15 闇と英雄騎士1
人と魔族の大戦──。
ユリンのスキルによって、人間と魔族の大軍同士の激突を察知した俺たちは、すぐに遺跡を出た。
「ユリン、さっきの正確な場所は分かるか」
「はい。少しお待ちください……ええと、【遠隔鏡像】をもっと拡大したり詳細を出したり……どの術だったかな……えとえと……」
まだ『魔人』としてスキルを使うことにあまり慣れてないらしく、ユリンはあたふたしていた。
「落ち着いて、ユリンちゃん。肩に力が入ってるよ」
シアが横から彼女を抱きしめ、両肩をもむ。
「えへへ、クロム様にいいところを見せたいと思って。ちょっと気負ってしまいました~」
「慌てることはない」
俺はユリンに言った。
「お前の力は以前より上がっているみたいだからな。その力に戸惑うのも無理はないだろ。ゆっくりでもいいから、確実に術を使って感知してくれ」
「はい、クロム様」
俺を見つめるユリンの目はトロンとしていた。
陶酔したような瞳だ。
「では──映像の詳細を出します。【遠隔鏡像・詳細表示】」
ふうっ、と息をついて、ユリンがふたたび術を発動した。
ヴ……ン。
前方に丸い鏡のようなものが現れ、そこに映像が映し出される。
地平線まで続く草原で戦いが行われていた。
おそらくシャーディ王国東部にあるディオル大草原だろう。
マントとフード姿の巨大な骸骨が魔族軍を率い、数千数万の騎士や兵士と戦っていた。
骸骨魔族が無数の魔法を放ち、人間たちを蹴散らしていく。
その配下の魔族たちもそれぞれ人間たちを次々に倒していく。
強い──。
かつての魔王軍十三幹部が率いる精鋭軍と同等か、それ以上かもしれない。
突然、空に一人の騎士の姿が映し出された。
「あいつは……!」
マルゴだ。
半透明の姿をしたマルゴが悠然とたたずんでいる。
まるで、魔族の軍勢の主のように。
「なんだ、一体──」
「分かりません。突然、映像にマルゴさんの姿が割りこんできて──」
戸惑ったように首を振るユリン。
「もしかしたら、この戦いにマルゴさんが絡んでいる、ということを示しているのかもしれません。すみません、まだこのスキルに慣れていなくて……」
「行ってみるか」
謝るユリンを制し、俺は言った。
「これほど大規模な戦いに奴がかかわっているなら、なんらかの目的があるだろう。あいつのことだから、英雄騎士としての栄誉とかそういうものを求めているんじゃないか?」
口元に嘲りの笑みを浮かべる。
「だったら、それを徹底的に破壊してやる。奴に対する復讐としては悪くない」
「ですが、これだけ大規模な戦場では危険が──」
警告するユリン。
「危険?」
俺の全身から黒い鱗粉が吹き上がった。
【固定ダメージ】の
「【固定ダメージ】があるかぎり、どんな魔族だろうと人間だろうと俺たちに危険を及ぼすことはできない。最短距離でマルゴの下へ向かうぞ」
この魔族軍の大侵攻に、あいつは必ず一枚かんでいるだろう。
清廉な英雄様の、本当の姿を見てやるとするか。
数日の行程を経て、俺たちはシャーディ王国へとやって来た。
本来ならもっとかかる距離なのだが、ユリンの魔人としてのスキルを併用しながらの旅路だったおかげで、想定よりもかなり早く着くことができた。
俺たちはユリンの映像で見た大草原へと向かう。
その道すがら、
「おい、どこに行くつもりだ、人間?」
「ここから先は我ら魔族軍のテリトリー! 人間ごときが通れると思うな!」
大量の魔族が俺たちの前に立ちはだかった。
鬼人にバジリスク、ブロンズゴーレム、ファイアマンティコア……様々な種族の混成軍である。
その総数は100を下らないだろう。
なるほど、すでにここまで戦線が拡大しているということか。
「通る、と言ったら?」
俺は彼らの脅しを意に介さず、言った。
背後にはシアとユリンが控えている。
二人とも臨戦態勢だが──まあ、彼女たちの助けは不要だろう。
「舐めやがって! てめえは殺す!」
「後ろの二人は上玉だ! 生かして捕らえろ!」
魔族たちが雄たけびを上げて襲い掛かってくる。
次の瞬間、すさまじい悲鳴と絶叫が響き渡った。
飛び散る血しぶき。
肉と骨の砕ける音。
まさしく阿鼻叫喚だ。
俺の進路に沿って、魔族たちが無数の光の粒子となって消滅していく。
【闇】のEXスキル【固定ダメージ】を止められるものなど、いない。
「シア、ユリン、俺から離れるな」
「はい、クロム様」
背後に声をかけると、二人が同時に答えた。
立ちはだかる魔族を片っ端から消し飛ばしながら、俺たちはまっすぐに進む。
マルゴのいる戦場を目指して。
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