9 かつての友に決着を
届かないかなーと思っていた日間ハイファンタジーの表紙入りですが、夜の更新でどうにか入ってました。読んでくださった方、ブクマ評価入れてくださった方、全員に感謝です。
ありがとうございました!
「まず教えておいてやる。俺の力は『効果範囲内の対象に固定ダメージを与えること』だ」
「固定……ダメージ……?」
ライオットはへたりこんだまま、起き上がれないようだ。
「ダメージ数値は『9999』。お前が持っていたのは『
確か『封魔の紋章』の効果範囲は20メートル。
その範囲内に俺のスキル効果が触れ、護符にダメージを与えたんだろう。
「う、嘘だ、そんなスキル……聞いたことがない」
「お前の宝具が壊れたのが証拠だ」
おびえるライオットに俺は冷ややかに言い放った。
「うう……」
「もう一度言うぞ。ダメージ数値は『9999』。俺のスキルの範囲内に入った瞬間、お前をそれだけのダメージが襲う」
「ううう……」
ライオットの顔は蒼白だ。
百の魔族にすら単騎で戦いを挑む、パーティ一の勇猛果敢な戦士。
そう称えられた偉大な英雄ライオットも、絶対的な『死』の力の前にはこんなものか。
──俺があの日味わった恐怖と絶望を、少しはお前も味わえているか、ライオット?
心の芯から暗い愉悦が湧き上がった。
「勇者パーティの一員である偉大な戦士ライオットなら耐えられるかな?」
「む、無茶言うな! 9999なんて魔王の幹部クラスですら、下手すりゃ瀕死だろうが! 死ぬ! 絶対死ぬ……!」
「じゃあ、範囲内に入ったときが、お前の最期だな」
俺は無造作に歩みを進める。
「一歩ずつだ。俺が歩みを進めるたびに恐怖しろ、ライオット。泣き叫べ。悲鳴を上げろ」
「よ、よせ……」
「あの日の俺と同じように──絶望を味わうがいい」
「く、来るな……来るなぁっ!」
ライオットが必死の形相で後ずさった。
腰が抜けているらしく、歴戦の勇士とは思えないほど弱々しい足取りで。
「お前たち、何をしている! そいつを矢で射殺せ!」
と、背後の兵に命令する。
「公爵を守れ!」
警備兵たちはいっせいに弓に矢をつがえた。
無数の矢が雨のように降り注ぐ。
「シア、俺から離れるな」
かたわらの少女に告げた。
「離れたら死ぬぞ」
「は、はい」
俺の袖をつかむシア。
直後、矢群が俺に向かってきて──、
すべて、消滅した。
「は……!?」
ライオットは呆然と目を見開いた。
「言ったはずだ。俺のスキルは『効果範囲内の対象すべてに固定ダメージを与える』と」
俺は傲然と言い放つ。
「その『対象』は人間だけじゃない。俺を傷つけようとするものすべて──矢だろうが魔法だろうが同じだ。まあ、9999ダメージに耐えられる矢、なんてものが存在すれば、あるいは俺を傷つけられるかもしれんな」
「く、くそ、お前たち、直接奴に斬りかかれ! なんでもいいから俺を守れぇっ!」
ライオットは絶叫した。
「で、ですが……」
「だ、だって、近づいたら絶対死にますし……」
が、警備兵たちは躊躇した様子だ。
今までの攻防を見ていれば、当然だろう。
俺のスキルの効果内に入ったとたん、確実に命を失うのだ。
「ううう……」
警備兵たちは青ざめた顔で後退した。
「お前ら……!」
「ライオット、どうやら命懸けでお前に忠誠を誓う者はいないようだな」
俺はさらに進む。
視界の端に浮かぶ、対象との距離数値を確認した。
浮かんでいる数字は『18』だった。
あと8メートルで効果範囲か。
ライオットを即死させるのは本意じゃない。
じわじわと恐怖と絶望で苦しませてやる──。
残りの距離は17メートル。
俺はゆっくりと歩みを進める。
「どうする、ライオット? 戦士らしく立ち向かうか?」
「い、嫌だ……せっかく魔王を倒して、地位も名誉も富も……全部、手に入れて……こんなあっけなく……嫌だ……」
震えながら首を左右に振るライオット。
残り16メートル。
「た、助けてくれ……助けてくれぇ……!」
ライオットはその場に這いつくばった。
地面に額を擦りつけ、詫びる。
「許してくれ! い、いや許してください、クロム様ぁ!」
「命乞い、か」
残り15メートル。
俺はライオットとの距離をじりじりと詰めていく。
一息に奴の元まで行かないのは、わざとだ。
俺の一歩一歩が、奴にとって死へのカウントダウン。
その間にたっぷりと思い知らさなければならない。
信頼を裏切る──この世でもっとも重い罪を犯した、奴に。
「俺はずっとお前のことを仲間だと思っていた」
残り14メートル。
「クロム……」
「友だと思っていた」
残り13メートル。
「大切だと思った。命に代えてもお前を……お前たち仲間を守りたい、と。俺にとっての魔王討伐は、結局のところそれが動機だった」
かつて抱いていた想いを述懐する。
自戒を込めて。
「世界を救う、なんて正直ピンと来ない話だ。だけど身近にいる大切な仲間たちを守るってことなら、俺にも理解できる。だから戦えた。どんなに強大な魔族が相手でも、勇気が湧いてきた」
残り12メートル。
「だが、踏みにじられた」
噛みしめた唇が破れ、血が流れ出す。
熱い痛みが走るが、どうでもよかった。
「俺がもっとも大切にしていた想いのすべては……あの日、失われた。俺は空っぽになった」
残り11メートル。
「ま、待て! そ、そうだ、俺は反対したんだ! お前を──生涯の友であるお前に、そんなひどいことはできないって! だけどユーノたちが無理やり……あれは、俺の本意じゃなかった! し、信じてくれ……!」
ライオットが恐怖にかすれた声で叫んだ。
「今さら、だな。そんな都合のいい話が通るわけがないだろう」
嘲笑する俺。
さあ、いよいよ──効果範囲内まで、あとわずかだ。
「お前たちに捨てられた後、俺はこのまま死ぬのかと思った。だけど、まだ終われない、と俺の中の何かが叫んでいた。決着をつけなければ──と」
俺はライオットを見下ろす。
「た、た、助け……だずげでぐだざぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ……!」
奴も、俺が残り1メートルの距離を詰めれば死ぬ、と悟ったのだろう。
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら哀願した。
股間が濡れ、湯気を立てている。
恐怖のあまり失禁したか。
もはや矜持も闘志も、何もない。
いや、もしかしたら──最初から奴はそんなものを持ち合わせていなかったのかもしれないな。
今の、欲望まみれの自堕落な『ライオット公爵』の姿から考えると、きっとそれこそが奴の本性だったんだろう。
勇猛で鳴らした勇者パーティの戦士ライオットが、みじめな末路だ。
「な、なあ、俺たち仲間だっただろ……あれは、そう、気の迷いだったんだ! 魔が差したんだよ! 助けてくれ……助けてくれぇぇぇぇぇ……!」
──あの日、仲間たちから投げかけられた言葉が脳裏をよぎる。
『全員で決めたんだ』
『勇者を強くするために』
『犠牲になるのはお前だ』
『誰だって死にたくはない』
『大丈夫だ、彼女は僕が幸せにする』
『ごめんなさい、クロム。あなたのことは忘れません』
俺は一歩踏み出した。
残り50センチ。
あと一歩だ。
「俺も仲間だと思っていたよ」
あらためてライオットを見つめた。
かつての仲間。
かつての友。
だけど、今は。
だからこそ、今は──、
「ここにはもういない」
踏み出す。
効果範囲内に──到達した。
「俺の仲間だったライオットは──粗暴だけど、仲間思いで優しかった、あのライオットは」
「ぐ、ぎ、あぁぁぁぁぁぁぁ……ぁぁぁ……ぁぁっ……!」
絶叫とともに血しぶきを上げ、やがて消滅するライオット。
「もう、どこにもいない」
そして、俺の復讐が──その第一歩が終わった。
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