。


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 いつもは日曜日ですが、一日余裕を持って。




■感想返し:

 ベルくんの感想が多かったです。

 もう少し隠し子の伏線を入れても良かったかなとも思った。



■作者コメント

皇女アイリのラフです。

なんかお姫様オーラ出てますね。

3章ですっかりイメージ変わりましたが。

挿絵(By みてみん)


本日発売の『信者ゼロの女神サマ 11』の表紙です。

千年前のエリーが登場する巻です。

挿絵(By みてみん)


同じく本日発売の漫画版『信者ゼロの女神サマ 6』の表紙。

表紙はソフィア王女&マコト

挿絵(By みてみん)


■その他

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