20 少女たちの戦い2
「まずは足を斬る──えっ!?」
繰り出した斬撃は、強い圧力によって弾き返された。
まるで目に見えない壁に当たったかのように。
「魔法武具『七十七式疾風雷王剣』──私の剣は風を操る。その力で風圧の盾を生み出した」
淡々と告げるマルゴ。
「ただの風圧で、あたしの【切断】が……!?」
「むろん、単なる風では無理だ。君の力が【闇】をまとっていることは感じ取っていた。ゆえに」
マルゴの全身から白と黒の入り混じったオーラが立ち上った。
「風圧の盾を【混沌】の力でコーティングし、強化した」
「【混沌】の力……」
「君の力は確かに強大だ。だが、しょせんはクロムから授かったまがい物の【闇】。私が二年間磨き上げてきた【混沌】を切り裂くほどではなかったようだな」
勝ち誇る英雄騎士。
「解答編はここまでだ。君のような美しい少女を斬らなければならないのが……残念だよ!」
振り向きざまに放たれた斬撃を、シアは【加速】で逃れた。
が、その前方にマルゴが現れる。
「そんな!?」
速すぎる──。
「私は歴戦の英雄騎士だ! 剣の素人の君の動きなど、簡単に先読みできる!」
マルゴが旋回させた剣は、渦巻く風の刃となってシアを切り裂いた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ……!」
血まみれになって吹き飛ぶシア。
「シアさん!」
ユリンが空中で受け止めてくれた。
彼女が魔力で作り出した不可視の網によって。
「ありがと、ユリンちゃん」
「大丈夫ですか、シアさん! 今、治療を……」
ユリンは魔力の網を操ってシアを下ろすと、すぐに治癒の術をかけてくれた。
傷がゆっくりと塞がり、痛みも薄らいでいく。
が、血を失っているのは変わらない。
受けたダメージや疲労までは回復できない。
「やっぱり、強い……」
シアはうめいた。
悔しいが、自分が勝てる相手ではなさそうだ。
たとえ、ユリンと組んでも──。
「シアさん……」
「大丈夫。クロム様は必ず戻ってくる。それまで、あたしたちで持ちこたえよう」
「……はい」
シアはユリンとうなずき合い、ふたたびマルゴと対峙した。
意識が少しずつ薄れていく──。
血を失いすぎたのだろうか。
シアは剣を握り直した。
視界が、かすみ始めている。
マルゴの姿がぼんやりとして見えた。
「クロムが戻るまで耐える……か。けなげなことだ」
嘲笑する中年騎士。
「私との実力差は理解しているだろう? なぜ私に従わん? なぜクロムを選ぶ?」
「あたしは……あの方に救われた」
シアはまっすぐにマルゴを見据えた。
「姉を殺された復讐を、あの方は成し遂げてくれた。だから、あたしも前に進むことができた。だから今度は、あたしがあの方の役に立ちたい。あの方の力になりたい」
「私も同じです。クロム様に救っていただいた。だから少しでも役に立ちたいです。あの方にいただいた──この力で」
ユリンが同じくマルゴを見据える。
「ふん、恩義のため、か」
中年騎士はふたたび嘲笑した。
「……恩義、だけじゃない」
シアが唇をかみしめる。
「クロム様と旅をするようになってから、あたしはあの方の戦いをずっと見てきた。あの方の怒りや悲しみ、苦しみをずっと見てきた。孤独なあの方を──ずっと!」
剣を構える。
刀身から発せられる赤と黒の光が、さらに強まった。
「あたしはクロム様の側にいたい。わずかでもあの方の苦しみや悲しみを癒せるなら、あたしは──あたしにできることを全部したい! だから!」
地を蹴る。
両足を包むブーツから、赤と黒に輝く粒子が噴出された。
最大限の【加速】。
いや、その最大出力をさらに��えて、どこまでも【加速】する──。
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