13 ふたたびの大戦2
「スキル【変化・竜戦人形態】!」
聖剣を掲げた少女の全身から稲妻が弾けた。
バチッ、バチィッ……!
まばゆいスパークを発しながら、ヴィオレッタの全身が激しく震える。
身に着けた衣服が弾け散り、なだらかな裸身があらわになった。
抜けるように白い肌が緑色の鱗に覆われていく。
背中から翼が、尻の付け根から尾が、四肢の先端に爪が備わる。
そして、側頭部からは禍々しい二本の角が。
「ぐうううううおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああがああっ!」
竜と人の中間のような姿になったヴィオレッタは、どう猛な雄たけびを上げた。
「ふうっ、この【竜戦人】になった以上──お前たちは確実に死ぬ。覚悟はOK?」
ヴィオレッタが金色に変じた瞳を魔族たちに向ける。
どしん、と尾で叩いた地面に亀裂が走った。
全身から発する
信じられないほどの膨大な闘気だ。
最強の代名詞たる竜の力を宿した、超常の戦士──。
その変身能力こそが、竜属性聖剣『イオ』を操る勇者ヴィオレッタの真骨頂である。
「変身した……だと……!?」
「ひ、ひるむな、相手はたかが一人!」
「全員でかかれば──」
魔族軍はひるみつつも、四方から一斉に飛びかかった。
「全員でかかれば……何?」
ヴィオレッタは小さく鼻を鳴らした。
背中の翼を広げ、そこから魔力の粒子を吹き出して加速する。
少女勇者の突進とともに衝撃波が吹き荒れた。
一瞬にしてヴィオレッタが音速の領域まで加速したのだ。
「ぐるるうううるおおおおおおおおおおおおんっ」
咆哮。
目にもとまらぬスピードで駆け抜けた竜少女が聖剣を縦横に振るう。
血の雨が、降り注いだ。
わずか三秒。
百を超える魔族は、すべてが無数の肉片に切り刻まれて転がる。
「力が、湧いてくる──ふふ、まだまだ戦えるよ、あたし」
ヴィオレッタは好戦的な笑みを浮かべて、残りの魔族たちを見据えた。
「さあ、どんどん来てよ。存分に殺し合おうねっ」
「ひ、ひいっ……」
魔族たちは恐怖の表情で後ずさった。
強い──。
マルゴは息を呑む。
「はああああああああああああああああああああっ!」
ヴィオレッタが咆哮した。
全身からオーラを吹き上がる。
先ほどよりも、さらに濃密な闘気だった。
成層圏まで届きそうなほどの強大な、闘気だ。
「まさか、この力は──【
マルゴは愕然とうめいた。
「馬鹿な……!? 奴に──ヴィオレッタ・メザに、ここまでの力はなかったはず……」
二年前の魔王との戦いにおいて、禁呪法『闇の鎖』を使い、パーティの仲間だったクロム・ウォーカーを生け贄に捧げることで、ユーノの聖剣『ヴァイス』は【アーク】へと進化できた。
禁呪法以外にいくつもの魔導儀式を周到に準備したうえで、ようやく進化できたのだ。
それをヴィオレッタは──自力で到達しようとしている。
いや、彼女だけではない。
先日戦った勇者ハロルドもそうだった。
彼が持つ風属性の聖剣『ガーレヴ』もまた【アーク】へと進化しかかっていた。
「どういうことだ……」
マルゴは眉を寄せる。
彼らの意志力がそれだけ強大だということか。
あるいは──。
「何かが起きているのか……そう、聖剣の力が増大するような何かが……」
【光】と【闇】は互いに干渉し、その力を高め合う。
ならば、どこかで強大な【光】か【闇】が生まれたことで、それを呼び水に各地の【光】と【闇】が強まり始めた……!?
あくまでも仮説だ。
だが、マルゴの中にはその仮��が真実だという予感があった。
そして、その呼び水となった存在とは──。
「原因は奴なのか」
脳裏に浮かんだのは、銀髪の青年。
双眸に復讐の炎を燃やした、かつての仲間。
「クロム・ウォーカー……君の存在こそが」
つぶやきつつマルゴは映像を注視する。
さらなる激闘が展開されていた。
「さあ狩ってあげるね、魔族たちっ!」
竜少女が突進する。
爪が、閃く。
尾が、うなる。
圧倒的な白兵戦能力で、魔族たちを次々と倒していく。
「ば、化け物……!」
「に、逃げろ──」
恐れをなした残りの魔族たちが背を向けて逃げ出した。
「逃がさない! 【
ヴィオレッタの口から青白く輝く炎が放たれた。
魔力で生み出したドラゴンブレスだ。
ブレスは放射状に広がり、逃げ惑う魔族たちを残らず消滅させた。
最後方に位置していた数十体をのぞき、ほとんどの魔族が消し飛んでいる。
「わずか数分で我が軍が壊滅状態とは……」
その数十体の魔族の後ろから、巨大なシルエットが進み出る。
身長は5メートルほど。
魔術師のようなフードとローブを身に着けた骸骨の魔物だ。
「ほう、ナーバムが出てきたか。一軍を統括する幹部魔族を引っ張り出すとは……さすがに勇者だな」
うなるマルゴ。
魔族ナーバム。
アンデッドの王とも呼ばれる『
その実力はラギオスやフランジュラスら『十三幹部』に匹敵するほど。
「さて、これをどう攻略する、勇者殿」
マルゴはつぶやいた。
もしナーバムまで敗れるようなことがあれば──。
自分が直接出向かねばなるまい。