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22 鍵

 ──俺は先ほどの出来事を思い出す。


『ようやくここにたどり着いたか、クロム・ウォーカー』


 俺は『黒の位相』の最深部で【奈落】に出会った。

 ラクシャサの案内のおかげで、一直線にたどり着くことができた。


『汝が来るのを待っていた』


 と、【奈落】。


『汝こそ純粋な【闇】そのものを受け取り、行使する資格を持つ者』


 俺の前に黒い球体が出現する。


『我は【闇】を統べし者。汝にこれを授けよう──いかようにも、汝の思うがままに使うがよい』


 それは鍵の形に変化し、さらに豆粒ほどのサイズに縮むと、俺の胸元に吸いこまれた。

 拍子抜けするほどあっさりと、俺は真の【闇】を得たのだ。


 こんなに簡単でいいのか、と警戒心が湧いてしまう。


『汝がより【闇】を深めることは、我の目的に合致する』

「目的……?」

『我の目的は【闇】を広めることだ。この世界を暗黒に塗りつぶすこと。そのためにのみ存在する』

「世界を、暗黒に──」

『逆に【涅槃】は世界を【光】で満たすことを目的としている。我と【涅槃】は──【闇】と【光】は互いの色で世界を染め上げるために戦っているのだ。互いの端末を放ち、それに適合する人間どもを操り、悠久の古来より今に至るまで……な』




「クロム……!」


 マルゴがうろたえたように後ずさる。


「ようやく、お前と決着をつけられるな」


 俺は奴をまっすぐに見据えた。


『黒の位相』で【奈落】と会い、【闇】についての理解を深めることができた。

 今まで以上の力を振るうための『鍵』を受け取ることができた。


 相手が【混沌】の術を使おうとも、もはや恐れる必要もなければ、警戒する必要すらない。


「さあ……終わりの(とき)だ、マルゴ」


 俺は一歩一歩、英雄騎士に近づく。


「そして、復讐の刻だ。祈りたければ祈れ」

「終わりだと? 笑わせるな!」


 マルゴが剣を振るった。


 ご自慢の魔法武具『七十七式疾風雷王剣』か。

 刀身から猛烈な風が吹き出す。


 いくつもの竜巻が生まれ、こちらに向かってくる。

 同時に俺の体から黒い鱗粉状の輝きが吹き出し、竜巻を迎撃した。


【固定ダメージ】は射程内に入った敵も、そして俺に対する攻撃にも、等しく9999ダメージを与える。

 と、


「スキル【六花の盾】」


 マルゴが告げた。

 奴の体から、青い花びらのような形をした輝きが湧きだした。


 その輝きが風にまとわりつき、俺の黒い鱗粉をはじく。


 マイカが使っていたのと同種の【混沌】のスキルだろうか。

【固定ダメージ】をある程度軽減し、俺の下まで攻撃を届かせる気だろう。

 だが──。


「出ろ、ラクシャサ」


 俺の言葉とともに、足下の影から黒衣の美女が現れる。


「『鍵』を使うぞ」

『承知いたしました、宿主様』


 ラクシャサは恭しく俺に一礼した。




『【奈落の鍵】を使用します』

『「第一段階起動」』

『「第二段階起動」』

『「第三段階起動」』

『「最終段階起動」』

『「黒の位相(クリフォト)」との接続を開始……終了』

『「開門」』

『術者の絶望値及び憎悪値が第三規定に到達しました』

『儀式の進捗率が100%に到達しました』

『術者の【闇】の出力が無限大に到達しました』

『【闇】の具現化を鱗粉形態から燐光及び雷光形態へと移行しました』

『【闇】に対する高位干渉拘束波動を無効化しました』




 俺の全身から湧き立つ黒い鱗粉──『固定ダメージ』の視覚効果(エフェクト)が、黒い輝きとスパークに変わった。


 同時に、マルゴの生み出した青い花弁が一瞬で消滅する。


「な、なんだと……!?」


 うろたえるマルゴ。


「動くな」


 俺は右手の鎖を放った。

 黒い鎖は一直線に伸びていき、マルゴの風をあっさりと貫き──、


「ぐうっ!?」


 四本に分かれて奴の両手両足を拘束した。


「お、おのれ……っ!」


 黒い鎖も俺の【闇】の高まりに応じ、以前よりもずっと頑強になっている。

 もはや【混沌】の術を操るマルゴですら解きほどけないほどに──。


「これで逃げられないな」


 俺はニヤリと笑い、マルゴに向かって歩みを進めた。


「さあ、復讐を始めよう」

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書籍版2巻がいよいよ本日3月30日に発売されます! 3巻以降につなげていくためにも、ぜひよろしくお願いします~!

2巻の書影です↓

挿絵(By みてみん)



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