21 少女たちの戦い3
「スキル『
マルゴが剣を掲げて告げた。
ごうっ!
渦巻く風が彼の両足にまとわりつく。
マルゴは地を蹴り、すさまじいスピードで駆け出した。
まるでシアの【加速】のようだ。
「は、速い──」
「君のスピードは確かに素晴らしい。だが、私も同種のスキルを使うことができる」
疾走しながら告げるマルゴ。
「スキルの効力に大差がないなら、あとは術者自身のスピード勝負。私が負ける道理はない」
マルゴの剣が振り下ろされる。
「っ……!」
かろうじて、避けることができた。
が、衝撃波をまともに受けてシアは大きく吹き飛ばされる。
「シアさん!」
ユリンが飛び出し、彼女を受け止めた。
先ほどと同じく魔力の網で。
しかし今度は勢いを殺しきれず、シアと激突してしまう。
「きゃああぁぁ……っ」
二人の少女が苦鳴と悲鳴を上げた。
「はあ、はあ、はあ……」
シアは倒れたまま、立ち上がれない。
限界突破の【加速】を使ったことで、体中の力を使い果たしてしまったようだ。
「まだです……今度は私が!」
ユリンが立ち上がり、魔力弾を放つ。
「無駄だ」
が、マルゴはこともなげにそれらを剣で切り裂いてしまった。
さらにユリンが火炎や雷撃の術を放つが、いずれもマルゴに斬り散らされ、あるいは彼がまとった風の防御フィールドに弾かれた。
「くっ……」
やがて魔力を使い果たしたのか、ユリンがその場に崩れ落ちる。
「二人とも戦う力は残っていないようだな」
マルゴが悠然と近づく。
一方のシアとユリンは、いずれも立ち上がれない。
勝てない──。
そんな絶望で立ち上がる気力も湧いてこない。
「勝負あったな。クロムが戻ってくるまでに──君たちを私のものにしよう」
マルゴがこちらに向かって手を伸ばした。
欲望のこもった視線に怖気が走る。
「い、嫌……」
シアは倒れたまま、首を左右に振った。
「嫌……あなたなんかに! 嫌っ、助けてクロム様──」
瞳に涙を浮かべ、叫ぶ。
主の名前を。
大切な人の名を──。
「……むっ!?」
マルゴが突然跳び下がった。
一瞬前まで彼がいた場所には、黒い槍が突き立っていた。
「これは──」
否、よく見れば槍ではない。
先端の刃も、長い柄も──鎖が変化したものだ。
「ああ……」
シアはユリンとともに甘い吐息をもらした。
待ち焦がれていた人物の帰還に胸を疼かせて。
「待たせて悪かったな、二人とも」
右手から黒い鎖を吊り下げたクロムが、そこに立っていた。
※
「戻ってきたのか、クロム」
マルゴが俺のほうを振り向いた。
「お前への復讐を終えずに去るわけがないだろう」
俺は鼻を鳴らす。
槍に変じた鎖を手元に引き寄せた。
新たに得た、俺の【鎖】の能力──あらゆる武器への変化機能。
といっても、こんなものでマルゴを倒せるとは思っていない。
さっき放ったのは、あくまでも牽制のためだ。
おかげで奴がシアやユリンに近づくことを阻止できた。
「二人とも離れていてくれ。それからユリンはシアの手当てを頼む」
「はい、クロム様」
ユリンがうなずき、シアに治癒術をかける。
「クロム……様……」
シアが上気した顔で俺を見つめていた。
「……すみません、あたし……弱くて……」
「よく頑張った。あとは俺が引き受ける」
言いながら、胸がずきんと痛む。
痛々しく血まみれになったシアの姿を目にしたからだ。
許せない──。
心の奥からドス黒い憎悪がこみ上げる。
奴には二年前の恨みがある。
他の勇者パーティメンバーと同じく、俺を裏切り、見捨て、生贄にして殺そうとした。
それに対する憎しみと怒り。
だが、今はそれだけじゃない。
シアを傷つけられた怒りが、俺の憎しみをさらに煽り立てていた。
【大事なお知らせ】
書籍版2巻がいよいよ明日3月30日に発売されます! 3巻以降につなげていくためにも、ぜひよろしくお願いします~!
2巻の書影です↓
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